クーペスタイル好きがたどり着いたのは、かつて憧れたトヨタ1600GT

  • GAZOO愛車取材会の会場である虹の松原森林浴の森公園で取材したトヨタ1600GT

    トヨタ1600GT

「これ、父ちゃんが欲しかったクルマやない?」
免許を取ったばかりの息子が見せてきた中古車雑誌に掲載されていたのは、トヨタ1600GTの記事だった。
「これ(トヨタ1600GT)、欲しかったもんなー」と、クルマにハマった若かりし頃を懐かしんだという。今から30年ほど前の話だと振り返るのは、御年73歳の本村幸男さん。
高度経済成長期の真っ只中を生き、クルマに対する思い入れもひときわ強かった世代である。20代の頃は、キャロル360を皮切りにファミリア1000クーペ、コロナ1500ハードトップに乗っていたという。
「とにかく“クーペ”の形がカッコ良かったですね。当時の流行だったし、スポーティでスタイルも抜群に良かった」
自身がコロナ1500に乗っていた頃に、トヨタの営業マンがコロナ1600Sハードトップに乗って自宅に来訪した際、あまりのカッコ良さにひと目惚れし「そのクルマを譲ってくれんね!」と、営業マンが乗っていたコロナ1600Sをそのまま買い取ったとか。さらにその後に、もう1台コロナ1600Sハードトップを乗り継いだほど、とにかくトヨタのクーペが大好きだったと笑顔で語ってくれた。

時を同じくして、コロナ1600Sのトップグレードとして存在したのがトヨタ1600GT。レース用ホモロゲーションモデルとして、1年間で2222台しか生産されなかった名車だ。本村さんもトヨタ1600GTの存在を噂では聞いていたが、当時は実際にお目にかかることはなく、いつかは本物のトヨタ1600GTを見てみたいと、密かに憧れていたそうだ。
そうこうしているうちに、仕事、結婚、子育てと追われ、大好きなクルマは後回しに。大事にしていたコロナ1600Sハードトップも手放し、ブラボーコロナの愛称で親しまれた4代目コロナほか、カリーナ数台を乗り継いだという。
「当時、クルマは趣味と言うより、ファミリーカーという道具になっていましたね」

それから月日は流れて息子が18歳になって免許を取得。クルマを探すため息子さんが買っていた中古車雑誌に掲載されていたトヨタ1600GTの記事を目にしたのをキッカケに、大好きだったクルマへの想いが沸々と蘇ってきたという。
そして、その中古車雑誌を隅々まで読んでいると、中古車を個人売買するコーナーにトヨタ1600GTが売りに出ているのを発見。今でも現車が存在しているんだ!?と、ワクワクが止まらなくなってしまい、早速クルマがある宮崎県まで友人とふたりで見に行くことに。到着して、現車を見るやいなや「コレだっ!」と本村さんは直感。その場で購入を決断したという。

その後、車検を通して自走できる状態にしてもらい、1ヶ月後に再び宮崎まで引き取りに行ったという本村さん。しかし、クルマを買ったことは家族に報告しておらず、いきなりトヨタ1600GTに乗って帰ってきたもんだから、家族一同はビックリ仰天。
奥さまからも「昔乗っていたクルマを今頃になってわざわざ買う必要ないでしょ!」と呆れられてしまい、しばらくは気まずい空気が流れていたとか。今となっては笑い話だが、クルマを探していた息子さんも、とても“自分のクルマを買いたい”とは言えない雰囲気となってしまったほどだったらしい。

「なんせ昭和42年式なので、トラブルは重々承知していましたが、購入当初から車両のコンディションは良好とはいえなかったですね。なんとか自力で修理や整備をしていましたが、トヨタにもすでに部品がなかったです。しかも、ミッションなどはトヨタ2000GTと共通とあり、余計に手に入りにくかったんです」

そんな部品が手に入らず途方に暮れていた時、自動車雑誌でトヨタ1600GTオーナーズクラブの存在を知る。すぐさま連絡し、クラブの会長さんにアポイントを取ったそうだ。
「こちらの事情を話したらパーツを分けてくれたりして、クラブの会長さんにはものすごく親切にしていただきました。これで少しずつ部品の調達ができるようになり、トヨタ1600GTの維持ができると安堵したのを覚えています」

ちなみに、すでにトヨタでは販売していないトヨタ1600GT用の保安部品だが、なんと、これらはオーナーズクラブで自主製作して供給しているという。必要な部品があればクラブ内で資金を募り、メンバーがストックしているパーツを元に専門の業者に依頼して作っているそうだ。
「クラブでこれだけの部品を自主製作しているんですよ」と、見せてもらったファイルは分厚く、今まで作ってきた専用のパーツがズラリ。チェーンテンショナーやブッシュ類、フロント&リヤウィンドウ、三角窓用のゴム類等々。本村さんのトヨタ1600GTもクラブ製作の部品にかなり助けられているそうだ。

「エンジンとブレーキのオーバーホールはプロに任せましたが、それ以外の修理や整備は、可能な限り自分で行なっています」
なんでも現行車のパーツも活用しているそうで、窓枠のゴムはシエンタのリヤゲートに使われているゴムを加工。フロントのタイロッドエンドはAE86用が無加工で取り付け可能。さらに、ワゴンR純正コンプレッサーを流用してエアコンを追加で装備するなど、自身で愛車に手をかけていくのも楽しみのひとつとなっている。

トヨタ1600GTを所有して25年目となる2019年には、仕事で使用していた作業小屋を塗装ブースに改造し、ボディの全塗装を敢行。クラブのメンバーが所有していた色見本を頼りに、オリジナルカラーのレザーレッドを調合して作り、塗装が上手な旧車仲間主導のもと、5ヶ月かけて自家塗装。その艶やかなボディの仕上がりは、写真でもお分かりいただけるだろう。

「トヨタ1600GTを買った当初こそ社外パーツを装着していましたが、やっぱりオリジナルが一番良いですね」と、現在はオリジナルの状態を忠実に再現することが何よりのこだわり。特にコクピットまわりがお気に入りで、運転席のシートはオリジナルに近づけてオーナーズクラブが製作したレザーで張り直したものだという。

助手席のシートは当時のままで、ショックアブソーバーやスプリング、ボディサイドのステンレスモールも当時のままというから驚かされる。このコンディションのよさから、これまでに本村さんがどれだけトヨタ1600GTに愛情を注いできたかが良く分かる。
「これらシートほか、フェンダーミラーやワイパー、ミッションはトヨタ2000GTと同じなんです。コロナ1600Sとはパーツも全然違う、レース用として一線を画してしたところもトヨタ1600GTの魅力ですね」

旧車のイベントにも参加していた本村さん。写真は今から25年前、大分で開催されたイベントにて『大分市長賞』を獲得したときのもので、このときの賞品はエンジンオイル1年分だったそうだ。
そして、こうしたイベントに参加していると、自然と集まってくるのが同じようなクルマに乗ったオーナーさんたち。九州には数台のトヨタ1600GTオーナーがいて、イベント等で顔を合わせるとお互いが抱えている愛車の問題等を話し合い、アドバイスを受けたり、パーツを譲り合ったりと助け合うことも。

写真は熊本で開催された旧車イベントの一コマ。シルバーのトヨタ1600GTは佐賀県のオーナーで、イエローは大分県の同志だという。取材会当日も、白い1600GTに乗るオーナーさんが福岡から様子を見に会場を訪れてくれていた。このような仲間と一緒に、元気な愛車で楽しむというのも、本村さんの生きがいとなっているという。
「トヨタ1600GTのパーツが入手できて愛車が維持できるのも、オーナーさん達との繋がりがあったからこそですね」

そして実は、今回の愛車広場出張取材会in佐賀に1600GTで応募したのは、30年前に本村さんとトヨタ1600GTが出会うキッカケとなる中古車雑誌を見せた息子さんの貴幸さん。
取材会当日は2022年にレストアが完成した息子さんのTE27カローラレビンとともに虹の松原に訪れ、親子&2台のツーショットも実現した。
人生を豊かにしてくれた名車トヨタ1600GT物語。終わりなき素敵な愛車ストーリーは、息子さんともども、大切に紡がれていくことだろう。

取材協力:虹の松原森林浴の森公園(佐賀県唐津市浜玉町浜崎)
(文: 櫛橋哲子 / 撮影: 平野 陽)
[GAZOO編集部]