物を大切に永く持ち続けるということ、それは自分の足跡を辿るため。1967年式 ホンダS600。
若い頃に知人が所有していたエスロクに同乗したのをキッカケに、その魅力に取り憑かれてしまったという「杉原さん」。
それまでは、クルマ=足という認識しかなかったそうですが、屋根が無いからこそ得られる開放感、見上げれば空が見える、風を頬が通り過ぎていく感覚にワクワクして購入することを決意したのだとか。
それから気付けば、半世紀近く同じ時を過ごしているそうです。
今回は、杉原さん × S600 (エスロク)のお話をお届けします。
――何歳の時に愛車として迎え入れたのですか?
21歳の時に購入して現在67歳だから、半世紀近く一緒に過ごしています。そのあいだに何度か手放そうと思ったこともありましたが、いまだに乗り続けているんです。
――もしかしたら、奥様とよりも長くいるとか!?
その通りですね。あとは、乗りたいと思っていたクルマとのご縁がなかったので、今に至るといった感じでしょうか。
――どちらにせよ、運命の相手だったということですよ♪
それは嬉しいお言葉ですけど……、結構手はかかりましたね(笑)。買った時点で製造から9年くらい経っていたので、スターターが滑っちゃってエンジンが掛からないとか、初めの頃はしょっちゅう故障してましたから。
もしかしたら、オーナーが僕に代わって、機嫌を損ねていたのかもしれない(笑)。
――じゃあ、修理などが大変なのでは?
付き合いが長いので、乗ったときの異音でなんとなく故障箇所が分かるから、早目の手当てをして致命的な故障を間逃れています。
ちなみに、これは“今”の話。
買った当初は特殊なメカニズムを積んでいる車だとか、どこの工場に持っていけばいいだとか、維持する上で押さえておかなくてはいけないことなんて全く分かりませんでした。購入してから、「あれ?これは大変だぞ」と(笑)。
――なるほど。では、何から勉強したのですか?
まずは部品問題からですね。故障した部品を注文する時って、車体番号や部品番号を探して注文するんですが、初めはそれが分からないから猛勉強。これを理解しないことには、修理が出来ないですからね。
幸い、家の近くにホンダのパーツセンターがあったので、パーツリストという本をお借りしてコピーをさせてもらい、製本することから始めました。
エスロクの部品って、年式が1年違うだけで、部品の適合性がないというものもあるんですよ。そういう情報も集めていたら、いつの間にかパーツセンターの方から部品の適合性があるか教えてくれと言われるようになりました。
よく、職場に電話がかかってきてましたね(笑)。
――すごい!大成長ですね!
あはは(笑)。その頃から生活に影響を与えない程度に部品を買い続けていたら、いつの間にかパーツセンターには私専用のボックスが出来ていました。
毎月結構な額が飛んでいってね。若かったから給料も少なくて、倹約するために昼ごはんを抜いたりとかしていましたよ。でも、その時に頑張ったからこそ、今も部品に困ることはありません。
あっ!さっきの話に戻りますが、ほかには修理をどこに頼むかもこだわりました。僕は信頼できるメカニックに頼みたかったから、転勤したメカニックを頼って福岡から熊本まで通ったこともありますよ。
――長く乗ろうと思っていたことが、とても素敵です。
物を大切に永く持ち続けるということは、人との付き合いにも繋がると思っているんです。
物を粗末に扱う人は、人に対しても雑な扱いをする人が多かったから。今はそういう人とは疎遠になっているし、性格的に惰性で付き合うのは苦手なんです。
それと、クルマ然りオーディオやミニカーも大事にしているのは、それぞれに当時の思い出やドラマがあるからです。苦労して手に入れたということもありますが、それらは自分の足跡ですから。
――もしよければ、思い出を1つ教えて頂けませんか?
もともとオープンに出来るクルマというのが良くて購入したから、寒かろうが暑かろうがオープンで走っているんです。
その日もオープンにして遠方に行ったんですけど、高速道路を走行中に突然雨が降ってきてしまって(笑)。仕方ないからオープンのままワイパーをかけて、横を通り過ぎて行く人に笑われたのは良い思い出ですね。
そういうこともあったからか、今は走行中の外気の温度や風の感じで雨が降りそうだなと分かるようになってきました。オープンで走り続けてきた長年の勘ってやつです。
思い出はほかにも沢山ありますが、話しだしたら何時間にもなっちゃうから、ここまでにします。
――乗っている年月が長いですものね。今は、どういう乗り方をされているんですか?
休日の早朝、太陽が登る前に家を出発してドライブに行っています。クルマも人気も少ない、シーンと静まりかえったいつもの海辺のコースを走るのが楽しみでね。自分だけの時間を楽しんでいます。
考えてみれば、助手席に人を乗せたことはあまりなかったな……。というのも、600CCなので、大人2人が乗ってしまうと思ったような走りが出来ないんですよ。だけど、それでいいか。これはあくまでも、自分の時間だから。
杉原さんにインタビューしていると、後生大事という四字熟語が頭の中に浮かんでくるのです。自分の大切な物を愛でながら丁寧に時を重ねていく姿に、筆者は心がふわっと暖かくなりました。
これからも、エスロクとともに同じ時を重ね、思い出がたくさんできていくのでしょうね。
(文:矢田部明子)
[GAZOO編集部]
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