君は確かにここにいた。生きた証のRX-8

大学1年生の時に癌が見つかり、2021年6月6日に天国へと旅立った「山口雄也さん」。闘病の様子を発信したTwitterやブログが大きな反響を呼び、今でも多くの人が雄也さんの投稿にコメントを書き込み続けています。

「生きた証を残したい」という理由から始めたTwitterのヘッダーに使われている写真は、雄也さんの愛車「MAZDA RX-8」。

通学に使ったり、よくドライブに出かけたりしていたそうです。何を隠そう、雄也さんは大のクルマ好き。18歳で免許を取って、23歳までRX-8とどんな時を過ごしてきたのでしょうか?雄也さんの御両親である、山口睦雅さん、七美さんにお話を伺いました。

  • こちらがTwitterのヘッダーに使われている写真です。

雄也さんとRX-8の出会いは免許を取ってすぐ、大学1年生の時に睦雅さんと足を運んだ中古車販売店です。

「京大に現役合格したら車でも何でも買ってやる、と言った父親の冗談をずっと本気にして、合格したので無理矢理ボーナスで買ってもらいました」と、雄也さんのTwitterには投稿されていました。

――初めてのクルマが憧れのクルマなんて、素敵です。

<睦雅さん>
家族で鈴鹿サーキットにレースを見に行ったり、大学時代は自動車部に所属していた私の影響もあってか、ロータリーエンジンスポーツカーのRX-8に乗りたいとずっと言っていました。

トミカ博にて、トミカ釣りやマイトミカ製作に夢中

鈴鹿サーキットにはF1やSUPER GTの観戦にも訪れています

初心者マークを貼って一緒に試乗したら、これにする!と。私は、燃費がリッター5~6kmくらいで悪いし、他にも見てみたら?と提案したんですが「バイトでガソリン代を稼ぐから大丈夫や!」の一点張りで。よし、そこまで言うならということでOKしたんです。まぁ、たまーに「ちょっとガソリン入れてくるわぁ~」と私のガソリンカードを持って行きましたけどね(笑)。

青いボディが良いということで、関東の中古車センターからわざわざ京都まで運んでもらったんですよ。

退院して家で過ごしている時は、よくガレージでクルマいじりに没頭していましたね。テールランプやリアウィング、車内アンビエントライトを取り付けるためにシートを全部外して配線したり。その間は、家のクルマはガレージの外に出されているという(笑)。

<七美さん>
確かに(笑)。リアカメラを取り付ける時は、1日で終わるくらいの勢いだったのに、3日経っても説明書を見ながらブツブツ言っているんです。

どうしたのかなと思ったら、オークションで購入したテスターの部品が足りないから、オートバックスに買いに行くと言いだして。行ったついでにお店で付けてもらえばいいのにと思うのですが、自分でするのが好きらしいです。子供の頃から、手先が器用で細かい作業が好きな子でしたから。

オークションは安く購入できるみたいですが、説明書がついていなかったりするようでして。だから、雄也のクルマいじりは長期戦になることが多かったですね(笑)。

――紆余曲折ありながらRX-8はどんどん変貌を遂げていったんですね。

<睦雅さん>
クルマを購入し時を経たずして病気が見つかったので、色々我慢していたのかもしれませんね。そういえば、雄也の入院中にバッテリーが上がってしまって、ちゃんとエンジンかけてくれんとアカンやん!と怒られたこともありましたね(笑)

<七美さん>
そういうことがあって、治療の合間に外泊が許可されると病院までRX-8で迎えにきてくれと頼まれたこともよくありました。体調がよいときは自分が運転して帰るということも(笑)

そう語ってくれた七美さんと、闘病中の雄也さんは、一緒に過ごす時間が多かったといいます。雄也さんのTwitterにも「母親の自慢でもさせて下さい。僕の母親は、京都の福祉施設勤めなんですが、今は病院(兵庫)の超近くにアパート借りて僕の闘病を完璧に支えてくれてます。炊事洗濯頼んだ買物全部して、有事は5分で病室に飛んできて、その上フレックスでリモートワークまでこなして収入減はなしです。スーパーオカン」と投稿してあります。

  • 睦雅さんのコペンで、彼女とドライブデート中の雄也さん

<七美さん>
退院後の定期通院は私の運転で、片道約1時間半のドライブでした。主人は単身赴任中、弟は大学で他県に下宿していたので、自宅は雄也と私の二人暮らし。なので、よくお出掛けにも付き合ってくれたんです。

ショッピングや映画を見たりしましたが、中でも思い出に残っているのは「一眼レフ貸して!ドライブに行こう!」と誘われて行った、フェラーリが京都平安神宮で集結する『フェラーリ・インターナショナル・カヴァルケード2016京都』というイベントです。

会場に71台ものフェラーリが停まっていて、普段は見ることができない限定モデルなどに目を輝かせて「このフェラーリは◯◯やで~~」と教えてくれるんです。イベント終わりに集まったフェラーリが会場から出ていくんですけど、雄也も私も2時間くらいフェラーリをお見送りしました(笑)」

――そのイベント、七美さんもクルマ好きじゃなかったらなかなか厳しいものが……

<七美さん>
クルマを自分で触るまではいきませんが、実は乗るのも見るのも大好きです。気になる車があると、ディーラーに実車を見に行き試乗することもあったのですが、雄也も付き合ってくれました。

私がクルマの楽しさを知っていたから、雄也には好きなクルマに乗ってほしかったし、乗れてよかったと思っています。

――今、RX-8はどうしているのですか?

<睦雅さん>
「私が通勤するのに乗ってます。雄也のRX-8はしばらく手放せないかな。雄也はどこかに旅行に行っていて、そのうち「ただいま」と帰ってきてくれるのではないかと、心のどこかで思っているから。どうするかは、まだ分からないです。気持ちの整理がつくまで。

<七美さん>
1つ言えるのは、雄也の23年間の子育てを通して、いろんな経験をし、私の世界を広げてくれたことです。一緒にいろんなところに出かけた思い出の詰まった雄也の愛車なので、RX-8はもう少し、このままです。

天国でお気に入りのRX-8をはじめ、スポーツカーで行きたかった場所を風を切ってビュンビュン楽しそうに走っている姿が目に浮かんできます。

【Twitter】
山口雄也 さん

(文:矢田部明子)

※当企画の記事は、お客様からご提供いただいてる写真とインタビューをもとに作成しております。

[ガズー編集部]

愛車広場トップ