【現地取材】街とモビリティが調和するスマートシティ、バルセロナ 20年目の挑戦―スマートシティ最先端都市バルセロナ編①
- バルセロナの世界遺産サグラダ・ファミリア。ICTのフル活用で工期が300年から150年に短縮する
フラメンコ、闘牛、パエリア、ワイン、地中海バカンス。スペインから連想するのは、華やかさや情熱にあふれるイメージだ。18世紀後半にアントニ・ガウディが設計し、完成まで300年掛かると言われていたバルセロナのサグラダ・ファミリアを思い出す人もいるだろう。
ところがこのサグラダ・ファミリア、ICT(情報通信技術)を活用することで工期を半分に短縮、ガウディ没後100年の2026年に完成する予定なのだという。
スペイン第2の都市として発展を続けるバルセロナ市の面積は101.4㎢、人口は161.9万人。東京23区を上回る人口密度の超過密コンパクトシティだが、市民や街が抱えるさまざまな課題をサグラダ・ファミリアと同じようにICTが解決している。
- 観光名所サグラダ・ファミリア周辺は、多くの連節バスが行き交っていた
2000年から始まったバルセロナ市のスマートシティ化
街の課題をICTで解決し、市民生活の改善や経済的な発展を促す「スマートシティ」。その定義は広く、行政窓口の電子化や電車・バス・マイカーによる安全で効率的な移動と渋滞解消、エネルギーの効率利用、資源の循環など、多くの要素で構成されている。
分かりやすく言えば、インターネットなどの通信技術とIT技術を活用して、交通や行政・防災・エネルギーなどの都市基盤から市民の暮らしまで改善と発展に取り組み、それを維持できる社会を目指すもの、と言える。
バルセロナのスマートシティ化は、1992年のバルセロナオリンピックから8年後、2000年に始まった。日本では前年にNTTドコモからiモード携帯が発売され、2000年の流行語に「IT革命」が登場した時期と聞けば、いかにバルセロナが進んでいるか分かるだろう。
冒頭で紹介したサグラダ・ファミリアは、手作り模型で行なっていた構造設計をコンピューター上で行なうことで、工期半減という圧倒的な時間短縮を実現した。これはあくまで「1つの大規模工事が効率化された」例だが、バルセロナはICTの活用でもっと身近な街の課題を解決していった。
一見普通の信号機だが、よく見るとセンサーやカメラなどが取り付けられている
街中のセンサーを統合システム「センティーロ」が一元管理
バルセロナ市がスマートシティ化への取り組みを始めた2000年から20年、代表的な例として以下のような変化がある。
(左は従来の手法 → 右はスマートシティ化後)
◆ 駐車車両を1台1台管理員がチェックして報告 → 駐車センサーを街中に敷設
◆ 警察が定期的に速度取り締まりを実施 → 主要道路にスピードセンサーとカメラを設置
◆ ゴミ収集所が空でも満杯でも定期巡回 → すべてのゴミ箱にセンサーを設置、満杯のゴミ箱を優先して回収
◆ 公園の散水栓は水を出しっぱなし → 気温や湿度をセンサーが監視して制御
◆ 街灯は暗くなったらすべて点灯 → 周囲の明るさや人通り、治安も加味して照度制御
街中にセンサーを実装してネットワーク経由でデータを送受信、集めた情報は「センティーロ(Sentilo)」と名付けられた統合システムに集約。
交通担当、環境担当など市役所の各部門や関連する業者がセンティーロの情報を参照して対応することで、電気代や水道代といった直接的なコスト削減はもちろん、交通事故の減少、市民への情報発信など、スマートシティ化による行政効率化と市民サービス向上は多岐に渡る。
- 道沿いにある噴水や街路樹・芝生用の散水栓も、センティーロに接続されている
スピードセンサーと信号機の連動で生活道路をより安全に
日本でも郊外や高速道路を中心に速度取締機が設置されているが、バルセロナの取り組みはもっと直接的だ。バルセロナでは生活道路の制限速度は時速30kmと決められており、30km/h以上で走行するとセンサーが感知して、次の信号が赤になる。事故防止に役立つほか、クルマの流れが平準化されるため渋滞の抑制効果も得られる(一定以上のスピード超過や信号無視などをしてしまうと、ナンバープレートの情報を元に後日違反通知と請求書が届くそうだ)。
- バルセロナ空港へ向かう高速道路で撮影したオービス。日本のものとよく似ている
道路センサーの活用はスピードの取り締まりだけでなく、駐車システムでも活用している。バルセロナの市街地は駐車スペースの確保が困難なため、車道の一部を利用した「スマートパーキングシステム」を導入している。
集合住宅の前など「緑色」の縁石は住民用駐車スペース、「黄色」は貨物車用スペース、「青色」は有料の一時駐車スペースと決められており、空き状況はセンティーロで管理され、Webサイトやアプリを通じて市民も確認することができるのだ。
- 道路を活用したスマートパーキングシステムで駐車スペースを確保
- 道路のあちこちにセンサーや表示ランプが実装されていた
シェアサイクルも市民の足として定着
バルセロナ市街地の公共交通機関はバスと地下鉄があり、ターミナルと目的地をつなぐ移動手段としてバルセロナ市が運営する市民向けシェアサイクルサービス「Bicing(ビシング)」がある。
年間47ユーロほど(約5700円)の登録料を支払えば、市内400か所以上のステーションにある6000台以上の自転車が利用でき、30分以内なら追加料金はない。現地のスタッフは、「30分以上掛かる場所に行きたい場合は、どこか途中のステーションで乗り換えればいいから、要するに無料だよ」と笑っていた。
もちろんステーションごとの自転車台数は「センティーロ」で管理。朝と夕方で人の流れが変わるため、時間帯毎に最適な台数がトラックで移動・補充されている。
市内400か所以上に整備されているシェアサイクルステーション。必要に応じて専用台車付きトラックが移動している
アプリを見ると街中至るところに設置されていることが分かる
さまざまな情報とサービスが「つながる」ことでメリットが出るスマートシティ。取り組みを始めて20年が経過したバルセロナ市では、年間1兆円もの経済効果が得られているという。1つ1つの取り組みは珍しいものではないが、そのすべてが「センティーロ」に接続されているという点がとても興味深い。次回は社会インフラの課題と取り組みについて紹介しよう。
[ガズー編集部]
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