やっと出会えたコンパクトなホットハッチ『ホンダ・初代シビックRS』に心酔
SUVやセダン、スポーツといったキャラクターが整然と区分けされている現在の車種構成とは違い、ひと昔前まではどの自動車メーカーでも1つの車種の中に複数のキャラクターを持たせたファミリーネーム展開が当たり前だった。
そんなファミリーネームを冠したモデルの中で、スマッシュヒットとなったのが1972年に誕生したホンダ・シビック。中でも吉野さんが乗る1975年式ホンダ・シビックRS(SB1)は、シリーズの中でもスポーツモデルに位置付けられたクルマである。
1970年代に強化された排ガス規制をクリアして世界的なヒットを記録し、以降のホンダ躍進に大きく貢献したのが初代シビックだ。コンパクトさを重視した基本設計には、2ドアと4ドアの2ボックスセダン、3ドアと5ドアのハッチバック、さらに5ドアバンが用意され、ファミリー層から若者、さらにビジネスユースまで幅広いユーザーの好みに対応していた。
特に若者にターゲットを据えたスポーツモデルのRSは、日本における元祖ホットハッチと呼ばれるほど人気を集め、コンパクトスポーツの先駆けとなったモデルと言えるだろう。
吉野さんがそんなシビックRSを手に入れたのは6年ほど前のこと。以来、自分好みのスタイリングを模索しながら、旧車ライフを満喫しているそうだ。
「これまでいろんなクルマを乗り継いできましたが、そろそろ1台の旧車に長く乗ろうと考えた時に出会ったのが初代シビックなんです。とは言っても、当初手に入れたのは4ドアセダンの1500GLで、このRSとは別のクルマだったんですよ。1500GLでイベントなどに参加するようになると、そのうちに初代シビックオーナーズクラブの方に声をかけてもらえるようになり、次第にクラブにも参加するようになりました。」
「しかし、そのクラブではやっぱりRSオーナーがほとんどで、4ドアセダンは少数派。長く乗り続けようと思っていたんですが、やっぱりスポーツカーのRSを見ると羨ましくなる。そうこうしているうちに、クラブの方から休眠中のRSを譲ってもらえる話を頂いたんです。同じシビックですが、やっぱりファミリーカーよりもスポーツカーの方が好みでしたので、RSに乗り換える決意をしたんです」
もともと4ドアセダンを長く乗り続けるつもりでいたので、輸出仕様の純正パーツなどカスタムパーツも徐々に揃えていた。フロントグリル部に装着されるウインカー/スモールランプなどもそのひとつで、RSに乗り換えても集めていたパーツを活用できているのは幸いだったという。しかし、いざ装着してみるとウインカーとスモールを同時点灯させると対向車から見にくくなることが判明。そんな訳もあって、ウインカーはヘッドライト下にLEDテープを使って独立させている。またノーマルでシールドビームとなるヘッドライトは、H4バルブが使えるものにアップデートし、明るいLEDバルブをセット。夜間でもストレスなく走れるように、機能向上を果たしている。
純正パーツだけでなく、当時モノの社外パーツも収集し、雰囲気を変える楽しみも満喫中。当時モノでも汎用品を組み合わせるのではなく、初代シビック専用品の中からチョイスするのもこだわりだ。中でもドアミラーはお宝アイテムのひとつで、ドアサッシの形状に合わせて専用マウントが作られているため、違和感のないフィッティングとなっている。また、ノーマルのフェンダーミラーの穴は、万が一ノーマルに戻すことがあってもいいように、カッティングシートで簡易補修。こうすることで、気分次第で好みのスタイルを選べるというのも、吉野さん流の楽しみ方だ。
さらに、フロントリップスポイラーも当時モノを見つけて装着。スチールのプレスバンパーと組み合わせることで、いかにもホットハッチと思わせる雰囲気を高めてくれる。
さらにRSワタナベ製の8スポークを履かせるなど、今で言うところの“旧車ならではのスポーツスタイル”を完成させているのである。
多くの社外パーツを組み合わせる中で、特に目をひくのがマルエヌ製のラグトップ。このアイテムは前オーナーの手によって取り付けられたものだが、こちらも専用設計品となっていて内装の処理なども完璧。取り付けてからすでに数十年は経過していると思われるが、縮みや切れなどもなく、現在も雨漏り知らずのコンディションが維持されているという。
「この時代のアフターパーツでは、サンルーフも人気があったみたいですね。でもガラス製のサンルーフだとチルトにしかならず、このラグトップならガバッと開いて開放感も抜群。RSを譲ってもらう時に、このラグトップが付いていることが決め手になったとも言えるんですよ」
整備が行き届いてクリーンな状態をキープするエンジンは、オリジナルのEB1型を搭載。最高出力はカタログ値で76psまで高められているのがRSの特徴だ。ノーマルのキャブレターは、ケイヒン製CVキャブレターのデュアルだが、吉野さんのRSは今後も長く乗り続けるために、部品の供給が見込めるソレックス製の36φキャブに変更。エキゾーストマニホールドやマフラーも変更され、スポーツカーらしく高回転域までスムーズに回り、気持ち良いサウンドも手に入れている。
「元来、原動機に興味を持っていて、2輪から4輪までなんでも好きなんですよ。だから若い頃にはN360とかフロンテクーペ、ブルーバードSSSといった軽快に走るクルマを楽しんでいました。だからこそシビックもRSにたどり着いたのは必然という感じですね。ちなみに整備に関しては基本的にディーラーにお任せしています。自分で工具を握るのではなく、製造したメーカーに責任を持って面倒をみてもらう。そんな考え方や環境が広がって対応してくれるお店が増えれば、旧車はもっと身近な存在になるんじゃないかなって思っているんですけどね」
助手席のダッシュパネルには、標準車にはないRSのエンブレムとアナログ時計が組み込まれている。ちなみにグレード名として掲げられるRSは、一般的には「レーシングスポーツ」といった意味を持っているものがほとんど。しかしシビックRSの場合は「ロードセーリング」の略であり“レーシング”を冠していなかったというのは意外な事実。
というのも、当時は第一次オイルショックや排ガス規制の強化といったニュースが沸き立っていた時代だけに、高性能を印象付ける“レーシング”という表現を使いにくかったという説が濃厚で、誕生した時代背景にも影響されたネーミングであることが推察できる。
ボディやパワートレインだけでなく、内装も美しいコンディションが維持されている。ファーストオーナー時代から残されているドアパネルのビニールも、焼けやカスレもなく残っているのは大切に扱われてきた証拠。内張りを保護するビニールがキレイなままということは、当然内張り自体も新品同様の状態だ。状態の良い車体もまだ残っているとはいうものの、このクオリティは滅多に見ることはできないだろう。また、助手席のシート表皮なども使用感は少なく、トータルでコンディションの良いインテリアとなっている。
当初の目的でもある「1台の旧車に長く乗ろう」を実現するために、ナビゲーションなどの近代装備も重要なアイテム。そのためダッシュボード下の空間を活用し、ステーを製作して、2DINユニットを搭載している。ガレージに大切にしまいこんでおくのではなく、ミーティングやイベントにも積極的に自走で参加するには、エンターテインメントをはじめとする快適装備も必要というワケだ。
「初代シビックの良さは、今の軽自動車クラスのサイズで、扱いやすいのにパワフルに走ってくれること。もちろん運転していて飽きがこないっていうのもRSを選んで正解だったと感じていますね。今ならクルマ選びの選択肢としてハイパワーなスポーツカーも数多くありますが、コンパクトサイズにまとめられ、気持ち良く走れるクルマとなると、シビックRS以外は考えられないかな。それと、探せば色々なパーツが発掘できるクルマなので、イジる楽しみまでも満喫できるというのは、自分にとっては魅力的なんですよ」
日々シビック専用パーツを探し続け、偶然にも出会えたならそれは運命というもの。次に出会う機会を待つのではなく、多少無理をしてでも手に入れるのは吉野さん流の付き合い方だという。しかし、そうは言っても欲しいパーツと出会える可能性は限りなく低く、自分の思い通りのスタイリングに仕上げるには、長期のプロジェクトになることは覚悟しているそうだ。まだまだ納得のスタイリングには到達していないというだけに、吉野さんの楽しいシビックライフはこれからも永続されていくに違いない。
取材協力:横浜ヒストリックカーデイ
(文:渡辺大輔/撮影:中村レオ)
[GAZOO編集部]
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