短命に終わった1台目への後悔を胸に、2台目のビートを“終のクルマ”として迎え入れる
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ホンダ・ビート(PP1型)
取材会の集合場所に、軽やかなエキゾーストサウンドを響かせながら自慢の愛車、ホンダ・ビート(PP1)で現れた『文』さん。このクルマは自身にとって2台目のビートだという。
最初の一台は20歳の頃、運転免許を取ってから初めての愛車として購入するも、わずか10ヵ月程度で廃車に…。
「もう20年以上も前の話ですけどね。友達数台とツーリングに出掛けていたところ、台風の影響で天候が悪化しはじめたんです。そうして急いで引き返そうとしていた時、リヤが流れて土手に乗り上げてしまい、ゴロンと仰向けに。奇跡的に軽い怪我だけで済んだのは、ルーフを閉じていたことと、フルバケットシートのバックレストが頭より少しだけ高かったから。でも、グチャグチャに曲がった幌骨を見た時には正直ビビりました」
「事故を起こしてしまった後は、親戚の修理工場に持ち込んで何とか修復してもらったんですが、その数ヵ月後…。会社に向かっていた時に、側道から出てきたクルマを避けようとして、道沿いにあった建物に突っ込んでしまいました。まぁ、完全に若気の至り。今となっては恥ずかしい思い出です」
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(写真提供:ご本人さま)
2度目の事故で受けたダメージは、非常に深刻だったことから修理は断念。当時勤めていた会社の社長からも『次にクルマを買う時は、ABSとエアバッグ付きにするように』と、厳しい指導を受けた。そんなこともあって、スポーツ性能よりも実用性を重視した、GD3型フィットの1.5リッターモデル(5速MT車)を購入することに。
当初は、消去法で選んだはずのフィットだったが、趣味のロードバイク(自転車)が簡単に積み込めるユーティリティ性能や、キビキビとした乗り味に次第に愛着が湧き始めた。ところが、それから数年後、忘れかけていたビートへの気持ちを思い起こさせる出来事が…。
「取引先の社長がビートを所有されていて『忙しくて乗る機会も無くなったので、欲しいなら売るよ』と、言って下さったんです。買います! と即答したかったけど、その時は先立つものが無くて、泣く泣く諦めました。それから数台のクルマを乗り継いだものの、ずっとそのビートのことが頭から離れず“いつか必ず”と、思い続けていたんです」
文さんが何故そこまでビートに深い思い入れがあるのか? その理由を辿っていくと、時代は幼少期まで遡る。物心ついた時からクルマ好きだったという文さんは、ある日、街角で一台のスポーツカーと遭遇。かつて見たことも無かった斬新なスタイルに、一緒にいた母親に“あれは何?”と尋ねたところ『ホンダのビートだよ』との返答が。
ほんの一瞬の出来事ながら、幼少期の文さんがビートから受けたインパクトは計り知れないほど大きく、熱烈なホンダファンになると同時に『いつか絶対に、あのクルマのオーナーになる!』との強い思いが芽生える。その後、文さんは大阪にあるホンダ関西自動車整備士学校に進学。卒業後も自動車に関係する仕事に携わるなど、公私共にクルマに囲まれた生活を重ねている。
「最初に社長からお声掛けを頂いてから相当な時間を要してしまいましたが、今から3年前に改めてお訪ねしたところ、まだそのビートをお持ちでした。今度は自分の環境もそれなりに整っていたので、満を持して“譲って下さい”とお願いしたところ、快く応じて頂けました。中古車市場を探せばそれなりの物件数があるのに、なぜこのクルマにこだわったかというと、車高や装着されているパーツ類など、僕好みのモディファイが行なわれていたからなんです」
「エンジンは、オーバーホールした上でハイリフトタイプのカムシャフトが組み込まれ、ミッションもギヤ比をクロスレシオに。ブレーキキャリパーはGA2型ホンダ・シティ用に変更されています。またブレーキローターは、バネ下重量の増加を嫌って、ビートのカスタムでは定番となるフィット用のベンチレーテッドディスクローターは使わずに、社外品のスリット入りソリッドディスクローターを装着するなど、非常に玄人好みするカスタマイズが施されているんです」
「他にも色々と手が加えられていますが、社長はHSR九州サーキットで行なわれている軽自動車の耐久レースにも出場するほどクルマに精通しているんです。すべてが過剰ではなくトータルバランス重視で仕上げられているのが良いですね。お陰で購入してから僕が手を加えたのは、ステアリングとシフトレバー、それと賞味期限切れになっていたタイヤを交換した程度なんですよ」
こうして、一台目を失ってから20年近いブランクを経て、再びビートとの生活をスタートさせることになった文さん。
通勤や普段乗り用にはZC33型スイフトスポーツを使っているため、ビートが出動するのは週末のドライブがメイン。それだけに、ひとたび走り始めると数百km単位のマイレージを稼ぐこともしばしばあるそうだ。
しかも“せっかくのオープンボディだから”と、夏場でもできるだけトップを降ろして走行しているとのことで、後方に折り畳まれた幌の状態は、33年前の個体のものとは思えないほど良好。ビートの弱点とされている、ドア手前にあるホックの固定ピンも折れずに残されていた。
「ビートの魅力は、ファジーなところが無く、何もかもがダイレクトという点ですね。運転する側がちゃんとコントロールしてあげないと、まともに走ってくれない。そういう意味では、どこかロードバイクにも似た部分があるように思えます。自分は、手の内に収まるくらいの性能を持った乗り物が好きなんです。200psとか300psとか数値的にはスゴイけど、街中では持て余しちゃうし、まともに踏もうと思ったらサーキットに行くしかない。とは言いながら、僕もアルトワークスや4気筒ターボのセルボモードをイジってパワーを絞り出そうとしていた時期があったので、ハイパワーエンジンの魅力も理解できるんですけどね(笑)」
現在のところ、エンジンオイルの消費量が若干増えてきたことを除けば大きなトラブルは発生していないそうだ。また、部品関係についても社外パーツが豊富に流通しているので、維持に関する苦労もこれといって思い当たらないと語る文さん。唯一、気掛かりなのは青空駐車中の雨漏りだが、これについても間もなく解決される見通しとなっている。
「2025年の3月中には家が建ちます。嫁さんを説得してビート用のガレージも作りました。これで私の“終のクルマ”としての保管環境が整いました。スイフトは壊れないし、雨漏りもしないから外置きで大丈夫。欲を言えばこの先、どこかのタイミングでビートの全塗装や内装の補修をしたいですね」
「その他、オートバイのスズキ・RG125Γ(ガンマ)も所有したいなぁ、とチョットだけ思ったり…。125ccって中途半端な印象があるかもしれないけど、すべてが手の内に収まる感じが楽しそうでしょ? けれど嫁さんからは『これ以上、タイヤが付いた物は増やすな』と、デッカイ釘を刺されているので、頭の中で思い描くだけにしておきます(笑)」
「実は先月、子供も産まれまして。名前は羽優(はる)。これからもビートを大切に維持し続けて、いつか羽優と一緒に乗れる日がくれば良いですね」
(文: 高橋陽介 / 撮影: 平野 陽)
※許可を得て取材を行っています
取材場所:宮崎県林業技術センター/森の科学館(宮崎県東臼杵郡美郷町西郷田代1561-1)
[GAZOO編集部]
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