180SXが引き寄せてくれた縁を紡ぎ、理想を目指して自分らしくカスタムを楽しむ

  • GAZOO愛車取材会の会場である国営木曽三川公園 アクアワールド水郷パークセンターで取材した日産・180SX(RPS13型)

    日産・180SX(RPS13型)


「スポーツカーに乗りたい」と、高校生の頃から漠然と思っていたという『こうき』さん。何に乗ろうか? と思いを巡らせて中古車サイトを漁っていた。社会人3年目となった夏、ついに現在の愛車である日産180SX(RPS13型)がヒットしたのだという。

「マニュアル車で操作が楽しく、1台1台に個性がある…そんな時代のスポーツカーに乗ってみたかったんです」

そう話すこうきさんの青春時代は、まさにクルマ漬けだったという。高校時代の友人にクルマ好きが多く、頭文字Dを読み始めたことをキッカケに更に拍車がかかり、アーケードゲームでマニュアル車の面白さに目覚めたのだとか。愛車歴は、ワゴンR、初代オーリス、現在の愛車である180SXと、一見バラバラな趣向に見えるが、いずれもクルマを選ぶ条件として“マニュアルミッションであること”にだけはこだわってきたそうだ。

「マニュアル車って、運転が上手くなったのが分かるのが良いんですよ。例えば、ちゃんと回転数を合わせてシフト操作ができると、すごく気持ち良いんです!」

180SXの乗り味はというと、エンジンがNAなので速くはないが、踏んだら踏んだ分だけ素直に加速するのが魅力なのと、なによりマニュアル操作が楽しいことだという。加えて、ドロドロではなく“ゲロゲロ”といったようなエンジン音は、ずっと聞いていられるくらい心地良いのだと語ってくれた。

そんなこうきさんの夢は、180SXをUS仕様にカスタムすることだ。なんでも、アーケードゲームと同じくしてハマったのがクルマ雑誌で、読み漁っているうちにカスタマイズに興味を持つようになったらしい。

「サーキットが似合いそうな派手な雰囲気や、勢いのあるカスタマイズも大好きです。だけど、このクルマに40代になっても乗りたいという目標があるから、バチっと綺麗に渋くして、お洒落な方向に持っていきたいと考えているんです」

『マニュアル車であることにもこだわっている』と記したが、以上の理由に加え『まだ誰もイジっていない状態』という要素も愛車探しの条件だったとのこと。カスタムに魅せられたのは、マニュアル操作と同様に、自分が乗りたかったクルマの理想に近づけることができるからだそうだ。

ノーマルの状態で残っているのが珍しく希少な車種でもあるので、イジらない方が良いのでは? と言われることもあるらしいが『1/1のプラモデル』として、これからもっと自分らしくカスタムをしていくのだと、期待に声を弾ませながら前のめりに教えてくれた。

だからこそ、納車されてから半年も経っているのに『まだテールランプの前期化と、車高調整式サスペンションへの交換くらいしかしていないんです』と、慎重にカスタマイズ中。一方で取材中は、カスタム箇所が少なく物足りないといった表情を見せていた。

「本当は、もっとカスタマイズしてから撮影に望みたかったんですけどね。色々なことがあって、それどころではありませんでした…」

そう言いながら、運転席側のベコッと凹んだドアを指差して苦笑いした。何があったのかと尋ねると、納車されて3ヶ月で窃盗団に狙われるという大事件があったのだそうだ。“まさか自分が!?”という、よく耳にするワードを“まさか”自分が口にすることになろうとは思ってもみなかったと笑っていた。

事の顛末はこうだ。残業をして夜11時くらいに会社の寮に帰ってくると、突然インターホンが鳴ったのだという。疑心暗鬼になりながらドアを開けると、そこにはお巡りさんが立っていて、愛車が盗まれそうになったことを教えてくれたそうだ。

こうきさんのクルマだと知っていた同僚が通報してくれたそうで、もう少し通報が遅かったら盗まれていたかもしれないと説明してくれた。

「警察の人と話している間、何も悪いことはしていないはずなのに、会社の人から何かしたと思われるんじゃないかとドキドキしました。あとは、会社の寮に警察が来るなんて前代未聞だろうから、人事から何か言われるのかな? なんてヒヤヒヤもしましたね(笑)」

そんなことがグルグルと頭の中をよぎるものだから、お巡りさんの事情聴取は話半分だったという。そして、冷静になった次の日に改めて愛車を見ると、バールを使って無理矢理こじ開けようとした痕跡や、ガラス上の金属モールを剥がそうとした跡があり、モヤっとした気持ちが胸の中で渦巻いたそうだ。

ただ、それでも悪いことばかりではなかったという。なぜなら、噂は社内でそれなりに広まり“クルマを盗まれそうになった子”として、他部署のクルマ好きから声をかけてもらえるようになったからだ。

「このクルマに乗って、少しずつですが自分が変わってきている気がするんです。例えば、遊びも仕事も“誘ってもらったからやってみる”というスタンスだったんですけど、最近は“このままじゃダメかも?”と思うようになってきました。もっと、自分発信で何かをしても良いんじゃないか、と感じるようになったんです」

その第一歩として、社内のクルマ好きに『ゴールデンウィーク明けにオフ会をしませんか?』というお誘いメールを送ったのだという。1台も集まらないのではないかという不安もあったそうだが、どうにでもなれ精神で声をかけてみたところ、10台くらいは集まることが確定したと嬉しそうに話してくれた。

「でも、この話には続きがありまして…。ここまでは良かったのですが、声をかけた人が別の人に声かけてくれて、結構な数の方々が集まってくれそうなんですよ。問題は、メンバーに200〜300台も集まるようなクルマのイベントを仕切っている方がいらっしゃったり、役職のある偉い方がいらっしゃったりと…。募集をしておいてなんですが、一番ペーペーの僕が仕切るということにすごく緊張しています…」

もちろん、やり甲斐は感じているそうだが、謎の緊張感がそこにはあるとカラ笑いをしていた。それでも『過去の自分からすると、考えられないような積極性だ』と、歯切れの良い話しっぷりであった。

「僕は、運が良いです。周りにいるクルマ好きの友達や先輩が、良い人ばかりですから。それこそ、クルマ好きじゃなかったら出会えなかったご縁だから、今まで通り大切にしていきたいし、そういう縁を広げていきたいなと思っています」

今回の取材会場に、面白メガネを持って来てくれた方は会社のクルマ好きの上司で、撮影前に釣りに付き合ってくれたのは、地元のクルマ好きの友人だという。
こうきさんがひとりで写真を撮られている間、若干心配そうに、でも朗らかに笑いながら見守っていたのがとても印象的だった。

「グループの班長が、昔180SXに乗っていたらしいんです。それこそ、2週間前にフェンダーのツメを加工していたんですけど、その際にもアドバイスをもらえました。それに、車高調整式サスペンションのダンパー減衰力を『こうしたら、こうなるよ』とか、とにかく色々なことを教えてもらっています」

就職のために地元を離れてから、クルマの話ができる人があまりいなかったそうだが、180SXを購入してから共通の趣味を通じて繋がりが増えてきたと嬉しそうに笑っていた。自分が変わるキッカケをくれたのも180SXで、少し背伸びをしてでも購入して良かったと深く頷いていた。

「10年後、20年後と、ずっとオーナーであり続けたいと思っています。現在の走行距離は9万5000kmですが、しっかりメンテナンスをしながら、自分らしくカスタマイズをしていくのが夢です」
20年後…こうきさんが、どんな環境で、どんな人と、どんなカーライフを送っているかはわからないけれど『クルマが好き』という情熱を持ち続けていてくれたらいいなと願うばかりだ。

(文:矢田部明子 / 撮影: 平野 陽)

※許可を得て取材を行っています。通常は園内へ車両を乗り入れることはできません。
取材場所:国営木曽三川公園 アクアワールド水郷パークセンター(岐阜県海津市海津町福江566)

[GAZOO編集部]