北海道にこそ必要? バスロケーションサービス「バスキタ!」は未来も描く!
なかなか来ないバスを待つほど、じれったいことはありません。それが、冬の寒い時期で、さらに雪や雨が降ってきたとしたら……。バスが今、どこにいて、どのくらいで停留所に到着するのか。それがわかるバスロケーションシステムの1つである「バスキタ!」。北海道で誕生し、全国各地で採用されつつあるこのシステムについて、株式会社メディア・マジックの取締役 第1開発部長 越後智介さんに伺いました。
厳しい北海道にこそ必要なシステム
――「バスキタ!」を開発するに至ったのは、どういうきっかけからですか?
2013年当時のことなのですが、バスの位置を表示したり、遅れを知らせたりといったバスロケーションシステム(以後バスロケ)は、本州の京都や福岡などで既に導入されていました。しかし、北海道には、ほぼない状況だったんですね。北海道では、特に冬期間、雪などの悪天候時にバスが遅れることが多く、ひどい時には20分、30分と寒い中待たされることもあります。それなのに北海道にこそ必要であろうサービスが存在していなかったんです。
実は、それまで、バスに乗せる車載器や通信費はかなり高額でした。停留所に置く接近表示機に至っては、1基100万円以上することもあり、開発・導入に踏み切れないという事情もあったにはありました。
ところが、2010年前後から、仮想移動体通信事業者(Mobile Virtual Network Operator, MVNO/他社の無線通信インフラを借りて自社ブランドの通信サービスを展開する事業者)が登場して、通信費が安く抑えられるようになり、市販のAndroid搭載のタブレットも位置情報を送信するのに十分な機能の持つものが出てきました。
そんな中、北海道でのバスロケの必要性をJR北海道バスさんから賛同いただきました。同時に経済産業省の補助事業に採択されたこともあり、開発を進めることとなりました。
実証実験をきっかけに各地へ
――最初はどちらから始まったのですか?
2013年の7~8月頃から開発を始めまして、最初の実証実験はJR北海道バスさんの札幌市、琴似営業所エリアで2014年11月からスタートしました。(※現在は本格導入に向けた試験運用を実施中)
その実証実験をきっかけに、旭川市と旭川電気軌道さん、道北バスさんの2つのバス事業者から興味を持っていただきまして、旭川市が主導する形で、初期のシステム導入の調査と実証実験が行われたのが、2015年11月から2016年の3月のことです。2016年の4月からは、2つのバス事業者さんによる本格導入が始まったのです。7月にはふらのバスさんにも導入いただき、これで旭川エリアは網羅された形になりました。
――他の地域での導入状況はいかがですか?
札幌では、ばんけいバスさんが2019年1月に本格リリースとなりました。また、最初の実証実験にご協力いただいたJR北海道バスさんでは現在試験公開中で、2019年4月より本格的にサービスを開始します。
道外では、四国の香川県丸亀市の琴参バスさんに2018年10月より導入いただいています。こちらのシステムの呼び名は「バスきよん?」となっていまして(笑)。「Powered byバスキタ!」と入れていただければ、その地域の方言で親しみやすい名前にしてもよいことにしています。
また、静岡県富士市の富士急静岡バスさんでも2019年4月からの本格サービス開始に向けて準備中です。その他、道内外のバス事業者とも運営準備や提案を進めているところです。
- 香川県丸亀市の「バスきよん?」のデジタルサイネージ
ユーザー側も管理側も。さまざまな情報が行きかうシステム
――どういう仕組みになっているのでしょうか。
大まかにいいますと、車両に積んでいるタブレットか車載専用機からGPSによるバス位置情報とその他バスロケに必要な情報がサーバーに発信される。
- 車両から情報を送信するのはタブレット端末か車載専用機のいずれか
受け取った情報をサーバーが解析、バスがいつ到着するかといった情報をバスユーザーのスマートフォンやデジタルサイネージなどで受け取ることができる。
それと同時にバス事業者の管理画面の方にも運行に必要な情報が届き、管理側からバス車両側にメッセージを送ることもできます。
――サーバーはどのようにバスの運行状況を判断するのですか?
車両からは、車両番号と、そのバスがその日どういう便、どういうルートを走るかという情報、そして、GPS情報が発信されます。GPS情報を基に停留所から決められた範囲にバスが入った時点で到着と判定します。サーバーの方には、その予定ルートや停留所の緯度経度などの情報があらかじめ入っていますので、到着の定刻に対するリアルタイムの差を出し、バスが順調に走っているかそうでないかを判断するんです。例えば、10時定刻に対して、停留所の範囲に入ったのが10時5分であれば、次の停留所で待つ人たちに「今、5分遅れですよ」との知らせがいく、ということです。
――バスを利用するユーザーはどのようにして情報を見るのでしょう。
「バスキタ!」を立上げ、出発地と到着地をバス停名か施設などのランドマークのいずれかで入れて検索をします。そうすると、その経路のバスの便とともにそのバスの運行状況が出てきます。遅れていればどのくらい遅れているのかも出てくるわけです。
もう1つの方法として、地図上の停留所やバスのマークからも見ることができます。停留所を選び、どこへ行きたいかを指示すれば経路が出てきますし、バスを選ぶとそのバスがどの系統でどこに向かっているのかがわかります。
いずれの経路検索方法でもその結果画面から進んで、乗り場や降り場の場所の詳しい地図、経路で通過する停留所まで見ることができるようになっています。経路を調べたら、ひとつながりでさまざまな情報が見られるというのは「バスキタ!」の特徴の1つかと思います。
また、普段よくバスを使うのであれば「マイバス」という機能も便利です。これはよく乗る経路を登録しておくと、次の便があと何分で来ますよという表示が出るというものです。もちろん、遅れが出ている場合は遅れ時間が加味されて出てきます。通知機能もありますので、バス到着5分前に通知が出るように設定することなどもできます。
乗継のオン・オフも可能です。どちらかというとバスは乗継をするより単路線を利用する方が多いようなので、路線を選びやすいように、このような機能もつけています。
多言語対応もしておりまして、これはユーザーの持つ端末自体の設定に合わせて変わるようになっています。ただこちらも、画面上の操作で切り替えはできます。日本人が海外の方を案内するのに使う場合もあるかと思いますので。
――スマートフォンやパソコン以外でも見られるのですか?
各地域によりますが、デジタルサイネージを設置して情報を提供しているところもあります。丸亀市では丸亀駅前停留所の屋外に設置していますし、旭川市の場合は旭川市立病院、イオンモール、セイコーマートなど屋内が多く、20ヶ所以上と設置の数も多いです。
こちらでも、路線ごとの運行の情報が順次表示されます。
――バス事業者の管理側ではどのような使い方をされているのですか。
管理画面では地図上にバスのマークが出ていまして、青、黄色、赤と色別で運行状況が一目でわかるようになっています。バスをクリックすると、車両番号、運行予定などの情報を見ることができます。また、停留場をクリックするとそこを通過したバスの情報が出てきます。何時何分にどちらの方面に向かってどのバスが通ったというのがわかりますので、たとえば、落とし物をされたお客さまからの問い合わせにも対応しやすくなっています。
- 青は0~5分でほぼ定刻、黄は6~10分遅れ、赤は11分以上の遅れ、グレーは回送とバスのマークは色分けされている
一覧表示もできますので、運行中の車両をいっぺんに見て、予定通り動いているか、異常が起きてはいないかなどのチェックも可能です。
管理側からのメッセージは一括でも個別でも車両に送信できます。個別なら、お客さまの落とし物の確認などもできるわけです。車両側からは簡潔に○×で返答します。
運行中の管理はもちろんですが、遅延状況の統計も、日別の平均、時間帯の平均と細かくとっています。これらのデータはダイヤ改正時にとても役に立つと好評をいただいています。
- 細かいデータを割り出している
バスユーザーへの情報提供と事業者側の情報・データ管理の両方の機能を併せ持ったシステムであるというのも、他にはない特徴かと思います。
もっと便利に、もっと地域に寄り添ったものへ
――これからの「バスキタ!」はどのようにしていきたいですか
弊社はゲームのアプリやエンターテインメントコンテンツなども製作しているもので、見た目や操作性の良さなどをこれまでも導入いただいている事業者さんに評価いただいております。その部分はさらに伸ばしていきたいと思っております。
実は、私自身、視力がよくないため、スマホのアプリは文字が見づらいものが多く、画面をキャプチャしてそれを拡大して見るという状態なんです。私のような視力の方にも使っていただきやすいよう、「バスキタ!」では基本的な情報やきちんと見えてほしい大事な部分が見やすいよう文字の大きさやメリハリをつけるよう配慮しています。でも、まだまだ十分とは言えないので、より見やすいものへとさらに工夫をしていきたいです。
また、きっかけがあれば、海外展開も進めていきたいという希望とともに、逆に、より地域に密着したサービスへと発展させたいという思いもあります。
最近は、MaaSという言葉が重要なキーワードとして、よく聞かれるようになっています。経路検索やロケーション情報だけではなく、予約や決済などの交通に関することを付加価値も含めて、簡単な形でひとつのサービスとして提供するといったイメージですが。
「バスキタ!」も単なるバスロケではなく、交通、観光、災害対策、福祉など、地域ごとに抱える課題に向き合い、それぞれにあった移動サービス+情報提供をできるものにしていけたらと思っています。そのために、各分野の専門家とも連携し実現していけたらいいですね。
地元では寒い思いをせずにバス移動、知らない土地では目的地へとスムーズに行くことができ、さらにはその地域ならではの情報を得られる……どの年代の人でも手元のスマホひとつで簡単にそれができたら、外出のストレスが減ることでしょう。これからの「バスキタ!」の未来形に期待です。
(取材・文:わたなべひろみ 編集:ミノシマタカコ+ノオト)
<取材協力>
▼株式会社メディア・マジック
URL:http://www.mediamagic.co.jp/
[ガズー編集部]
あわせて読みたい!
最新ニュース
-
-
ヤマハの新しい乗り物「グリーンスローモビリティ」生花店とコラボ展示へ…横浜「Local Green Festival」
2024.11.12
-
-
-
マツダのロータリーエンジン開発を指揮、故・山本健一氏…「FIVA」自動車殿堂入り
2024.11.12
-
-
-
カストロール、ラリージャパン2024に往年の『WRCカローラ』を展示
2024.11.12
-
-
-
アウディ『A3』のSUV「オールストリート」にPHEV設定、EV航続は最大140km
2024.11.12
-
-
-
時代は4点から6点へ! 進化するサーキット用シートベルトと安全デバイス~カスタムHOW TO~
2024.11.12
-
-
-
ヒョンデ『アイオニック5』、日本にない米国専用オフロード仕様「XRT」は5万6875ドルから
2024.11.12
-
-
-
軽自動車サイズの布製タイヤチェーン「モビルシュシュ」、ソフト99がMakuakeで先行販売
2024.11.12
-
最新ニュース
-
-
ヤマハの新しい乗り物「グリーンスローモビリティ」生花店とコラボ展示へ…横浜「Local Green Festival」
2024.11.12
-
-
-
マツダのロータリーエンジン開発を指揮、故・山本健一氏…「FIVA」自動車殿堂入り
2024.11.12
-
-
-
カストロール、ラリージャパン2024に往年の『WRCカローラ』を展示
2024.11.12
-
-
-
アウディ『A3』のSUV「オールストリート」にPHEV設定、EV航続は最大140km
2024.11.12
-
-
-
時代は4点から6点へ! 進化するサーキット用シートベルトと安全デバイス~カスタムHOW TO~
2024.11.12
-
-
-
ヒョンデ『アイオニック5』、日本にない米国専用オフロード仕様「XRT」は5万6875ドルから
2024.11.12
-