生粋のスバリストが作り上げるレオーネのラリーレプリカ。その完成形は?
『幸運の女神には前髪しかない』とはよく聞く例え話だが『四駆じじい』さんの場合は幸運の女神が舞い戻って来るというレアなケースに恵まれた。望みのマイカーを掴むチャンスは機先を制することも大事だが、一度握った前髪を離さない握力も同じくらい大事なようである。
自他ともに認めるスバリストの四駆じじいさんがスバル好きになったのは、母と、母方の祖父の影響。祖父は長野出身で、4WDが当たり前な環境だったため自然とスバル車を愛用し、その娘である母もレオーネやレガシィを乗り継いだ。それが幼少期の四駆じじいさんに、強烈なすり込みをもたらしたわけである。
ある意味、純粋培養的にスバリストへと成長した四駆じじいさんは、大学に入ると初めて自分のクルマとしてGC8型の初代インプレッサを購入。それから4台のGC8を乗り継いだ後、初代レガシィやGRB型のインプレッサにも乗った。
四駆じじいさんの年齢(取材時に37歳)を考えると、全体的な車歴はなかなか渋い選択ばかりと言っていいだろう。その時の最新型よりも、ちょっと古いモデルに惹かれるのは、祖父や母の影響もさることながら、WRCで活躍していた時代のスバルが好きだから、というのも大きな理由だそうだ。
「たしか子供の頃に母に連れられて行ったスバルのディーラーで、555カラーの初代インプレッサのグッズをもらったんだと思うんですよね。それがカッコよくて、子供心に強く印象付けられました。それで初めて買ったインプもGC8だったんですけど、その時からずっと、愛車でラリーレプリカを作るのが習慣になっているんです(笑)」
GRBを購入した頃には、もはやレプリカを作るだけでは飽き足らなくなり、自らダートを走ったり、コ・ドライバーとしてラリーの競技会に参加するように。ただ、それはそれで打ち込もうとすればするほど時間や金銭の面で難しい部分も出てきてしまい、残念ながら手放すことになってしまった。
「それで、次はまた初代レガシィに乗ろうかなという気持ちで探していたんですけど、その時にたまたま見つかったのが今のレオーネなんです。実は祖父が乗っていたのもレオーネのRXターボで、いつかは乗ってみたいクルマでもあったんですよね。静岡の中古車屋さんだったんですけど、勢いでそのまま見に行っちゃいました(笑)」
自分がスバル好きになるきっかけを作ってくれた祖父の思い出も呼び起こすレオーネに、すっかり興味が傾いた四駆じじいさん。静岡のお店で現車確認をした後、1ヵ月ほど悩み抜いた末、よし買おう! と決心がついたのだが、なんとタッチの差で別の人に売却された後だった。
「買うつもりになっていたので、その時は本当に残念な気持ちでいっぱいになりました。諦めるしかないだろうと考えていたんですけど、それからしばらくしてX(旧Twitter)のTLに、そのレオーネと思しき投稿が流れてきたんです。読んでみると、フロントガラスに飛び石の傷があって、そのままだと車検を通せないから修理できる業者さんを探しているという内容でした。それで、もしかしてと思って、あらためて中古車屋さんに問い合わせてみたら、結局ガラスを直せないから先に購入された方への納車がキャンセルになったところだったんです!」
まさに女神が舞い戻って来たと感じた四駆じじいさん。そこは叩き上げのスバリストらしく、豊富な情報網と人脈を活かせば直せるはず!? という、ちょっとした確信もあり、そのままでいいので自分に売って欲しいと交渉。遂に念願のレオーネをゲットすることに成功したのである。
「フロントガラス自体は中国製の新品をインターネットで見つけることができていたので、問題は周囲のゴムモールだと最初から考えていました。おそらく現状でついているものが再利用できるんじゃないかと踏んで購入に踏み切ったんですけど、予想通りそのまま使えたのはラッキーでしたね。ガラスの交換作業も、知り合いの業者さんにアドバイスをいただきながら、DIYで済ませることができました」
屈託のない笑顔を浮かべながら、レオーネを手に入れた時の喜びを語る四駆じじいさん。その笑顔は、もしもゴムモールが再利用できなかったとしても、この人ならきっと他の手を使って何とかしたんだろうな、という意志の強さを感じさせた。女神の前髪を掴んで離さない握力とは、つまり想いの強さにほかならない。
そうした経緯で四駆じじいさんのもとへとやってきた1989年式のスバル・レオーネ(AA3)。
“世界初の量産4WD”という代名詞で有名だが、四駆じじいさんが乗るレオーネは最終型にあたる三世代目のモデルだ。当時の主力は1.8リッター車だったが、こちらはEA71型の1.6リッター水平対向4気筒の自然吸気エンジンを搭載。それに5速MTが組み合わせられる『マイアII』というグレードで、駆動方式はスバル自慢の4WDである。
ひと目でラリーレプリカとわかる仕様は、四駆じじいさんが『当時のラリーファンが乗っているとしたら、こんな感じかな?』と思いを巡らせ、グループA車両をモデルに仕上げた力作。外装のステッカーは画像を参考に図面を自分で起こし、ステッカー屋さんに発注して作ってもらったそうだ。ルーフの真ん中に立っているWRCアンテナは、なんと、ルーフに穴を開けて取り付けたという。
ちなみにグループA車両はCIBIEの丸型4灯のフォグランプを装着しているが、四駆じじいさんは、ある意味もっと貴重かも知れないレオーネの純正フォグランプを採用。黒いカバーを手動でパカっと開ける仕組みになっていて、旧車らしい味わいが微笑ましい。
ホイールは、スバルのお膝元でもある群馬県太田市にあるスバル専門店“KITサービス”が、かつて生産していた『ビッグライト』というモデルの13インチ。レオーネやアルシオーネはPCD140・4Hという珍しい設定だったため、あまりアフターメーカーのホイールがなく、当時から貴重な存在としてスバル乗りに愛された逸品である。マッドフラップはインプレッサ用を流用し、四駆じじいさん自身がスバルの旧ロゴをあしらって製作。
時代感の演出にと、リヤエンドやリヤウインドウにはネットオークションで一生懸命探した『プレイドライブ』(モータースポーツを扱う雑誌)のステッカーを貼り付けてある。
砲弾型のマフラーは、グループAと同じような細身のテールパイプを実現したくて、アフターパーツの老舗マフラーメーカーに写真を持ち込み、ワンオフで作ってもらったそうだ。正直、言われなければわからないポイントだが、長年のスバリストとしてのこだわりを感じさせる部分でもある。
そして、そのこだわりはインテリアにも反映されており、運転席にはバックスキンのスポーツステアリングや大型の後付けタコメーターを装備。さらに、助手席前にはラリーコンピューターやマップツイントリップ等が装着されている。また、ペースノートを読むコ・ドラとドライバーが意思疎通を図るためのヘッドセットも用意。
ラリーコンピューターも含め、いずれも完動品ではなく、あくまで雰囲気を伝えるためだけのものではあるが、細部へのこだわりはかなりマニアックだ。
そして、その動かないラリーコンピューターを目の前に見ながら、いつも助手席に座っているのが奥さまだ。奥さまも機械は好きな方で、夫のスバリストとしての一面にも基本的には理解を示しているそうだが、購入からわずか3〜4カ月の間にみるみると変貌していったレオーネには「正直どこに向かっているのか、ゴールが見えずに戸惑っています(笑)」と本音を漏らす。
そんな奥さまと共通の趣味が神社巡りということで、四駆じじいさんは週末になるとレオーネであちこちの神社に出かけることを楽しみにしている。もう何冊も集めたという御朱印帳が、夫婦円満を物語る何よりの証だ。
エンジンはサニトラ用の強化オルタネーターを流用しているほかは、今のところノーマルを維持。だが、四駆じじいさんには次なるビジョンがあるそうだ。
「Facebookを通じて、アメリカのレオーネオーナーさんともコミュニケーションを取っているんですが、向こうではEJ20型の水平対向エンジンに載せ替えている方が結構いらっしゃるんですよね。さすがにEA71型はエンジン自体が古いですし、僕もいずれはEJ20へのコンバートにチャレンジしてみたいと思っています!」
奥さま、ゴールはまだまだ遠く先のようです。
(文: 小林秀雄 / 撮影: 平野 陽)
※許可を得て取材を行っています
取材場所:平城京朱雀門ひろば(奈良県奈良市二条大路南4-6-1)
[GAZOO編集部]
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