「陸の巡洋艦」とは33年目の付き合いに。1987年式トヨタ・ランドクルーザー GX改(HJ60型)

この取材を続けていると、長きに渡り1台のクルマと暮らすオーナーが予想以上に多いことに驚き、そして仕事を抜きにして感動してしまうことも少なくない。

このクルマのオーナーは現在57歳。新車で手に入れてから今年で33年目の付き合いになるという。つまり、20代でこのクルマを手に入れてから今日にいたるまで、人生をともに歩んできた「家族同然」といえる存在だろう。

なぜ、これほどの長い付き合いになったのか?今回はそのあたりの経緯を伺ってみたい。

「このクルマは、1987年式トヨタ・ランドクルーザー GX改(HJ60型/以下、ランドクルーザー)です。手に入れてから今年で33年目、現在の走行距離はまもなく12万キロに到達するところです。長い付き合いになりましたが、このクルマ、飽きることがないんですよ」

60系のランドクルーザーはシリーズ2代目にあたり、1980年8月に発売された55系の後継モデルである。輸出仕様はステーションワゴンというくくりだが、日本国内向けはバン(商用車)となるため、オーナーの個体も1ナンバーである(プライバシー保護の観点からお見せできないのが残念だが、実は掲げているナンバー自体もかなり貴重なものだ)。ちなみに、ランドクルーザーの車名の由来は、英語の「Land(陸)」と「Cruiser(巡洋艦)」を組み合わせ名前であり、「陸の巡洋艦」という意味を持つ。

ボディタイプは大きく分けると「幌」と「バン」が存在し、オーナーの個体は後者にあたる。全長×全幅×全高:4750x1800x1815mm。搭載される「2H型」と呼ばれる、排気量3980ccの直列6気筒OHVディーゼルエンジンの最高出力は115馬力を誇る。

オーナーの個体は社外のオーバーフェンダーが取りつけられ、全幅の数値が異なる。そのため、車検証上にも「改」が記載される。なお、オーナーのランドクルーザーはディーゼル搭載の商用車にあたるので、一都三県(東京都・神奈川・埼玉・千葉県)を走行することはできないが、オーナーのご自宅はこのエリア外であることを追記しておきたい。

さて、20代でこのランドクルーザーを手に入れたというオーナー。どのようなクルマが好みなのか伺ってみた。

「初めて手に入れたクルマはいすゞ・ジェミニZZでした。このとき、妹がハチロクに乗っていたんですが、本人には内緒でこっそり運転していました(笑)。トヨタさんには申し訳ないけれど、ハチロクよりジェミニZZの方が速かったですね。エンジンの音が良く、パワーバンドも広かったです。このクルマの印象は今でも強く残っていて、またいつか乗りたいと思っているくらいです。若い頃は、ラリーにハマったり、日産・フェアレディZ(S130型)をフルチューンして峠を攻めたりしていました。そんなとき、ランドクルーザー専門誌でこのクルマの存在を知ったんです。カッコイイと思いましたね。警視庁や林野庁が業務用として使っているくらいで、街中では見掛けることはありませんでしたから」

それまで、スポーツタイプのクルマが好みだったオーナーは、ランドクルーザーを手に入れたことで新たな世界を知ることとなったようだ。

「カメラが趣味で、ランドクルーザーに寝泊まりしながら1ヶ月掛けて北海道を旅しました。その後、妻と知り合うことになるんですが、初デートのとき、このランドクルーザーで迎えに行ったんです。クルマのことは伝えていなかったんですが、前日の夜、これは単なる偶然かもしれませんが、妻曰く、私が白いランドクルーザーに乗って現れる夢を見たんだそうです。でも、私のクルマはシルバーですしね(笑)。私の誕生日が6月6日で、妻は7月7日だと知り、不思議な縁を感じるものがあって結婚しました。新婚旅行は2人でこのランドクルーザーに乗って、私が独身時代に旅した北海道を“逆ルート”で回りましたよ」

奥さまとの初デートや新婚旅行をはじめとする思い出が詰まったこのランドクルーザー。確かに、許されるのならずっと手放さずに手元に置いておきたいというオーナーの心情は痛いほど分かる。愚問ながら、それほど気に入っているということなのだろうか?

「実は、乗り換えようと思ったことは何度かあったんです(笑)。ずっと所有しておこうと考えるようになったのは、手に入れてから10年くらい経ってからですね。今になってみると、結果的に手放さずに良かったと思っています。趣味で自転車のレースに参加しているのですが、朝が早いので、自転車と荷物をこのクルマに積んで車中泊することもありましたよ。気に入っているところはこのクルマ全体の雰囲気ですね。ボディの見切りの良さ、横から見たときのラインが好きです。ピンポイントなところだと、フロントグリルのシンプルさと薄さが気に入っています」

生産されてから30年以上が経過しているクルマだけに、部品の確保に苦労していないのだろうか…。

「テールランプにひびが入ったときは部品が見つかったのですぐに交換することができました。さすが世界に輸出されたモデルだなと思いましたね。純正マフラーも穴が開くたびに交換しました。3~4回替えたところで純正マフラーが欠品となり、やむなく社外の車検対応品に交換しました。モディファイしたのは、タイヤ&ホイールを交換したことと、それに伴うオーバーフェンダーの装着(※構造変更済み)くらいです」

最後に、このクルマと今後どう接していきたいかオーナーに伺ってみた。

「いまだに“カッコイイ”って思います。クルマを降りることになるその日まで乗りつづけたいです。自分でもまさかこれほど長く乗るとは思いませんでしたが、可能な限り現状維持しつつ、できるだけきれいに乗ってあげたいですね」

最近のクルマは壊れにくくなったことは確かだ。手に入れてから手放すまでエンジンルームを開けたことがないという人もいるかもしれない。それだけに、ちょっとしたトラブルで愛車への想い入れが薄れ、車検のタイミングなどにあっさりと乗り換えてしまうケースも少なからずあるはずだ。

今回の取材を通じて、新車で手に入れたクルマと何十年にもわたり家族同然に暮らすオーナーのカーライフに、深い尊敬と憧れの念を抱いた。と同時に、取材を通じてモノを大切にするオーナーの人柄を垣間見ることでき、とても満ち足りた気分になった。仮に、今年(2019年)新車でクルマを購入したとして、33年後は2052年となる。筆者の現在の年齢を起点に考えると、運転免許返納を真剣に考えなければならない時期だと知り愕然となった。

新車・中古車を問わず、本当に欲しいクルマがあるとしたら…。多少無理をしてでも手が届くのであれば、1日でも早く決断した方がいい。健康を維持して好きなクルマと一緒に人生を歩んでいくことは簡単なようで、年齢を重ねれば重ねるほど難しいことは、ベテランのクルマ好きであるほど理解していただけるはずだ。「惚れ込んだ1台のクルマと長く暮らす生活」。これこそ、クルマ好きにとって極上のカーライフといえるのではないだろうか?そう思えてならないのだ。

(編集: vehiclenaviMAGAZINE編集部 / 撮影: 古宮こうき)

[ガズー編集部]

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