2台のトミーカイラZZが運んできてくれた様々な出会いと絆
取材会当日は、時折晴れ間が覗くものの、冷たい小雨がパラつき体感的な気温は5〜6度程というあいにくの天候であった。そんな中、歯切れの良いエキゾーストサウンドを奏でながら颯爽と現れた白いトミーカイラZZ。
タイトなキャビンを取り囲むロールケージの隙間からするりと抜け出し、「全然大丈夫ですよ、寒さは慣れっこですから!」と、余裕の笑顔を浮かべる。
そんなオーナーである『猪突猛進』さんは、生産台数が少なく希少価値もあるこの『トミーカイラZZ』を、なんと2台所有されているというから驚いてしまう。
1台目のZZを手に入れたのは今から15年前のこと。トヨタ・カリーナクーペ(AA63)でドリフト走行にのめり込み、ホンダ・CR-X(EF8)やポルシェ911(964) でもサーキット周回を重ねるなど、スポーツカーばかりを乗り継いできたという。
ZZは1997年の発売当初から憧れていたクルマで、当時京都にあったトミーカイラの本社、『トミタ夢工場』まで現車を見に行ったものの、500万円にも迫る販売価格。まだ20代だった猪突猛進さんにはあまりにも高いハードルであり、泣く泣く購入を断念するしかなかったそうだ。
それから10数年が経過し、ZZのことも頭の中から忘れかけようとしていたある日、何気なく眺めていたインターネット上で中古車物件を発見。生産台数が200台+αの希少車ゆえ、きっとすぐに売れてしまうだろうと、冷やかし半分に販売店側に連絡したところ『まだありますヨ』との回答が。
「ちょうど息子が生まれた頃で、将来に備えて色々と出費が必要になることは分かっていたつもりですが、この機会を逃すともう二度と出会えないかもと、理性より物欲が先行しちゃいました。群馬のショップさんだったので東京の友人に下見をお願いしたところ、“悪くないヨ”との返事があり、実車を見ることなく購入を決めました。嫁さんには買った後に報告したので、何だかんだ言われたような気もしますが、よく覚えていません(笑)」
スポーツカーファンならご存知の通り、ZZはレーシングカーデザイナー由良拓也氏の手によって造形されたFRP製ボディを持ち、アルミ押し出し材をツインチューブ構成としたモノコックシャーシで構成される。
エンジンはNA(自然吸気)・FCRキャブレター仕様の日産SR20DEをミッドシップに搭載。690kgと軽量な車両重量に対して最高出力は180psと、パワーウエイトレシオ4kg/ps以下という凄まじさだ。
これらのスペックを見るだけでもポテンシャルの高さを容易に想像できるだろうが、実車のドライバビリティはその予想を遥かに上回り、感動すら覚えるほどの素晴らしさだったという。
「まんま、レーシングカートですね。ピロボールジョイントのサスペンションやマスターバック無しのブレーキシステムなど、すべての動きがダイレクトで、乗り手がしっかりコントロールしてあげないとキチンと走ってくれません。600psとか800psのチューニングカーもスゴイけど、私は身軽なクルマが好きなので。海外のストリートフォーミュラ風のクルマもいくつか試す機会がありましたが、意外と乗り味はどれも普通で、ZZほどのインパクトは感じられなかったですね」
そんな研ぎ澄まされた操縦性に対し、剥き出しのキャビンはサイドカーテンすら持たず、雨風をしのぐ物と言えば特徴的なダブルバブル形状のFRPのルーフパネルのみ。お世辞にも長距離走行向きとは言えないキャラクターながら、猪突猛進さんは容赦無く長距離ツーリングにも使用する。購入と同時期に誕生した一人息子が3歳になる頃には、助手席にチャイルドシートを取り付け、京都まで何度も出掛けたことがあるという。
ところが今から3年ほど前。走行中にフロントのロワアームが破断してしまう。自身にケガは無かったものの、FRP製のカウルはもとよりフレームにもダメージを負ってしまい、長期の修理期間を余儀なくされてしまった。
幸い、カウル以外の補修部品は、トミーカイラが手掛けてきた各モデルのアフターフォローを行なうメーカー(元トミタ夢工場に在籍していたスタッフが設立)からの手配が可能だった。しかしながら、いかんせん手作りの部分も多く、すべてのパーツが揃うまで1年以上の時間を要することに。
そして数ケ月後、パーツの準備も整ってようやく修理へのメドが立った頃に、思わぬ話が飛び込んでくる。それは自営業を営みながら、災害ボランティア活動を積極的に行なっている、埼玉県在住のZZ仲間からの相談だった。
「熊本でのボランティア活動の帰り道に“ちょっと会わないか”と、連絡を頂きました。長年所有していたZZを手放すという話でした。最初は私の友人に打診してみたそうですが、保管場所の都合などで折り合いがつかず、それならば、と私が引き受けることにしました。2年近く修理に預けたまま、手元にZZが無い状態が長く続いていた渇望感もあったし、将来息子が乗る時のために取っておこうという気持ちもありました」
「前オーナーさんも私が預かることをとても喜んで下さって、こちらとしても良かったと思います。積載車のレンタカーを借りて埼玉まで往復2000kmをかけて取りに行きましたヨ」
こうして異例とも言えるZZの2台体制が確立された。
赤い1号機は、4灯式のヘッドライトのカウルが装着されているのが最大の特徴。そして、昨年譲り受けた白い2号機のエンジンは、東名パワード謹製のスペシャルコンプリート仕様に換装されている。このように、それぞれ広範囲に渡って独自のモディファイが施されているのだ。
ちなみに、息子さんは物心つかない頃からZZが傍らにある生活に慣れ親しんでいたこともあってか、クルマが大好きでZZのルーフ脱着作業も手慣れたもの。この春からはローイングというボート競技の強化選手としてスカウトを受け、親元を離れ福井県にある強豪校への進学が決まっているという。
クルマ好きの中には『往年の名車はフルオリジナルこそベストだ』という意見もある。しかし、この点についてはZZの開発者の一人である解良喜久雄氏からのお墨付きを貰っているという。
「以前、とあるZZのミーティングで解良さんとお会いする機会があって、私のクルマを見て頂いたんです。私が“あちこち好き勝手にイジってスミマセン”と言うと、『どんどんイジって下さい』という答えが返ってきました。解良さんによると、ZZは発売時の状態では7割の完成度で、あとの3割は乗り手の方々が自由な発想で育てて行ってほしいという想いが込められていたそうなんです。このクルマに乗ることによって解良さんや富田さん(トミタ夢工場元代表の富田義一氏)をはじめ、元レーシングドライバーの寺田陽次郎さんなど、普段出会えない方々とのご縁と巡り合うことができました。今まで乗り続けてきて本当に良かったと思います」
本来であれば、今回の取材会には長年所有してきた赤い1号機で参加するのがセオリーのような気がしていた。
しかし、ここで敢えて2号機を選んだのは、このクルマの前オーナーさんに『ちゃんと元気で走っていますよ』という姿を見せて、安心してもらいたかったからだという思いを知り、胸が熱くなった。
ZZには究極のライトウエイト&ピュアスポーツとしての機能美だけでなく、人と人との絆をより深める、理屈を超えた不思議な力も備えられていたようだ。
(文: 高橋陽介 / 撮影: 西野キヨシ)
許可を得て取材を行っています
取材場所:呉ポートピアパーク(広島県呉市天応大浜3丁目2-3)
[GAZOO編集部]
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