シンプルな作りだけど愛おしい。少年時代の想い出を蘇らせてくれるB11型サニーとゆったり楽しむ旧車ライフ

  • GAZOO愛車取材会の会場である福井大学 文京キャンパスで取材した日産・サニー1300 GL(B11型)

    日産・サニー1300 GL(B11型)


愛車遍歴を伺うと、230型ローレルや430型セドリック、F31型レパードにR31型スカイライン、そしてGX61チェイサーなど、昭和・平成初期の香り漂うセダンやクーペを次々に乗り継ぎ、気がつけばその数なんと30台以上という『チューケン』さん。
そんな“ちょっと古いクルマ”が大好きなチューケンさんが、現在愛車として大切にしているのが、1984年式の日産サニー1300GL(B11型)である。サニーの5代目となるこのB11型は、歴代モデルとして初めてFF駆動を採用し、エンジンも一新されるなど大きな転換が図られたモデルだ。

このサニーとの出会いは5年前。長年探し続けてようやくネットオークションで見つけた“出モノ”だった。新潟県にあったワンオーナーの個体だったという。走行距離は約8万km台で保管状態も良く「よく見つかったなと自分でも驚いています」というほど。車庫で大切にされていたことが伝わる、見事なコンディションだったそうだ。

ただし、一筋縄ではいかないのが旧車の世界。手に入れたサニーは、ステアリングラックが故障していて、ディーラーでも対応できないと言われた車両だった。しかし、持ち前の探求心で情報を集め、地元の日産ディーラーに相談したところ、実はマーチの部品が使えることが判明。無事に修理が叶い、車検を通して現在に至るという。

「子供の頃に父が乗っていて、想い出が詰ったクルマなので選びました」というチューケンさん。本音を言えば、父が乗っていたサニーと同じホワイトが欲しかったというが、この個体のコンディションの良さに惹かれて購入を決意したそうだ。

「エンジンや内装はなんとかなるだろうからと、外装重視で選びました。ボディのクリア層も剥がれていないし、めちゃくちゃキレイだったのが購入した決め手ですね。純正のストライプがセダン専用で、そこも気に入っています」
そう語るように、オリジナルにこだわりながらも、上質な一台との出会いを楽しんでいる。

B11型サニーとの出会いの背景にあるのは、やはり父の存在が大きい。B210型やB310型、そして『トラッド・サニー』の愛称で親しまれたB12型まで、歴代モデルを乗り継いできた根っからのサニー党だったのだ。
「うちの父は普通のサラリーマンでしたが、マイカーはずっとサニー。小学生の頃は福井から母の実家のある千葉まで家族みんなで帰省したり、たくさんの想い出があります」と振り返る。
ただ、当時はサニーに憧れを抱いていたわけではない。むしろ手回し式のウィンドウや飾り気のないガラスなど、簡素な装備にちょっと不満を抱いていたそうだ。

チューケンさんがクルマ好きになった原点は、テレビドラマ『西部警察』。スカイラインやフェアレディZが繰り広げる派手なカーアクションに魅かれ、放映時間には家に駆け帰って夢中で見ていた。また、年上のいとこが持っていたミニカーで遊んだことも、クルマ愛を育むきっかけとなったようだ。

初めてのマイカーはF31型レパードのAT車。TVドラマ『あぶない刑事』の劇中車としても一斉を風靡したクルマだ。その後、MT車のおもしろさに目覚め、GA70型スープラ2.0GTツインターボ、A18#型スタリオン、P10型プリメーラのオーテックバージョンなど、常に2〜3台を同時所有しながら、どっぷりとクルマ漬けの毎日を過ごすようになる。

「当時はネットオークションの黎明期で、そうしたクルマが格安で入手できました。それこそ10万、20万円とかで出品されているのも当たり前の時代でしたので、気になっているクルマを次々と手に入れていました。住まいの近くに100坪くらいの土地があったので、そこに10台くらい保管していたんです」
そんな恵まれた環境の中、整備もある程度は自分でこなせたため、趣味としての旧車ライフをとことん満喫されていたそうだ。

やがて結婚を機に、同時所有の台数は絞ったが、R31型スカイラインやZ31型フェアレディZなど『一度は乗ってみたい』と思ったモデルはすべて経験済み。スポーツカーや高級セダンなど、気になっていたクルマを乗り継いできたため、未開だったのは子供の頃に街中に走りまわっていたいわゆる大衆車くらいだったそうだ。

「最近のクルマはいろんな安全装備とか付いていて、壊れたら大変じゃないですか。逆に何もないシンプルな旧車の方が良いのかなと思って」と振り返る。

そんな中で、ふと気になったのが、自分の原風景でもあるB11型サニーの存在だった。
中古車屋さんを探しても、ネットオークションで検索しても、なかなか程度の良い個体が見つからず、5〜6年探し続けてようやく辿り着いたのがこの個体だった。前述した通り、入手した当初は不動車。キャブレター仕様のE13S型エンジンは、すぐにエンジンストールしてしまう状態だったという。

しかし、1ヵ月ほど整備に預けた結果、現在ではすっかり快調に。チューケンさんの元に来て5年、約2万kmを走行したがノントラブルだ。

「はじめて運転した時は、懐かしさが込み上げてきましたね。それと同時に、こんなに質素な雰囲気だったんだということも思い出しました。親父にも乗ってもらいましたが、パワステが付いていないから、ハンドルが重たいとボヤいていましたね(笑)」と話す。

通勤にはマークX、ファミリーカーにはアルファードがあるため、サニーは月1ペースのドライブで活躍。晴れの日しか乗らないという完全な趣味グルマである。

「エンジンは直列4気筒1300ccのE13S型。シングルカムのエンジンは至って普通ですが、カクカクとした可愛らしいスタイルが気に入っています。フェンダーミラーも視界が良くて運転しやすいですからね」

オリジナルにこだわりつつも、徐々にアップデートも行ってきた。例えば、GLグレードには付いていないセンターコンソール下の収納ボックスは上位グレードのものを移植。滑りやすいプラスチック製のハンドルもスポーツグレード用のウレタン製に交換した。またホイールは、レトロなメッシュデザインが良い味を醸し出している純正オプションの14インチに履き替えるなど、自分色に染め上げる。同時に純正オプションのシートカバーも調達した。

車検やメンテナンスは、地元である石川県の日産ディーラーに依頼。旧車に詳しい整備士がいて、部品の共通性を調べてくれるなど心強い存在となっているとのこと。
大阪や名古屋で開催されるレトロカーのイベントにも、せっかくの機会だからとサニーで出向くなど、ロングドライブも楽しんでいる。

「このサニーに乗ると、兄姉と3人で後席に座っていた頃の想い出が蘇ってきます。私は一番年下だったので、後席の真ん中が指定席でした。FF駆動なので、室内は意外と広いんですよ。フロアトンネルがないので足を伸ばしてリラックスできました」
そう話す表情からは、愛車への深い愛着が伝わってくる。

  • (写真提供:ご本人さま)

そんなチューケンさんだが、実はこのサニーの他にも、N12型のパルサーミラノX1(写真右)と、AE91型のカローラセダンのレトロカー2台を所有。
昭和を彩った大衆車も、今では希少な『ネオ・クラシックカー』として高騰。しかし、いずれも現在では考えられないほど安価で入手できたそうだ。様々なモデルを乗り継いできた生粋のクルマ好きがたどり着いたのは、飾り気のないファミリーカーだったというわけだ。

「ちょっと後悔しているのは、以前手に入れるチャンスがあった『デボネアV AMG』を買わなかったことですね。その時は、電動ポンプの故障が理由で見送ってしまったけど、今思えばどうにでもできたかなと…」

そんな苦い過去を振り返りつつ、現在ではサニーとの時間を何より大切にしているチューケンさん。自身の原点に立ち返るようなサニーに寄り添いながら、これからも旧車との時間を静かに楽しんでいくに違いない。

(文: 石川大輔 / 撮影: 平野 陽)

※許可を得て取材を行っています
取材場所: 福井大学 文京キャンパス(福井県福井市文京3-9-1)

[GAZOO編集部]