日常からサーキットまで世界を広げてくれたホンダ・S2000と、まだ見ぬ景色へ
デビューから、25年以上の年月を経たホンダ S2000。コンセプトに「新世代リアルオープンスポーツ」を掲げたオープン2シーターのFRスポーツで、搭載される超高回転型ユニットと鋭いハンドリングは、今も多くのファンを惹きつけてやみません。
そんなS2000(AP1中期型)と5年間をともにしているのが、今回の主人公「やまし」さん(27歳)。S2000との日々のなかで、カーライフが豊かになっている実感があるそうです。
――S2000はいつから気になっていたクルマなのですか?
父がそれなりにクルマ好きで、昔から家にはS13シルビアやフェアレディZがありました。幼い頃からミニカーやラジコンでも遊んでいたので、自然とクルマに囲まれた環境で育ったと思います。なので国産スポーツの車種としてS2000は知っていました。
存在をはっきり意識したのは、幼少期に遊んでいた「グランツーリスモ2」のオープニング映像です。
エレキギターのイントロとともに、S2000がホイールスピンしながら走り出すシーンがとにかくカッコよくて、毎回ゲームを始める前に何度も見ていました。今もたまに見るくらいです。
――乗りたいと思うようになった理由は?
中学生になってクルマの知識もついてきました。そんなときアニメ版の「頭文字D」を観ていると、S2000が登場したんです。
主人公の藤原拓海を追い詰めるマシンとして描かれていたのが、城島俊也が乗るS2000でした。作中では、高橋涼介が「乗りこなすのは難しい」と解説する場面もあったんですが、これをきっかけに運転技術を要するメカニズムに憧れて「S2000に乗りたい」と思うようになりました。
――S2000に乗る前は、どんなクルマに乗っていたんですか?
最初の愛車は、父が乗っていたフェアレディZ(Z33)を譲り受けました。ZのV6エンジンの力強さとスタイリングはとても魅力的でした。
その次に乗ったのが、GD系のインプレッサです。初めて自分で選んだ愛車だったので思い入れもあり、ターボの強烈な加速やボクサーサウンドがすごく気に入っていました。約3年間乗りましたが、心のどこかに「いつかS2000に乗りたい」という憧れはずっとありました。
――実際に手に入れるまで、どんなふうに気持ちを高めていたんですか?
ゲームの存在は本当に大きかったです。「頭文字D ARCADE STAGE」や「バトルギア」など、S2000が登場するアーケードゲームが好きです。
自宅でもシミュレーター環境を組んで「グランツーリスモ」をプレイしていました。
――そしてついに実車を手に入れたわけですが、納車当時はどんな感じだったんですか?
就職してすぐ購入しました。県内に2002年式でフルノーマルの個体が出ているのを見つけたんですが、状態も良さそうだったので、現車確認して即決でしたね。
納車日は、電車とバスを乗り継いで2時間かけてお店に向かったんです。到着すると、エントランス前に鏡のように磨かれた「ベルリナブラック」のS2000が置かれていたんです。
納車当時の走行距離は約6.6万kmだったんですけど、「新車か?」と錯覚するほど綺麗だったんですよ。でも渡されたキーには擦り傷がたくさんあって、前オーナーと走ってきたんだなと歴史を感じました。「大切にしてくれよ」と言われたような気がして、バトンを渡された気持ちになりましたね。
――2002年式なので AP1の中期型ですよね?珍しいと思いますが、こだわって選ばれたのですか?
最初は初期型を探していたんですが、強いこだわりがあったわけではないです。結果的に今の個体と出会えて本当に良かったです。
――しかも真っ赤な内装なんですね。すごくカッコいいです!
そうなんです。S2000の「赤内装」といえば赤黒のツートンが多いんですけど、珍しいオールレッドの内装です。このクルマでいちばんのお気に入りポイントになりました。
――なるほど。では、S2000に乗って一番印象に残ったことを教えてください
納車後、そのまま日本平の峠をドライブしたんです。そこで初めてオープンで走ったときの衝撃は、今でもはっきり覚えています。
「開放感」という一言では表現できません。幌を開けた瞬間、目の前に広がる風景が飛び込んでくるようでした。入り込む風、空気の匂いや木々が揺れる音、エンジン音など、すごい情報量とスピードでダイレクトに流れ込んできます。クルマと一体になって走るとはこういうことかと。
これまで、S2000といえばエンジンやハンドリング性能だと思っていました。オープンはオマケくらいに思っていましたが、この感覚は一度味わうとクセになります。オープンで走ることで、クルマと一体になる感覚が何倍にもなると思うんですよ。
――めちゃくちゃエモいです。 そういえば、彼女さんとの出会いのきっかけもS2000なんですよね?
きっかけは、彼女をドライブに誘ったことなんですよね。もともとクルマには興味なかった人で、S2000も最初「外車かと思った」と言ってました(笑)。オープンドライブも楽しんでくれて「また行こうよ」と言ってもらえて、今に至りますね。
――それ以外にも、S2000で驚いたことはありますか?
リアコンソールの上にも小物入れを発見したことです。4年間ずっと気がつかなくて、ある日見つけて驚きました(笑)。
それと、助手席のドアだけを開けて閉めると数十秒後に自動でロックされるんです。鍵を車内に置かないよう、ポケットに入れて確認するようにしています。
――モータースポーツも始められたそうですね?
最初は「広場トレーニング」という練習会に参加して、基礎的な技術を学びました。プロドライバーの方から直接アドバイスをいただくのですが、目からウロコでした。
なかでも印象に残っているのがブレーキングについてです。減速中に前荷重になりすぎると、クルマがなかなか曲がってくれない。そこでブレーキから力を抜いてあげると、クルマがスッと内側に向き始めるんです。クルマっておもしろいですね。
最近、サーキットデビューしました。広場トレーニングで学んだことを生かせたと思いますし、成長を感じることができてうれしかったです。もっと上達したいですね。
――普段の運転で、意識していることってありますか?
街中でもGを意識しながら運転するようになりました。クルマの姿勢を常に意識するようになったからか、同乗者からも「乗り心地がいい」と言われることが増えました。
――カスタムは、購入してからすぐにされたんですか?
いえ、4年間ほどは完全に純正で乗っていました。もともと状態のいい個体だったので、素の性能を味わいたいという気持ちが強かったんです。モータースポーツを始めたことで、やりたいことが具体的に見えてきたので、街乗りもサーキットも楽しめるバランスを意識しながらアップデートしています。
足回り、ブレーキ、デフ、冷却、補強と走るための装備を強化しています。バケットシートを入れたときは効果を実感できて、コーナリング中に体の軸がぶれなくなって、操作に集中できるようになりました。
――メンテナンスで気をつけていることは?
黒いボディなので、汚れが目立つんですよ。週1ペースで「手洗い洗車」をしています。愛車がきれいだと僕のメンタルにも良いですし、クルマの変化にも気づきやすいので、メンテナンスにもつながっていると思います。
ただ、やはり年式的に劣化は避けられないですよね。異常にできるだけ早く気づけるように、音や匂いの変化には注意しながら乗っています。
それから、さっきの“S2000あるある”かもしれませんが、オイル減りもあります。この個体も1000キロで1リットルくらい減っていたこともあるんですが、オイルの銘柄を変えてからかなり改善されました。
――SNSでも愛車のことを楽しく発信されていますね
SNSを始めたのはここ1年くらいなんです。おかげで、フォロワーの方とお会いする機会も増えました。
S2000に乗り始めたのはコロナ禍のタイミングだったので、これまでは一人で完結するカーライフが基本でした。SNSを通じて情報交換したりツーリングに行ったりするようになり、楽しみ方の幅が一気に広がりました。
――やましさんにとって、愛車とはどんな存在ですか?
自分を映す鏡のような存在かもしれないです。パーツの選び方、走り方、メンテナンスのやり方まで、自分の価値観や性格が出る“診断テスト”のようですね。クルマを通じて自分を発見できるような気がします。
――今後、S2000とどう付き合っていきたいですか?
できれば、ずっと乗っていたいです。運転技術においてもS2000にふさわしい乗り手に成長していけたらいいですね。
年式的にこれから故障も増えるとは思いますが、可能な限り良い状態を保っていきたいです。今の目標は走行距離25万km超えです。
やましさんにとってS2000は、自分らしさをカタチにしてくれるパートナーのようです。そして、クルマを通じて広がっていく世界こそS2000のコンセプト「リアルオープンスポーツ」の本質なのかもしれないと感じました。
素敵なエピソードの数々。25万kmの先にある景色も、ぜひS2000と一緒に見てほしいと思います。
【X】
やましさん
(文:野鶴美和 写真:やましさん提供)
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