ロードスターの実験的なチャレンジが結実した「ターボ」&「クーペ」・・・語り継がれる希少車
世界一の功績を記録し称える「ギネスワールドレコーズ」。そのギネスワールドレコーズ社が刊行している世界一の記録を収集した「ギネス世界記録」という本(かつては「ギネスブック」と呼ばれていた)は、そこへ記録が掲載されることで“世界一”の称号を受けることができるというものだ。
実は、日本のクルマでもギネス認定を受けている車種が存在する。ひとつはトヨタ・カローラ。デビュー以来の累計販売台数が3000万台を記録した2005年に「世界一売れたクルマ」として認定されている(その後ペースを上げて2021年には5000万台を突破)。
そしてもう1台は、マツダ・ロードスターだ。海外では「マツダMX-5」という名称、国内でも初代モデルは「ユーノス・ロードスター」と呼ばれていた同車は2000年5月に「2人乗り小型オープンスポーツカー生産累計世界一」として累計販売台数53万1890台でギネス認定された。
その後2002年1月に「累計生産台数60万台」、2005年4月に「70万台」、2007年1月に「80万台」、2011年2月に「90万台、2016年4月に「100万台」、そして現在では「120万台」となり自己記録を更新し続けている。世界でもっとも愛好者の多い2人乗り小型オープンスポーツカーと言っていいだろう。
そんなロードスターにも極めてレアなモデルが存在する。「NB型」と呼ばれる2世代目ロードスターに用意された「ロードスタークーペ」と「ロードスターターボ」だ。
ロードスタークーペは5ナンバーサイズ最後のFRクーペ
2003年10月に登場したロードスタークーペは、ロードスターの特徴である「オープンカー」をやめ、ルーフを固定式とする大胆な提案である。
しかし、オープンドライブの解放感と引き換えに手にしたものがあった。それは車体剛性の向上、すなわち走行性能のレベルアップだ。
単に屋根を取り付けるだけでなく、その屋根がしっかりと車体構造として働く設計を行うことで車体を高剛性化。当時のロードスターは車体剛性の不足を指摘する声が少なくなかったが、屋根を固定式とすることでFRスポーツカーとしてよりストイックに走りを目指したモデルなのだ。
また当時、ロードスターに対して「小型オープンカーではなく、小型軽量のFRスポーツカーとして乗りたい」という声もあった。ロードスタークーペはそんなリクエストに対応する、実験的なモデルといえる。何を隠そう、当時としては国産車唯一であり、そして現時点でも国産車最後となる5ナンバーサイズのFR(フロントにエンジンを積んだ後輪駆動車)クーペだ。
ロードスタークーペの開発を担ったのは、特装車の開発や生産なども受け持つマツダの子会社「マツダE&T」。当時のリリースには「(マツダE&T社の)少量生産モデル開発技術の活用により実現した」と説明されている。
バリエーションは4タイプあり、ベーシックタイプの「ロードスタークーペ」は125psの1.6Lエンジンを積む「1600SP」グレードがベースだ。
「Type S」は160psの1.8Lエンジンを積みサスペンションも締め上げた高性能グレード「1800RS」をベースにクーペ化したもの。
そんな「Type S」の派生モデルとして用意されたのが「Type A」で、エクステリアをイギリスの伝統的なレーシングカーを思わせるスタイルにカスタマイズした仕様である。専用バンパーなどで顔つきが異なるほか、オーバーフェンダーを装着しているのも特徴だ。
いっぽうで、走りとは異なる方向性で仕立てたのが、1.8Lエンジンを組み合わせるがトランスミッションをAT(他のタイプはMTのみ)とした「Type E」。ベースは英国のエレガントなオープンスポーツカーをイメージさせる「1800VS」で、こちらも専用デザインのフロントバンパーを組み合わせていた。
そんなクーペモデルは極めて少量の生産計画だったため車体製造工程は通常のラインとは別の場所でおこなわれた。熟練の技術者が手作業で車体を作り上げる、クラフトマンシップあふれるモデルだったのだ。しかしながら動力性能の高い1.8Lエンジン搭載車「Type S」で275万円からと価格設定が高めだった。
そのため、クーペモデル自体は限定生産ではないが、「Type A」は200台、「Type B」は150台限定とされた。
全域のトルクアップを狙った「ロードスターターボ」
いっぽう、別の形でNB型ロードスターの進化形となったのが2003年12月に発表された「ロードスターターボ」だ。
スポーツ走行を楽しむ一部のユーザーからは「もっとパワーが欲しい」という声があり、それに応えたモデルと言っていいだろう。
最高出力は通常モデル(排気量1.8Lの自然吸気エンジン)の160psに対して172ps。そう聞くとターボ装着の割にはパワーが増えていないと感じるかもしれないが、狙ったのはピークパワーの向上ではなく全域のトルク感。低回転域からレスポンスよく立ち上がり、高回転域まで幅広い領域でフラットなトルクを発生する味付けとしているのだ。
ダウンサイジングターボのような考え方でありつつ、高回転まで気持ちよく使える特性といえるだろう。
トルクは全域で2割以上向上。通常モデルとは比較にならない加速を楽しませてくれた。アフターマーケットではロードスターにターボを搭載するカスタマイズが少なくないが、このロードスターターボは熱対策から耐久性までしっかりと配慮されたファクトリー品質だというのが何よりのポイント。計画生産台数は350台の限定だった。
こうしてNB型ロードスターに用意された少量生産の特別なモデルを見ていると、当時のロードスターは小型軽量のオープンカーという殻にとらわれずいろんな道を模索していたことがわかる。
ロードスターは初代の爆発的なヒットから2代目になると販売台数が減っていたが、違うキャラクターのモデルを展開することで「違う表情のロードスター」を世に提案したのだろう。
NCロードスターではリトラクタブルハードトップ仕様が人気
その後、フルモデルチェンジを経て3代目となったNC型ロードスターでは幌ではなく樹脂製の開閉式ハードトップを組み合わせた「リトラクタブルハードトップ(RHT)」が追加された。
これは閉じればクーペボディになるという「ロードスタークーペ」に近い特徴を備えつつ、ルーフを完全な固定式ではなく開閉式としたことで、「オープンを楽しむ」というロードスター本来の魅力も兼ね備えたモデルだ。
このRHTが用意されると、NC型ロードスターの販売の半分ちかくがRHTという状況になったのは、そこにしっかりとニーズがあったということに他ならない。また、現行モデルではルーフ開閉を電動とした「RF」に進化している。
ターボに関しては次のNC型においてエンジンが全車2.0Lとなり、ターボではないがNB型よりもパワーアップを果たして一つのカタチとなった。
しかし、その方向性は結果として「スポーツカーとしては正常進化だがロードスターらしくない」という判断になり、4代目のND型では排気量を1.5Lに落としてパワーを下げたのが面白いところだ。
「ロードスタークーペ」も「ロードスターターボ」も、「ロードスターの方向性」を世に問う実験的なチャレンジだったのである。
(文:工藤貴宏、写真:マツダ)
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