鷹目インプレッサからカーライフの楽しさを学んだ
小学生の頃に、少年マガジンで連載されていた『ジゴロ次五郎』という漫画を読んでクルマ好きになったという『さーちゃん』さん。作中には派手なカスタムを施したクルマたちが登場し、将来は自分もシルビアやスカイラインといったクルマに乗ろうと思うようになったそうだ。
「金曜ロードショーで『ワイルドスピード』が放送される時は絶対に見ていましたし『湾岸ミッドナイト』や『グランツーリスモ』などのゲームにもハマっていました。免許を取るまでは、これで練習を積んでおこう! みたいな感じだったかな(笑)。それが実際に役に立ったかは別ですけどね」
時は過ぎて高校3年生の時。念願だった免許を取るために教習所に通うようになると、それまでよりも世の中が明るくキラキラ輝いていると感じる日々が訪れたという。
ぎこちないながらも、クラッチを繋ぐと少しだけ教習車が前に進み『自分がクルマを動かしている』という事実に感動した。
ゲームではなく、リアルだからこそ感じるハンドルの重みや、靴底から伝わってくるクラッチペダルの重さ、エンジンの振動など、五感のすべてが刺激された。
そして、春から運転している自分を想像すると、学校の授業だと眠くなるのに教習所では嬉しさが上回って「眠気なぞ何処へやら」といった、希望に満ちた時間だったという。
そうして無事に免許を取得し、1台目の愛車に選んだのはスバル・インプレッサ(GD2)。通称『鷹目』と呼ばれるモデルだ。
初めての愛車は「どうしてもコレに乗りたかったか? と言われればそうではなく、本音ではシルビアやスープラが良いと思っていた」そうだ。
富山県では12月下旬から2月中旬まで本格的な雪が降る。特に1月は半分以上が降雪日となり、積雪量の多い日は50cm程度積ることもあるという。しかも、さーちゃんさんのご実家は大通りからずっと奥にあるので雪掻きがされていない道が多く、シルビアに乗っていた叔父さんは前に進むことができずに国道にクルマを置いて帰ってきたこともあったとか。
そんな環境もあって「車高の低いクルマや、後輪駆動のクルマは辞めておきなさい」とご両親から忠告されていたそうだ。さらに維持費のことも考え『古くなくて1500ccまでのクルマ』という条件も追加された。
「シルビアを買うお金が貯まるまで、乗ろうと思っていたんです。どうせすぐに乗り換えるだろうからと、そこそこカッコいいなと思ったインプレッサを選びました」
かくして、当時は高校生だったこともあり親の意見に従うしかなかったさーちゃんさんの初愛車はNAでマニュアルのインプレッサとなった。
本当に欲しくて購入したクルマではないと言いつつも、初めての愛車は誰しも特別な存在であり、それはさーちゃんさんにとっても例外ではなかった。
まだ納車前だというのに友達に自慢したくて中古車ショップまで一緒に行き、納車前の整備中だったインプレッサを見せてもらったりもした。また納車の日に嬉しさのあまり車中泊したら、朝起きるとガラスが結露してベチャベチャになってしまった。
愛機インプレッサで初めて走った公道では『身体中から幸せなオーラが出ているかのようで、嬉しいというのと、楽しいというのと、感動というのと。何が何だか分からなかったけど、人生の中で1番幸せな瞬間だった』と感じたそうだ。まだ不慣れな運転で舞い上がってしまい、4速のまま発進しようとしてエンストしてしまった事すら嬉しかったという。そんな経験も今では良い想い出だ。
「免許を取って2年目に、お世話になっているショップさんから『サーキットで走ってみないか?』と誘われ、実際に走ってみたんですけど…。エンジンのスペックに対して車重が重すぎて、ビックリするほど遅かったんです。それでイジケちゃってね〜(笑)。それを見ていたショップの人から『クルマのせいにせず、どうしたら速くなるか考えなさい』と、アドバイスを頂きました。そんな流れもあって、走りの経験を積むことはもちろんだったのですが、自分が乗りやすいようにクルマをカスタマイズするという事も意識するようになりました」
バケットシートを装着し、ステアリングは握りやすい小径のスエード調のものに交換。よりダイレクトな操作感を楽しめるようにサスペンションをスポーツタイプのものに交換した。また、要らないと思った補強バーなどを外したりと軽量化にも勤しんだ。
そして、タイミングベルトの交換を2回行うなどメンテナンスもおこないながら14万kmを走破したという。
「クルマ好きになるキッカケとなった、“ジゴロ次五郎”のようなカーライフを送る機会をくれたこのクルマが、自分の相棒のような存在に変わっていきました。初めての愛車ということも大きかったですね。カーライフの面白さを教えてもらいましたから。楽しかったから、なんだかんだ8年間も乗ってしまいました」
そして、はじめての愛車でカスタムライフを楽しんできたさーちゃんさんは、2017年に乗り換えた2007年式のインプレッサWRX STI(GDB)とも同様に付き合っている。
1台目とおなじ黒いボディの鷹目インプだが、エンジンは280psを発揮するターボエンジンへとステップアップ。ホイールにはレーシングハートのタイプCX、マフラーはBLITZのニュルスペックマフラーを装着。修理中で撮影日に間に合わなかったというSYMSバンパーもお気に入りポイントだそうだ。
「先輩を乗せた時に、内装は何も変わっていないねと言われるくらい見た目の変化がないのですが、トルクや馬力が約3倍違うので中身はまったくの別物です。GD2はアクセルを全開にしてもたいして進まなかったのに、GDBは暴力的な加速をしてくれますからね(笑)。アッという間にスピードが出ちゃうし、ギヤもスコスコ入って運転しやすいです。パワーの余裕ってこういう事かって、心的にも余裕ができた感じですね」
いっぽうで全財産を注ぎ込んでスポーツグレードに乗り換えたものの、以前ほどサーキットには足を運んでいないそうだ。
生活環境が変わり、家族の事など最優先すべきことが出来た今、クルマに過度な負担のかかるサーキット走行は、万全を期そうとすると経済的な負担も大きくなってしまうもの。加えて『自分が乗りたい最後のクルマになるかも』と思うこともあったそうで、この愛車を大切に維持していきたいという気持ちも芽生えてきたそうだ。
車高が低くて派手な柄のボディ、大きなホイールといったような、純正からかけ離れたクルマが好きというさーちゃんさん。そんなテイストを自分の愛車にも取り込み、純正オプションのリヤフォグ付きテール、JZX80スープラ純正のリヤサイドマーカーを流用して装着しているという。
「こだわっている方からすればまだまだ全然だと思いますが、パッと見て自分がカッコいいと思えたら良いかなと。カスタムのコンセプトは『STIっぽさを無くすこと』なのですが、何でわざわざ!? と言われることもが多いですね」
実は当初欲しかったのはSTIチューンが施されてないGDAで、外観だけでもそれに近づけたかったのだという。それと『グレード落とし』とも言える、このカスタムに挑戦してみたいという気持ちもあったそうだ。
手始めにエンブレム類を外し、ゴールドでbremboと書いてあったブレーキキャリパーを、赤色でSUBARUと書いてあるものに交換。内装は青色だったドアパネルとリヤシートをグレーにしたそうだ。
「このクルマを見て『このクルマって何のグレードなんですか!?』と聞かれた時に、何だと思う? と返すのが楽しかったりします(笑)」
「最近では『ホットウィール』というアメリカのミニカーを買い求める際に、インプレッサが大活躍しています(笑)。入荷数や取り扱い店が少ないから、県を跨ぐこともあるんですよ」
『これが僕のカーライフです』と、胸を張って答えてくれたさーちゃんさん。当初は鷹目のインプレッサがそこまで好きではなかったそうが、逆に今となってはキリッとしたヘッドライトが堪らなく愛おしいと言う。
「このクルマが好きなんです。どうしようもなく」
取材協力:海王丸パーク(富山県射水市海王町8)
(文: 矢田部明子 / 撮影: 土屋勇人)
[GAZOO編集部]
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