【現地取材】18世紀の都市計画が遺るバルセロナ旧市街 大気汚染解消を目指して―スマートシティ最先端都市バルセロナ編⑤
- バルセロナ旧市街、ゴシック地区にあるバルセロナ市庁舎
今から約2000年前、バルセロナの起源となるローマ帝国の植民都市「バルキーノ」が存在した。1931年にバルセロナ市の地下から遺跡の一部が発掘され、バルセロナ歴史博物館の地下で当時の姿を見学することができる。
紀元300年頃に造られた城塞と市壁は18世紀まで外敵から街を守り続け、その市壁に囲まれた地区が現在のバルセロナ旧市街=ゴシック地区となった。1859年には都市再開発(バルセロナ大拡張計画)でゴシック地区周辺に「碁盤の目」に整理された新市街が造られ、現代に至っている。
- バルセロナ市役所のホームページには大気の状態がリアルタイムで表示される。キャプチャ時は基準をクリアしている状態(右上)
https://ajuntament.barcelona.cat/qualitataire/en/afectacions-la-mobilitat/what-barcelona-low-emission-zone
2000年からスマートシティ化の取り組みを進め、2014年には優れた実績を表彰するEC「iCapital」アワードも受賞したバルセロナ市だが、残念ながらEUが定める大気汚染基準を現時点でクリアできていない。
160万市民が東京23区以上の人口密度で暮らし、そこに年間3,000万人以上(参考:2019年の訪日外国人の総数は3,188万人、バルセロナ市と日本国の面積差は3,700倍以上)の観光客が訪れる「超過密観光都市」の交通渋滞と排気ガスによる大気汚染解決は喫緊の課題となった。
2020年1月からは市内全域をZBE(低排出ゾーン、詳細は連載記事で後述)に定め排出ガス基準を強化しているが、慢性的な渋滞と大気汚染を解決するため特に市内中心部で実施されている大規模な取り組みを見てみよう。
18世紀に整備された碁盤の目
- (左) サグラダ・ファミリア付近の街灯にあった観光案内地図 / (右)交通局アプリでより広域を見た様子
旧市街(細い路地が入り組むゴシック地区)と新市街(整然と碁盤の目が並ぶ1859年再開発地区)の境界は地図で見ると一目瞭然。そもそもクルマの通行が困難な場所が多い旧市街はほぼ全ての道が一方通行で、許可車以外は進入できない場所も多い。
新市街は十分な道幅と緑溢れる街並みを目指し再開発されているが、160年前の設計当時、20世紀にクルマが急激に増えることは到底予測できなかったことだろう。
- 旧市街の中心にあるサン・ジャウマ広場。左がカタルーニャ自治政府庁、右がバルセロナ市庁舎
バルセロナの行政機関が建ち並ぶサン・ジャウマ広場周辺は旧市街の中心にある。日本の官庁街とは異なりサン・ジャウマ広場に乗用車の気配は無い。周辺の道路とは接続されており、取材時には配送トラックが1台だけ広場に入っていた。
続いて若かりし頃のガウディがデザインした街灯があるというレイアール広場まで歩いてみると、こちらでもトラックが1台のみ駐車して荷捌き作業をする姿が見られた。
許可車両が制限区域に入り、アプリで駐車申請し、それを交通局の管制センターが確認していることを想像しながら見ると、またちょっと違う景色に見えてくる。
絵に描いたようなオシャレなカフェからコーヒーの香りが漂うレイアール広場。配送やゴミ収集など限られた車両のみが乗り入れていた
- 統合システム「センティーロ」に接続され、湿度や温度で制御されているレイアール広場の噴水。取材当日は停止していた
不要不急のクルマ利用を抑制し、必要至急なクルマはスムーズに
古代を感じる美しい街並みがあり、文化と芸術に囲まれたバルセロナ旧市街。限られた土地に多くの観光資源が集まる場所は日本国内にも数多くあるが、ともすれば観光バス、タクシー、乗用車が朝から晩まで大渋滞という光景もよく目にする。
- 制限地区に通じる道は交通局の認証を受けた車両のみ通行可能
専用カードをかざすと鋼鉄製のバリアが下がり通行可能になる
一部のタクシーも通行可能。許可車両はリアバンパー付近に「SP」と書かれたプレートが取り付けられている
特定地区を歩行者と自転車専用にするスペリージャプロジェクト
交通集中による渋滞と事故の増加、また排気ガスによる大気汚染は市民の健康にも影響を及ぼしていた。これらを劇的に解決するため、2016年から「スペリージャ(英語でスーパーブロック)プロジェクト」が開始される。
スペリージャの概要は以下の通り。
◆ 旧市街の指定されたブロック(およそ300m×300m)を完全に歩行者と自転車専用に
◆ 指定ブロック内の道路に広場・休憩スペースなどとともに自転車専用レーンも整備
◆ ヒートアイランド現象への対策も視野に、さらに緑化を推進
◆ 2024年までに大気汚染物質を20%削減
こちらは朝と夕方のみ一般車の通行が規制される歩行者優先エリア一との境界部
約300㎡と言われても想像しにくいかも知れないが、スマートフォンの地図アプリで京都や札幌など碁盤の目の都市を表示し、スケールを見てみると相当な広さがある。
取材時点でこのスペリージャ指定ブロックは、サグラダ・ファミリア付近のサン・アントニ地区など6箇所があり、最終的には500ブロック以上まで拡張する計画だという。
ただ単にクルマを閉め出すのでは無く、徒歩、Bicing(市民専用シェアサイクル)、公共交通、クルマ、それぞれのメリットを引き出す街造りが推進されている
- 観光客向けシェアサイクルも用意され、多くの人が利用していた。ちなみにバルセロナは地中海気候で年間300日の晴天率、いつも気持ち良くサイクリングできる
- 気候緊急事態宣言のウェブサイト
https://www.barcelona.cat/emergenciaclimatica/en
早朝のレイアール広場はコーヒーの香りとともに鳥のさえずりが聞こえ、空は青く気持ちの良い空気だった。ここが大気汚染対策の最前線だとはとても感じられず、2016年からのスペリージャプロジェクトは成果を上げている証明と言えよう。
と、取材時(2019年12月)には実感したのだが、2020年1月15日にバルセロナ市役所から「気候緊急事態宣言」が発表された。宣言ではカタロニア州の平均気温がこの65年で1.2℃上昇し、このままでは今世紀末までに平均気温が3℃上昇し降水量が最大26%減少など様々な予測値が示され、都市設計、モビリティ、エネルギー、経済、廃棄物など今後10年の活動計画と予算、そして削減すべきCO2量などが記載されている。
生活、観光、ビジネス、物流、都市のエリアをキッチリ区分し、規制は大胆かつ大規模に実施。単純にクルマを閉め出すのでは無く、エリアを分けたことで一般ドライバーは渋滞が減り以前よりも快適に走ることができる。スマートシティの課題解決は、スマートさとともにダイナミックさも必要なのかも知れない。
次回は世界最大のスマートシティ展示会運営側にインタビュー取材を実施する。
[ガズー編集部]
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