「どれだけ走っても苦にならない」憧れだったWRX STIとのカーライフ
富山県『海王丸パーク』の取材会に、なんと愛知県から駆けつけてくれた『和慶』さん。遠方からありがとうございますとお伝えすると、これくらいの距離は“ちょっとドライブ”の感覚だという返事がかえってきた。
過去には、新潟にある美術館まで“フラッと”行ってきたこともあるそうだ。
「休みの日に起きてきたら、母に『見たかった展示が今日までだった』と言われたんです。時計を見たら朝9時で、それなら間に合うかもとクルマを走らせて、閉館1時間前に滑り込み入館(笑)。7時間ぶっ通しで走っても疲れたとは思わないから、富山くらいの距離なら余裕なんです」
愛車歴は1台目のアルト以降、インプレッサを3台、そしてこのWRX STIと乗りついできた生粋のスバリスト。現在の愛車は、3年目にして走行距離9万kmという豪快な走りっぷり。ディーラーの人からは『10万kmに達してしまうとメーカー保証が使えなくなりますよ~』と釘を刺されているそうだ。
そんな和慶さんが走りすぎてしまうのには理由があって、走ること自体が好きというのに加え『WRX STI』が夢にまで見たクルマだったからだそうだ。
「小さい頃はトミカで、中学生になるとゲームセンターにあるカーゲームでしょっちゅう遊んでいました。『湾岸ミッドナイト』というゲームだったんですけど、RX-7やランサーエボリューションなど、ゲームの中とは言えど自分がそういったクルマを運転しているかのような感覚が嬉しかったんですよね」
ちょうどその頃は『頭文字D』にもハマっていたそうで、インプレッサを購入したのは、この本の影響がかなり大きいという。
「全編を読んで、あることに気付いちゃったんですよ。1番速いと言われていた主人公に、そのお父さんが運転するインプレッサが易々と勝っちゃうシーンがあるんですけど、そうすると主人公のお父さんが1番速いってことになりますよね? それで、主人公のお父さんが乗っていたインプレッサを購入しようと思ったんです(笑)」
その前にまずは練習用としてアルトのMT車が用意されていたそうだが、正直なところ乗りたいクルマではなかったという和慶さん。しかし、走ってみるとそんな考えは吹き飛んでしまったそうだ。
自分が公道を運転しているという事実はもちろん、車速とシフトチェンジがリンクしなくてスムーズに走らせられなかったり、クラッチ操作がちっともうまくいかなかったりと、何もかもが新鮮で面白かったという。
そんな好奇心から、当時のアルバイト先だったスーパーでのレジ打ちが終わった後は、ガソリンを満タンにしてドライブに出発し、ガソリンが無くなる直前で帰宅するという生活をしばらく送っていたそうだ。
「ルートにもよるけど、だいたい夜中の3時くらいまで走るんですよ。バイト代はほぼガソリン代に消えて、乗り始めたときに走行距離4万㎞だったアルトは気付けば13万㎞になっていました。こんな感じでひとしきり走りを堪能したんですが、次はカスタマイズをしてみたいと思うようになったんです」
しかし、カスタマイズをしたいという気持ちとは裏腹に、お財布の事情を考えると容易ではなかった。ショップに頼むなんていうのはもってのほかで、カスタムパーツを買う余裕すら無く、唯一できたことはローダウンだけだったという。そんなこんなで、次の車検となる時期に、念願のインプレッサに乗り換えることとなるのだが、愛車として迎え入れたのは、確かにインプレッサではあったものの…。
「“遅っっそ!” というのがファーストインプレッションでしたね(笑)」
手に入れたインプレッサはGD3というマイナーグレードで、水平対抗4気筒1.5リッターのSOHCエンジンを搭載する4WDでターボ無し。太陽の光を反射して眩しいくらいの青いボディ、リヤには一際目立つウイングと、その速そうな見た目からは想像ができないほどの“鈍足”だったという。
また、マイナーグレード故にパーツが少なく思うようなカスタムもできなかった。
「STIが速いというのは知っていたんですよ。けど、金銭的に余裕がなくて手が届きませんでした。それでもなんとかしたいと思って、通信販売でチューニングパーツ!? を購入しました。エンジンルームの中にスピーカーを装着して配線で繋ぎ、アクセルペダルを踏み込むとターボのような“ヒューン、スコーン”という音を奏でてくれるバラエティ商品(笑)でしたけど。これでも気分だけは5馬力アップできたかと…」
そうして無事故無違反の運転で1年が過ぎた頃、和慶さんは自損事故を起こしてしまう。そして、このできごとがキッカケで、生涯インプレッサに乗り続けようと心に決めたことがあったという。
「結構大きな事故だったんですけど、鞭打ちや外傷なども無かったのは、ラリーカーを想定して設計されているインプレッサだったからだと思ったんです。この事故を経験してから、大切な人を乗せるんだったら、絶対にインプレッサを選ぼうと決めました」
そうして次に選んだのもインプレッサ(GD9)だったが、こちらもターボではなく、NAエンジンのモデル。憧れの『STI』グレードではなかったワケだが、エアインテーク付きのボンネットや太めのマフラー、ゴールドのホイールなどを履かせて、STIと見間違えるくらいのエクステリア系カスタマイズを施した。クルマ好きの先輩にエンジンルームを覗かれた時に、インタークーラーが見当たらず驚かれたこともあったそうで、そういう反応を見るのもまたカスタムの醍醐味だったという。
「そして2019年、スバルが必死になって進化させてきたWRX STIに搭載されているEJ20エンジンの生産終了が発表され、限定555台の特別仕様車が販売されるという発表があったんです。ずっと憧れていた本物のWRX STIに絶対乗りたいと思って『購入権利』を獲得するための抽選に応募しました。その結果が、現在の愛車となったWRX STI EJ20ファイルエディション(VAB)です。」
アイドリング中や、高回転域になるとフロアに入ってくるドッドッドッという独特のエンジン音。そして何よりもラリーでも使われていたハイパフォーマンスエンジンを搭載したクルマを運転しているということが嬉しかったという。
「速い、すっごく速い! ターボにブーストが掛かると、体がシートバックに押し付けられるという感覚にも感動しました。これがSTIか! 憧れていたSTIにやっと乗れているんだって感無量でしたね」
ビルシュタインのダンパー、BBSのゴールドホイール、そして心地の良いサウンドを聴かせてくれるマフラー、大きなリヤウイング。さらにボンネットを開けると、念願だったターボエンジンの証であるインタークーラーや『EJ20 Final edition』と刻印されたプレートが備わっていて、その下には赤い結晶塗装のインテークマニホールドが顔を覗かせるなど、どこを見ても釘付けになったそうだ。
内装にも感動は詰まっていた。STI&RECAROのコラボレーションとなる専用のシートに、コンソールにはSTIのロゴも輝く。アクセルを踏むと針が振れるアナログメーターも気に入っていると、嬉しそうに話してくれた。
「メンテナンスしながら長く乗って、自分の子供に残しておいてあげられたらな、と思っているんです。もしかしたら、何十年後は電気自動車か、それ以上に静かなクルマが登場して、自動運転になっているかもしれないでしょ? そうすると、WRXのようなエンジンを積んだクルマは、うるさいとか、快適じゃないなんて感じになるのかもしれない。けれど、これが僕の感じたクルマの楽しさだから、それをちょっとでも感じてくれたらなと思っているんです。僕はこのクルマで人生が豊かになったから」
かつて愛車に施していたカッコいいとは言えなかったカスタムも、速くはなかった相棒たちも、すべてひっくるめて、今となってはキラキラと輝く想い出になっているという和慶さん。
もちろん、念願だったWRX STIを愛車にできたことも幸せだが、いつまでも乗っていたいと思える愛車たちに出会い一緒に走ってきた時間や、それを生き甲斐として楽しんできた時間もすべてひっくるめて『インプレッサ』そして『WRX STI』という存在は計り知れないほどたくさんの幸せを運んできてくれたことに違いない。
(文: 矢田部明子 / 撮影: 平野 陽)
- 許可を得て取材を行っています
- 取材場所:海王丸パーク(富山県射水市海王町8)
[GAZOO編集部]
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