【現地取材】特別潜入!バルセロナ交通局 前編 課題の把握から解決に向けての4つのミッション―スマートシティ最先端都市バルセロナ編③

市内のモビリティを管制するバルセロナ交通局でディレクターのアドリア氏にお話を伺った
市内のモビリティを管制するバルセロナ交通局でディレクターのアドリア氏にお話を伺った

電気、水、ゴミ、治安、交通、さまざまな情報を統合システム「センティーロ」で管理し、スマートシティ化を推進しているバルセロナ市。中でも事故や大気汚染の原因となり経済活動にも悪影響を与える渋滞の解決は市としても喫緊の課題であり、センティーロが持つ能力をフルに活用して解決を目指している。その課題解決に対面するモビリティ分野を管理する交通局でディレクターを務めるアドリア氏へのインタビューを元に、具体的な取り組みを紹介しよう。

バルセロナ交通局(TMB)のホームページ
https://www.tmb.cat/en

バルセロナ交通局(TMB)は、市役所が直接管理している地下鉄、バス、路面電車、道路などの管理を行っている部門で、今回訪問した管制センターでは以下のセクションを担当している。

◆ アーバンモビリティセクション = 市内中心部と旧市街地の道路と駐車エリア
◆ ロンダセクション = バルセロナ市の海側と山側を走る幹線道路(ロンダ)
◆ インフラセクション = 水道局、各電気会社、各ガス会社などとの連携
◆ トンネルセクション = 歴史的にバルセロナにはトンネルが多く、専任チームが担当

バルセロナ市役所 交通局 モビリティサービスディレクター アドリア・ゴミラ氏
バルセロナ市役所 交通局 モビリティサービスディレクター アドリア・ゴミラ氏

バルセロナ交通局がこの管制センターで行う業務は、以下の4つに分類できる。
◆ 市内各所をモニターして課題を発見
◆ 関係各機関と連携してトラブルを解決
◆ 渋滞や混雑を抑制し全てのモビリティをスムーズに
◆ 市民やメディアへの情報発信

取材当日は幸いにも大きな事故やトラブルは発生しなかったが、実際の管制画面なども見学することができたのでご紹介したい。

バルセロナ交通局、4つのミッション

1.いまバルセロナ市がどんな状態なのか、各所をモニターして問題を発見

市内全ての信号機や主要な道路の状態を壁一面にある地図やモニターで確認できるようになっている。統合システム「センティーロ」からの情報と市内各所にいるスタッフからの情報もリアルタイムで反映され、何らかの問題が発生している箇所は地図上に赤色の印が出るなどスタッフがすぐ分かるように表示される。
画面の詳細は残念ながら紹介できないが、取材当日はアーバンモビリティセクションの旧市街地で通行制限エリアに許可の無い一般車が入り込んでしまい、モニターでその場所を確認しながら現地スタッフなどへ指示を出すシーンを見学できた。

大きな地図には事故、渋滞、工事、デモなどの情報が表示され、スタッフの端末には現地の画像が鮮明に映し出されていた

2.各機関と連携し、トラブル解決をスムーズに

この管制センターが直接対応する監視範囲は限られているものの、事故が発生したのではないか(警察)、この交通障害の原因は急病人なのではないか(救急・消防)、生活インフラのトラブルが発生したのではないか(各管理局、会社)など、交通局で気づいて把握できたできごと=インシデントがあれば、直ちに担当する局に連絡して対応を求める。逆に、例えば水道トラブルが発生して工事車両が現地に向かうといった場合は水道局から連絡が入り、事前に現地の道路を整理しておくなどの対応を行う。センティーロを介して各機関が情報と画像を共有できることで、迅速な連携対応を可能にしている。

トンネル内で事故が発生。各行政機関で直ちに情報が共有され、それぞれの任務にあたる
トンネル内で事故が発生。各行政機関で直ちに情報が共有され、それぞれの任務にあたる

3.渋滞や混雑を回避し、効率的でスムーズなモビリティでの移動を目指す

交通渋滞は交通事故の原因にもなり、事故による損失は多岐に渡ってしまう。バルセロナでは渋滞や混雑を抑制するために、必要があれば関係機関が連携し、道路通行止めや多くの人が集まる通りを一時的に完全封鎖することも行うという。日本ではちょっと難しそうなダイナミックな対応だが、バルセロナでは市民によるデモ活動も多いためやむを得ないそうだ。
例えば「A地点からB地点までデモが行われる」という情報があれば、バスのルートを迂回させる、信号を制御してクルマを他の道路に誘導する、地下鉄駅の混雑集中を事前に予想してアナウンスするといった対応が取られる。

スムーズに流れている市街地道路も、雨が降ると一気にクルマが増えて渋滞制御が必要になるという
スムーズに流れている市街地道路も、雨が降ると一気にクルマが増えて渋滞制御が必要になるという

またアドリア氏は、ロンダセクション=バルセロナの海側、山側を通る幹線道路の管理は特に難しいと言う。狭いエリアに交通が集中する一般道路とは違い、信号が少なくクルマの速度も高いため一旦事故が発生すると問題が大きくなる。またバルセロナ市と隣町との接続地点もあるエリアなので、ここ(市交通局)とカタルーニャ州交通局とも情報共有し、同じ画面を見ながら対策を進めていくそうだ。

バルセロナでは一般的だという来客用の自転車スタンド。交通局が入るビルにも設置されていた
バルセロナでは一般的だという来客用の自転車スタンド。交通局が入るビルにも設置されていた

4.メディアやアプリを通じて市民へ情報を発信

交通局に集まる事故、渋滞、工事など様々な情報は、交通局のスマホアプリ「TMB」、駅や道路に設置された情報掲示板、そして各メディアを通じたニュースとして市民に発信される。
「○○で事故が起きました」「○○でデモがあります」という個別の情報を伝えるだけで無く、ドライバーへ迂回を促す、バスのルートを変更する、地下鉄の推奨ルートを案内するなど実際に市民が行動しやすい情報を伝えることで渋滞と混雑を抑制。効率的なモビリティでの移動を実現し、同時に環境への負荷も削減している。

交通局アプリ「TMB」は、電車・バスのチケット購入のほか、目的地まで効率的に移動するためのルート案内も可能。管制センターからの情報がリアルタイムに反映されている
交通局アプリ「TMB」は、電車・バスのチケット購入のほか、目的地まで効率的に移動するためのルート案内も可能。管制センターからの情報がリアルタイムに反映されている

交通局をはじめ各行政機関が「センティーロ」で情報共有することで各種モビリティでの移動がスムーズになり、環境負荷を減らしてコストダウンも実現。こうしたスマートシティ化への取り組みは、便利なアプリや混雑緩和など市民生活にも具体的なメリットが感じられた。次回は行政だけでなく企業や市民とのコラボレーションと、アドリア氏が考えるスマートシティの未来について聞いてみよう。

[ガズー編集部]

MORIZO on the Road