父から受け継いだハチロク愛。20代女性オーナーとトヨタ スプリンター トレノ の物語

  • トヨタトレノとオーナー氏01

誰かが楽しんでいる姿を見ることで、自分もその世界に入りたくなる。カーライフも然りで「好きになる気持ち」は、そうして深まっていくものだと思います。

今回は「せなさん」と愛車「トヨタ スプリンター トレノGT APEX(AE86/1986年式)」の物語です。

せなさんの両親は「AE86専門店」としても知られるカーショップを営んでいます。現在はせなさんもスタッフとして勤務。一日中クルマに接する環境にいるわけですが、意外にも幼いころからクルマ好きというわけではなかったそうです。

せなさんはどのようにクルマを好きになり、どんなカーライフを送っているのでしょうか。

――幼いころから当然のようにクルマがお好きなんだと思っていました。

会社でAE86のワンメイクレースやD1グランプリに出ていたので、3歳のころからよくサーキットに連れていってもらっていました。振り返ってみると、お台場までD1グランプリを観に行ったことやD1ドライバーの方と一緒に移動したこと、マシンに乗せてもらってドリフトを体験できたのは、ほんとうにすごいことだったなと……。

また父が長年、2台のAE86を大事に乗っていて、そのハチロク以外の車のナンバーまで「86」にしているほどのハチロク好きです。子どものころに「なんで全部86なん?」と父に聞いたこともありましたね。

  • オーナー氏ご実家のショップ

――すごい! これでクルマ好きにならなかったのが不思議なくらいですね…。

父も母もクルマが大好きなのに、なぜか「運転したい」という気持ちは大学生になるまで湧かなかったんです。運転免許もAT限定免許にしました。

――あまりにも身近すぎて「運転して楽しむもの」という感覚が薄かったんでしょうか。

「クルマが好き」と「自分で運転したい」は、今でこそしっかり結びついていますが、当時は「見るもの」という感覚のほうが強かったと思います。

――そんなせなさんが、AE86に惹かれたきっかけを教えていただけますか?

クルマが好きだと思うようになったのは、大学卒業後に岡山国際サーキットで開催されていた「AE86フェスティバル」に行ったことがきっかけですね。

AE86が集まっている光景や、大勢のオーナーさんの愛車に触れるなかで「AE86っていいな」と思うようになり、しだいに「自分でも乗りたい」という憧れが育っていった感じです。そしてAT限定解除をし、トレノに乗る流れにつながりました。好きだったクルマが「自分で運転したいクルマ」になった瞬間だったかもしれません。

  • トヨタトレノ右フロント4:6

――まさに「覚醒」の瞬間ですね。ご両親も喜んだのでは?

喜んでいましたね。はりきってクルマを探してきてくれました。ATでも良いと思っていましたが「MTで乗れ!」と(笑)。ATの限定解除をしたばかりで不安もありましたが、それ以上に「ついに自分のハチロクがきた」という喜びのほうが大きかったですね。

――レビンではなくトレノを選んだ理由は?

今のクルマにはない雰囲気、とくにリトラクタブルヘッドライトのデザインが好きだったからです。父も同じ考えだったようで「それならトレノ一択」と強くすすめられました。

  • トヨタトレノエンジンルーム

――「今のクルマにない魅力」とおっしゃっていますが、他にはどんなところが気に入っていますか?

簡素な内装、少し頼りないデジタル時計、夜になると真っ暗になる車内。足元も結構広いんですよ。ナビが付いていないので必要以上に明るくなく、落ち着ける空間になっているところがいいですね。

他にも灰皿、何を入れるのかよくわからない小物入れ、車内の独特の匂い、ふかふかしたシート、レギュレーターハンドル(手動式ウインドウ)など、現代のクルマには見かけなくなった装備がたくさんあります。不便さも含めて気に入っています。

――レトロさが新鮮ですね。運転のフィーリングはいかがですか?

まず、クラッチをつないで変速しながら走る感覚が、私にとってはすごく新鮮でした。今は仕事でさまざまなクルマに乗る機会がありますが、トレノに乗るとクルマを操っている感覚がより強く感じられます。正直「遅いなー!」と思うこともありますが、エンジンをしっかり回して走るのは、本当に楽しいです。

『頭文字D』に「ハチロクはドライバーを育てるクルマ」という台詞がありますが、実際に乗っているとわかる気がしますね。

――ご両親を乗せてドライブはされましたか?

初めてのドライブで、家族を乗せて夜の芦有ドライブウェイに行きました。父にとっても思い出の場所だったようです。私はまだMTに慣れておらず必死でしたが、助手席の父にアドバイスを受けながら走りました。

母と一緒に富士スピードウェイのイベント「8BStyle」へ行ったことも大切な思い出です。道中は母と運転を交代しながら向かい、イベントを満喫し、富士山を背景に愛車の写真を撮ることもできて、クルマ好きの親子ならではの楽しみ方ができたなと思っています。

  • トヨタトレノと富士山

――トレノを迎えてから、日常やカーライフに変化はありましたか?

劇的に変わりましたね(笑)。以前は休日になるとカフェに行ったり、買い物に出かけたりすることが多かったです。でも今は、クルマのイベントに足を運んだり、季節の風景と愛車の写真を撮りにいったり。目的がなくてもドライブして夜風を浴びにいったりするようになりました。洗車も好きになりましたね。

クルマへの考え方も変わった気がします。「クルマとは、いろいろな思いが詰まった宝物のような存在」という価値観になりました。トレノを通じて友人も増えました。

メインカーをトレノとしながら、セカンドカーとしてS660、ビート(ともにホンダ)、ミラジーノ(ダイハツ)にも乗り、運転を楽しむようにもなりました。

  • オーナー氏と愛車2台

――せなさんのトレノ、純正ならではの端正な雰囲気がすてきです。

もともとドリフトマシンが好きなこともあり、バイナルを貼ってフルエアロにしたいと本気で考えていました。でも父が反対していて、最初の1年くらいは揉めながら、半ば無理やり純正の雰囲気を維持させられていました(笑)。

そのうち、行く先々で声をかけられることが増えたんです。純正であること、フェンダーの爪が折られていないことに感動してくれる方もいました。「そのままでいるんだよ!」と念を押されたこともあります。そういう声を聞くうちに、この状態で残っていることの意味が少しずつわかるようになりました。今では純正の外観がしっくりきます。

――外観は純正ですが、カスタムはされていますか?

必要な部分には手を入れています。足まわりはTrace Racing、タイヤはADVAN NEOVA AD09です。クラッチは、ORCの強化品に交換しました。エンジンは、オイルを消費する状態だったので載せ替えています。

  • クラッチキット

――走るための装備も整えられているんですね。他に手を加えている部分はありますか?

車内の音響はこだわっていますね。彼氏がカロッツェリア推しということもあって、オーディオ、スピーカー、アンプ、サブウーファーはカロッツェリアでそろえています。装着できるスピーカーは10cmしか選べなかったので、限られた条件でも気持ちよく聴けるようにと、音の調整までしてくれました。かなり気に入っています。

オーディオはMVH-7500SC、スピーカーはTS-F1040SⅡ、サブウーファーはTS-WX140DA、アンプはGM-D1400Ⅱです。

――10cmスピーカーだけでは出しにくい低音をサブウーファーで補いながら、気持ちよく聴ける環境にされているのですね。この音響で、ドライブ中はどんな音楽を聴いていますか?

宇多田ヒカルさんの曲や、両親が聴いていた平成初期の曲が多いです。80年代の曲もよく聴いています。夜に窓を全開にして、音楽を流しながら走る時間がとても好きです。このトレノの雰囲気にもよく合っていると思いますね。

  • イルミネートしたリヤスピーカー

――お話を伺っていると、当時の雰囲気や時代感をとても大切にされてますね。

基本的に、トレノの年式に合わない装備の追加は避けています。ナビを付けると車内が明るくなってしまいますし、1DINオーディオの下にある小物入れを外したくないという気持ちもあります。バックカメラも便利だなと思いますが、運転技術を磨いてカバーします(笑)。

ドリンクホルダーだけは、前オーナーさんが『頭文字D』好きだったこともあって残しています。前オーナーの名残もこのクルマの歴史だと思っています。

――なるほど。ところでせなさんにとって「平成」や「昭和」という時代に対する感覚はどんなものなんですか?

私は平成生まれなので、昭和のクルマに乗ること自体がまず新鮮ですね。今のように画面で何でも完結するのではなく、CDやMDを自分で選んで入れ替えるといった、少し手間のかかる動作もおもしろいです。自分のなかではデジタルデトックスに近い感覚があります。

  • トヨタトレノ下回り

――愛車を維持するうえで気をつけていることはありますか?

やはりサビ対策ですね。AE86はサビが怖いので、雨の日はできるだけ乗らないようにしていますし、水を多く使う洗車もなるべく避けています。車内も除湿を意識して、少しでも良い状態を保てるようにしています。

部品については、AE86は他の車種に比べるとまだ供給が多いほうではないでしょうか。仕事の関係もあって部品調達にはあまり困ったことがないので、その点は恵まれていると感じています。そうした環境を活かしながら、これからも大切に維持していきたいです。

  • トヨタトレノフロントバンパー

――今後の愛車との予定はいかがですか?

今のところ、大きな仕様変更の予定はありません。トレノらしい雰囲気を大切にしながら、いろいろな場所へ行ってみたいですね。

また東京にも行きたいです。東京はクルマ文化や撮影スポットがぎゅっと詰まっている印象がありますし、首都高には独特の雰囲気があります。住んでいる関西とは走っているクルマの空気感も違うので、それを見るのも楽しみのひとつです。

AE86のイベントに参加する回数も増やしたいと思っています。同じクルマが好きな方との交流も広げながら、トレノとの思い出を増やしていけたらうれしいです。

――最後に、せなさんにとって「愛車はどんな存在か」を教えていただきたいです。

「受け継がれてきた存在」だと思います。

AE86は昔からずっと身近にあって、自然と惹かれてきた存在です。家の中に流れていたクルマの空気感や価値観のようなものが自分の中にも受け継がれていて、今こうして愛車として乗っていることに特別な意味を感じています。

これからも、純正らしい雰囲気や時代感を大切にしながら、長く付き合っていきたいです。

  • トヨタトレノとオーナー氏02

クルマ好きのご両親の存在や環境は、せなさんのカーライフに深く関わっています。けれど、純正の外観にしっくりくるようになったこと、夜の車内でくつろぐ時間も、せなさん自身の感覚から生まれたものです。

便利さだけでは測れない時間を味わいながら、少しずつ自分の愛車になっていく。せなさんとトレノの愛車ライフは、今後もさらに深まっていくのでしょう。

【X】
@udn_chanさん

【Instagram】
@sena_ae86さん

(文:野鶴 美和 写真:せなさん提供)