【現地取材】MaaS Global社創業者に聞く! 日本版MaaS実現に向けた課題―MaaS最先端都市ヘルシンキ編④

MaaSアプリ「Whim」の日本展開について説明するMaaS Global社 共同創業者のカイ・ヒューヒティア氏
MaaSアプリ「Whim」の日本展開について説明するMaaS Global社 共同創業者のカイ・ヒューヒティア氏

世界で初めてMaaS社会を実現した最先端シティ、フィンランド・ヘルシンキ。その先進的な実例から日本でのMaaS展開の未来を考える連載第4回は、千葉県で2019年12月から実証実験が始まっているMaaSアプリ「Whim(ウィム)」の国内展開と今後について、MaaS Global社で伺った話をもとに紹介していく。
説明してくれたのは、前回に引き続き共同創業者のカイ・ヒューヒティア氏だ。

世界で初めてMaaSを実用化したヘルシンキの町並み
世界で初めてMaaSを実用化したヘルシンキの町並み

MaaS Global社はスマートフォンアプリ「Whim」を開発した企業で、ヘルシンキの公共交通機関やタクシー、レンタカー、シェアサイクルなどの移動手段を組み合わせたルート検索、予約、決済を一元化したサービスを提供している。

2017年からはベルギー・アントワープ、イギリス・バーミンガム、オーストリア・ウィーンでもサービスを展開。都市により料金は異なるが、住民向けの定額プランのほか、旅行者や短期利用者向けの都度払いのサービスを提供している。
また、すべてのサービスが使えるわけではないが、シンガポールやロンドン、ミュンヘンでもタクシー事業者と協業してWhimが使えるようになっている。

2015年創業からの歩みを語る カイ・ヒューヒティア氏
2015年創業からの歩みを語る カイ・ヒューヒティア氏

MaaS Global社には、数多くの企業が創業当初からそのコンセプトに注目してきた。
例えばトヨタファイナンシャルサービスとあいおいニッセイ同和損保は、さまざまな交通機関が連携するMaaSの仕組みと、自動運転やコネクティッドカー、シェアリングエコノミーとの親和性の高さに着目し、2017年には同社への出資を決めている。
両社はWhimで収集されたデータを分析することで、自社顧客へのサービス展開へつなげたり、ノウハウの収集に努めたりと、クルマの所有から利活用へ変化する消費行動を捉えるべくアクションを起こしたのだ。

このほか三菱商事やデンソーもMaaS Global社に出資しているが、2019年4月には異業種ながら三井不動産がMaaS Global社との協業を決めている。

三井不動産が手がける「柏の葉スマートシティ」のWebサイト
https://www.kashiwanoha-smartcity.com/

日本では千葉・柏の葉で実証実験が進行中

ヒューヒティア氏は、「日本では地域を区切って、各公共交通機関やタクシー事業者、レンタカー事業者などとコンタクトしています。ある都市では公共交通機関との交渉が進まず、自治体との交渉も時間がかかり、スタートまで2年間を要しました。日本でも交渉が進むところもあれば、停滞するところもあります。そのため、まずは地域を区切って始めようと思ったのです」と、日本国内での導入方法について語ってくれた。

ある都市とはオーストリア・ウィーンのことで、ウィーンでは2014年から2015年にかけて、国鉄のオーストリア連邦鉄道とウィーン市交通局の地下鉄・トラムなどの公共交通機関とタクシー、カーシェアリング、シェアサイクルなどを組み合わせて、乗換検索から予約・決済までがスマートフォンアプリで完結する実証実験(Vienna SMILE Project)がいち早く進んでいた。MaaS Global社の参入に時間がかかったのは、こうした先行事例があったためのようだ。

さて、地域限定でスタートするという日本国内でのWhimのサービスだが、前述の三井不動産と共同で柏の葉(千葉県柏市)を中心に、2019年12月から実施している。
柏の葉は三井不動産によってスマートシティプロジェクトが推進されていて、「公・民・学」の連携をベースに未来の都市作りを行なっている。

まずは柏の葉を中心に、バス、タクシー、カーシェアリング、シェアサイクルを組み合わせて、目的地までの移動手段の検索とルート選択、予約・決済がWhimだけでできるようになっている。
現状では移動手段に電車が含まれていないが、連携に向けての議論は行なっているそうだ。

電車も含めた移動手段とルート検索が実装され、予約から決済まで可能になればWhimの利便性はぐっと高まる。
2020年にはWhimの特徴である定額プランを導入することを検討しているそうで、料金面でサービスの幅が広がれば利用者のメリットも大きくなるだろう。

トヨタと西日本鉄道は、2018年11月から福岡市と北九州市でMaaSアプリ「my route」の実証実験を行い、2019年11月には本格運用を開始した。そこには多数の事業者が参入、連携している
トヨタと西日本鉄道は、2018年11月から福岡市と北九州市でMaaSアプリ「my route」の実証実験を行い、2019年11月には本格運用を開始した。そこには多数の事業者が参入、連携している
KDDI(au)の「auスマートパス」「auスマートパスプレミアム」会員限定で「my route for au」を提供。乗車券の割引などを行なっている
KDDI(au)の「auスマートパス」「auスマートパスプレミアム」会員限定で「my route for au」を提供。乗車券の割引などを行なっている

このほか、日本国内では各地域で試験的にMaaSが運用されており、トヨタが福岡市と北九州市で展開する「my route」、JR西日本が実施している瀬戸内エリアの観光型MaaS「setowa」や、小田急電鉄が箱根や新百合ヶ丘エリアで提供している「EMot」、東急とJR東日本が提供する「伊豆MaaS」などがそれにあたり、2019年は日本のMaaS元年でもあった。

MaaS Global社は、これらの地域限定としたMaaSとも協業することができ、事業者は複数から選べるほうがよいと考えている。WhimはあくまでMaaS社会を実現するための基盤であり、サービスを独占するものではないということだ。

それぞれのMaaSアプリに特長があり、利用者が自分に適したサービスを選べることが理想としている
それぞれのMaaSアプリに特長があり、利用者が自分に適したサービスを選べることが理想としている

各地域で産声を上げた日本版のMaaSだが、さまざまな公共交通機関がデータをオープン化することで予約や決済まで一元化できれば利便性はかなり高まる。利便性が上がることで認知度も向上し、MaaSが国内のあらゆるところで利用可能になるはずだ。

一方、すでに地元でMaaSが実用化されているという訪日外国人に対して、普段から使っているMaaSアプリをそのまま日本でも使えるようにしようという取り組みも始まっている。
小田急電鉄が整備を進めるオープンなデータ基盤「MaaS Japan」は、WhimとmobilityX(シンガポールのMaaSアプリ)とサービス連携を行なうと発表しており、両アプリは日本でのサービス展開の検討を始めている。

まずは限られた都市や観光型でスタートするが、過疎地域での移動手段の確保などもMaaSによって解決を目指し、実際にサービス実施の検討まで進んでいる。移動手段をシームレスにつなぐMaaSには、さまざまな可能性が詰まっているのだ。

MaaS Global社の社内は、日本人がイメージするまさに北欧風でおしゃれだ
MaaS Global社の社内は、日本人がイメージするまさに北欧風でおしゃれだ

ついに日本国内でも試験的なサービス運用が始まったWhim。
公共交通機関を1つの事業者で提供するヘルシンキと異なり、日本には多くの交通事業者が存在するため、利害関係を調整して同意を取り付けるには一筋縄ではいかない。
そのため、まずは地域ごとでの活用と利便性の構築を行なっていく手段を採った。
ヘルシンキで実感したWhimの利便性は、導入されれば日本のどの地域でも同じように享受できるはずだが、そこに至るまでのハードルはまだまだ高そうだ。

次回は、フィンランドでなぜこれほどのスピード感でMaaSが実用化できたのかを、行政機関のフィンランド運輸通信省に聞いてみよう。

[ガズー編集部]