ランドクルーザー60は、僕にとって間違いなく青春だった。震災で失ったランクルへの思い
幼少期はトラック野郎に憧れ、バイクやクルマの解体屋に行き、ストップランプやアンテナをもらってきては、自分でママチャリに装着していたという「タツヤさん」。
壊れたアンテナの先にハンカチを巻き付け、風になびかせながら走っていたそうだ。
そんなタツヤ少年は、クルマ雑誌で見かけたランドクルーザー60に興味を持つようになる。
今回は、ランドクルーザー60×タツヤさん の何十年にも渡るカーライフをお届けします。
※東北大震災に関するセンシティブな内容が含まれています。
――子供の頃に雑誌で見かけたのがキッカケで、ランクル60に乗るようになったのですね。
小学校5年生の時に、雑誌で見かけたんです。750/15くらいの、細い下駄山のトラック用タイヤを履いていて、白黒で印刷されていたんですけど、なぜか自分の頭の中では青く見えたんです。
なぜその色に見えたのかは分からないんですけど、これが不思議なことに、実際に青いカラーもラインアップにあったんですよ。
――すごい!そういうことってあるんですね。
今考えると、何か理由があったのかな?とも思ったりします。こういうこともあり、免許を取ったら絶対に乗るぞと決めていました。
だから、高卒で自動車関係の会社に入り、入社後しばらくして“ランクルが欲しいんだけど”と親や会社の人に言ったんです。
そしたら、19歳の子供ということもあったのか、誰も相手にしてくれなくてね(笑)。
お金も自分で払うのに、家族からも反対され、ディーラーの方さえも「な~に冗談言ってんだ」ていう感じ。でも、どうしても乗りたかったから、強行突破しました!今までの自分では、ありえない行動をとったんです。
――それほどまでに、乗りたかったんですね。
理由は分からないですが、強烈に惹かれる何かがありました。新車で購入して、384万円の車両本体価格に、デフロック、メカニカルウインチのフル装備を付けて420万円くらいだったと思います。新卒にはなかなか厳しい値段でした。
だから、お金が無くて、休日はクルマにワックスをかけてドライブして終わり!だって、遊ぶお金がないんだもん(笑)。
幸い、燃料が軽油で63円/ℓと安かったので、走ることだけは我慢しなくて良かったんです。納車の日から3日間で、友達と夜の砂浜でヒルクライムをして1000㎞ほど走りました。
14年乗って、走行距離は17万㎞。何度も車高を上げたり、タイヤやホイールを買い替えては、どうやったら満足のいく走りが出来るのかを試行錯誤しながら乗りましたね。
――手放したキッカケは何だったのですか?
結婚するタイミングで手放したんです。お金が色々かかるだろうなと思ったので、泣く泣くね。
当時はランクルがすごく流行っていて、ランクル60の相場は中古車市場で139万円くらいでした。僕のは17万kmも走ってたけど、全部記録簿が付いていて綺麗に乗っているからと90万円で買い取ってもらったんです。
大健闘の価格だと思いますよ。
だけど、あんなに大好きだった、思い出の沢山詰まったクルマが90万円にしかならないのかと思うと、何とも言えない気持ちになってね……。
契約書にサインをした帰り道、路肩にクルマを止めて泣きましたよ。
僕のランクルの窓には“スペクターオフロード”という、ランクル専門ショップのシールを貼っていたんですけど、実は、売却後にそれを貼っているランクルを2、3回見たことがあるんです。僕のランクルでした。
見ると、とても綺麗にして乗ってもらってるから安心しました。それと同時に、やっぱり60に乗りたいとも思いました。
――その後、ランクル60に乗る機会はあったのですか?
ありました。60以外にも40など、10台以上の色々なランクルに乗りました。
というのも、流行りだからと乗っていたオーナーさん達が、維持が大変だから違うクルマに乗ると3万~5万円くらいで売ってくれたんです。壊れているし、修理するのにお金かかるから要らないということで。
僕は、そういうランクルを何台も引き取り、修理して乗ったり、僕のランクルライフを見て、調子がすこぶる良い状態の60をどうしても乗りたいという人にはお譲りし新しいオーナーの元でまた走り出すという手助けもできました。
60に関するノウハウは、19歳の時に購入して14年間乗っていたランクルのおかげでついていたし、故障箇所を治すのが楽しかったんですよ。
それと、好きなクルマを手元に置いておきたいというのもあったかな。それで、壊れたランクルを10台くらい集めてしまったんです。
でもね、後悔してますよ。そんなことしなきゃ良かったなぁ……って。
――なぜですか?壊れたランクルを修理して乗るって、別に後悔することではないかと思います。
2011年3月11日に地震が発生して、海から800mほどの我が家は津波に飲み込まれてしまったんです。そして、ランクル達も波間に漂う貝殻のように散り散りバラバラになってしまいました。
僕のせいですよ。僕が手元に置いておかなければ、今ごろ誰かが修理して、どこかを走っていたかもしれないのに。なんで集めちゃったんだろうなぁ……。欲しいっていう人はいくらでもいただろうに。僕がね、僕がトドメを刺してしまったようでね……可哀想なことをしてしまったと、長い間心が苦しいんです。
地震が落ち着いて、僕はランクル達を探し回りました。
田んぼにひっくりかえってるやつ。
駅の線路に横たわっているやつ。
瓦礫の上に乗っているやつ。
せめて最後まで見届けなくてはと思い、何日も何日も街を駆けずり回りました。それで、10台のランクルを全て見つけました。
とりあえず、ある場所を全て記録し、瓦礫の上に乗っていたランクルに関しては、ゆっくり下ろしてもらえれば大きな損傷はなく修理出来るかもしれない、実は濡れていなくて乗れるかもしれないと思い、解体屋さんに頼もうと、数日経って行ってみたら……。
ペシャンコに潰されていました。
しょうがないですよ。あの時は人が生きるので精一杯でしたから。そんなことで文句なんて言っちゃいけない。
詳しくは分からないですが、僕がいた場所は、クルマに人が居ないことが確認されると屋根が潰されるんです。おそらく、それが“確認したよ”という合図だったのかもしれないです。
仕方のないことなんです。あの時は、それどころじゃなかったですから。
だけどね、2.5トンの鉄の塊なんだけどね……。
僕にとっては生き物を扱ってるのと同じで、
発見した時は、あぁ……、お前はここにいたのかと。
無惨にも、重機に踏まれて捻れていて、本当にごめんよと。
もう、なんだか……。
なんだかなぁ……と。
僕のせいだよなぁ。
あの震災の後から、僕はもう、ランクル60のディーゼルエンジンには乗っていません。嫌いになった訳ではないんです。でもね、もう乗れません。そして、乗りません。
直噴ディーゼルの排気ガスの匂いを嗅ぐと、60を忘れたいのか、体が拒否しちゃうんです。咳が出たり、テンションが下がったりします。なんだかなぁ。なんともいえない気持ちですよ。
だけど、全てにおいてランクル60は、やっぱり良いんです。お前は、人よりも多くの60に乗ったんだぞ!って、いつも自分に言い聞かせています!
色々なことを勉強させてくれた60に敬意を示すような感じで、自分勝手に60を卒業したような感じですかね!
と、タツヤさんがわざと明るい声で話すのが、逆に悲しさを浮き立たせているように感じてしまいました。乗らなくなってしばらく経った今でも、道でランクル60とすれ違うと、背中がぞくっとする瞬間があるそうです。
「間違いなく、あのクルマは僕の青春でした。もう乗らないけど、今でも大好きなクルマです」
と、腹の底から絞り出すようなタツヤさんの声が、今でも耳に残っています。
(文:矢田部明子)
[GAZOO編集部]
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