『クルマはトモダチ』DSC-TRACKに初試乗!…山田弘樹連載コラム
「ヤマダさん、どうですか~?」
「ターンインで、オーバー(ステア)出ますよッ!?」
「それでいいんですー」
「あっ…そっか!」
みなさんゴキゲンよう!
これは7月30日に筑波サーキットで開催された「マツダファン・エンデュランス」(通称 マツ耐)の、前々日のスポーツ走行での携帯電話無線のやり取り。
そうなのです。
今年の1月に紹介したマツダ「DSC-TRACK」(ディー・エス・シー・トラック)が、いよいよ完成間近となりました。
そしてその最終確認の現場に、私も参加させてもらったのです。
#30 ロードスターDSC-TRACK チームの面々。マツダの開発本部からは梅津大輔さん、伊藤弘史さん、江田健一郎さん。そしてパワートレインと車両開発の大先輩である、廣瀬専務取締役までもがオートポリスから駆けつけました(笑)。ボッシュからはドライバーとして大浦靖之さん、サポートに松本有可さんとこの写真を撮ってくれた市野忠男さんが参加。マツダチームはみんな走ることが大好きで、とってもアットホーム。
いま一度おさらいすると「DSC-TRACK」は、サーキットでスポーツドライビングを、安全に学ぶために作られた制御です。
通常のDSC(ダイナミック・スタビリティ・コントロール)はクルマが横滑りを起こしたとき、ABSやTCS(トラクション・コントロール・システム)の制御を織り交ぜて、即座にその挙動を安定させてくれます。
しかしご存じのとおり、それだとサーキットでは速く走れないんですよね。
ターンインでリア少しが滑るだけで、ブレーキ制御が入る。コーナーの立ち上がりでアクセルをちょっと踏み過ぎただけで、エンジン出力が絞られてしまう。
本当はビギナーなら、それでもいいと思うんですけどね。
でも自分でロードスターを買って、しかもレースに出ようと考える積極的なユーザーなら、「タイムが出したい!」って思うのは当然。
そこでベテラン選手に「DSCオンだとタイム出ないよ」なんて言われたら、そりゃあ切ってしまいますよ。
だからパーティレースの参加者は、ビギナーでもDSCオフで走ってしまう傾向が強く、買ったばかりのロードスターでクラッシュしてしまうことが多かった。
マツダ開発陣は、こうしたアクシデントをなんとか防いで、段階的にドライビングスキルを学んでもらうために、DSC-TRACKを開発したわけです。
つまりこのDSC-TRACKは、“ある程度の”オーバーステアを許容してくれます。逆にアンダーステアは、助けない。そこは自分のドライビングでなんとかするのが、テクニックの向上につながるからです。
そして挙動が発散しそうな領域に入ってはじめて、制御を効かせて救ってくれるわけです。
でもその“ある程度”って、どの程度?
車両側で予期しているとはいえ、ほんとに大丈夫?
その頃合いを一緒に検証するために、今回マツ耐に賞典外で参戦する開発チームが、私を開発アドバイザーとして誘ってくれたんですね。
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土曜日のパーティレース(梅津選手が参加)と、日曜日のマツ耐のキャリブレーションも兼ねて金曜日にスポーツ走行。マツ耐では猛暑の時期はエアコン稼働が義務づけられているため、幌を閉めたまま走らせました。
そして、冒頭に戻るわけです。
計測ラップの1コーナー。タイヤの内圧がまだ若干揃いきっていない状況で、DSCーTRACKの制御を信じてフルブレーキング!
新開発のABSが“ダラララッ”と作動しつつも、すぐさまグリップを回復。そして、ブレーキをリリースしながらターンインです。
ここで開発車両の00号は(マツ耐のゼッケンは♯30)、ほどよくリアを流しながら、クリップへときれいに向きを変えました。
DSCの介入は、モチロンなし。またダンロップコーナーでは、リアをほどよく巻き込ませてターンインしたあと、アクセルで挙動をバランスさせることもできました。
「ーーーおぉ、やるじゃん!ーーー」
この領域で制御が入らないことが、まずは正しいわけです。
DSC-TRACKの要となる新開発のボッシュ製ブレーキ液圧制御ユニット。その制御は現状完成の域にあり、今回は練習走行やレースでの実戦データをロギングしました。ちなみに開発はマツダのテストコースのみならず、ニュルブルクリンクでも行われたのだそう。走らせたのはまんま開発車両なので、助手席にはコンピューター、ダッシュボードにはモニターが取り付けられています。
というわけで気をよくして、2周目もアタック。すると今度は、DSCーTRACKの本領が発揮されました。
狙い澄ました1コーナー。ブレーキングを攻めすぎた00号は、ターンインで盛大なオーバーステア状態に。タイムアタックとしては完全に失敗ですが、それをアクセルでバランスしている限りは、やっぱり制御の介入はゼロでした。
ならばとこれを踏み込んでスピン状態に持ち込んでみたら、今度は内輪ブレーキが“ググッ!”と挙動を抑えてくれたんです。
“ガッ!”じゃなくて“ググッ!”なところもポイント。それだけブレーキの油圧制御が緻密になったのだと思います。
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速度やヨーレート、ステアリング舵角や操舵スピードをモニタリングして、挙動が発散されていないうちは、DSCをまったく介入させないDSC-TRACK。仮に発散してもその修正は正確かつ穏やかで、そこにはブレーキ制御の進化も確認できました。
“うわー、すごいわこれ。”
そのあまりの何もしなさに正直最初はちょっと、制御の許容幅が広すぎるんじゃないかな? と思いました。
当日は路面温度のピークが70度を超える猛暑で、2周も走ればタイヤはずるずる。そんな状況だとロードスターは、ターンインでかなりオーバーステアが出ます。
ゼロから45度くらいまでのカウンターがバシバシ当たるわけですが、それでもDSCは介入しません。
だから「これってビギナーには、ちょっと厳しくない?」と心配になったのですが、コントロールできているから介入しないのです。そしてコントロールを失ったら、きちんと助けてくれる。
言ってみれば開発陣は、ここをコントロールできるようになって欲しいわけですね。
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指定タイヤはブリヂストン POTENZA RE004 Adrenaline(195/50R16)。梅津選手が参加する土曜日のパーティレースに備えて、ユーズドタイヤで走ってタイヤを作り込むのに協力しました。絶対的なグリップではなく、コントロール性と対摩耗性を追求したアドレナリンのキャラは、パーティレースにうまくマッチングしていると思います。
「だったらレースでも、DSC-TRACKオンで走った方が速くなってしまうんじゃない?」と思う人もいるでしょう。
それはある意味合っていて、ある意味違います。
なぜなら速い人は、どのみちDSCが介入しない領域で走るからです。そしてビギナーなら、DSCが介入するところまで頑張ることで、今までより安心してタイムが出せると思います。
ただ上級者もビギナーも、限界まで攻めたあとのクラッシュを防ぐという意味ではDSC-TRACKオンが有効でしょう。そして特にウェット走行では、これが大きな保険になると思います。とはいえ制御は万能じゃないから、無理しすぎちゃだめですよ。
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「パーティレースで初めてレースに参加したという人は、とても多いんです。ロードスターが好きで、サーキットで走りたくなって、NR-Aを新車で買ってくださって。そんな方たちが、いきなりクラッシュしまうような状況を回避したい。楽しくスポーツドライビングを学んでもらえるようにしたかったんです」と語ってくれた梅津さん。こうした熱い思いはユーザーに届いていて、当日も沢山の現行NR-AオーナーたちがDSC-TRACKの話を聞きにきていました。
結論として「DSC-TRACK」は、目標通りの制御を実現できていると私は感じました。そしてこの制御は、どうやら秋口? といわれるマイナーチェンジ後のロードスターにさっそく搭載されるようです。
あぁ、すっかりレースのレポートするスペースがなくなっちゃった。
というわけで次号はDSC-TRACKの深掘りと、マツ耐&パーティレースの楽しさについてお伝えします。
山田弘樹

自動車雑誌の編集に携わり、2007年よりフリーランスに転身。LOTUS CUPや、スーパー耐久にもスポット参戦するなど、走れるモータージャーナリスト。自称「プロのクルマ好き」として、普段の原稿で書けない本音を綴るコラム。
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