素晴らしきスポーツカー 3代目マツダ・ロードスター・・・懐かしの名車をプレイバック

  • 3代目マツダ・ロードスター

ボディーサイズとエンジンの排気量を拡大しつつも、初代・2代目が大事にしてきた「人馬一体」感に磨きをかけ、感性に訴える楽しさを追求したスポーツカー。それがNCこと3代目の「ロードスター」だった。

いまこそ旬の一台

2023年現在、「スポーツカーのある生活」を考えている人にとって、マツダのNCこと3代目ロードスターは、なかなかいい選択肢ではないだろうか。スポーツカーのエッセンスが詰まっていて、故障におびえることなく日常的に使え、維持のための費用や手間もリーズナブル。つまりは実用と趣味とのバランスがいい。

中古車情報サイトでチェックしてみると、150万~200万円くらいでまずまずの個体が手に入りそう。昨今の中古車価格高騰のトレンドに沿って、以前よりなんだか高くなっている印象だけれど、まだ間に合う!?

個人的には、「初めてのスポーツカー!」を求めるフレッシャーズの方々よりも、子育てを終えたり、身の回りの状況が一段落して「久しぶりに運転を楽しめるクルマが欲しいな」と考えたりしている年代にステアリングホイールを握っていただきたい。

……って、なんのことはない。私事で恐縮でございますが、自分の年齢が50代後半に入り、「3ペダル式のMT車で、できれば後輪駆動。かつての『自動車命』(死語)でクルマにかかるお金は別腹……といった無謀な会計処理(?)をしないで付き合えるモデル」を考えたときに、にわかに浮かび上がってきた有力候補の一台が、NCロードスターだったのだ。「懐かしの名車をプレイバック」と題して昔語りをする対象というよりは、まだまだ現役バリバリの購入対象車ですね!

「肥大化」なんて言わせない

3代目ロードスターが登場したのは2005年。フレームそのものから刷新した気合の入ったフルモデルチェンジで、大きくなったボディーはいわゆる3ナンバーになり、1.6リッター、1.8リッターと排気量を拡大してきたエンジンは、ついに2リッターに達した。

名実ともに本格スポーツカーに成長したわけだが、一方で、「肥大化した」「アメリカナイズされた」「ライトウェイトスポーツとして堕落した」とイチャモンをつけ……苦言を呈する輩(やから)もいた。ワタシです。発売に先立ち漏れてきた情報を元に、頭デッカチに批判していたとはバカだった。

そのころクルマ専門誌の編集に従事していた恩恵で、広島は三好にあるマツダのテストコースでプリプロダクションモデルに乗せてもらって、うれしかったなァ。素晴らしいスポーツカーだった。

用意されたテスト車の運転席に座ると、コックピットの横幅と大柄で平板なシートのせいで、先代までの心地よいタイト感はだいぶ薄れてしまって、しかもハンドルまわりとセンターコンソールの造形が大味なのも気になったけれど、いざクラッチをつないで走り始めれば、ボディーはしっかりしているし、出力にはほどよい余裕がある。なにより、ハンドリングが大人びているのがいい。言うまでもなく「ダル」とは無縁で、かといってNAこと初代で顕著だった、ステアリング操作に過敏に反応する“ナマ”なところも払拭(ふっしょく)された。新たにギアを切り直した6段MTも魅力的。限界が高まった足まわりと併せ、(当時はそんな言い方はしなかったが)「完成度、高ッ!」と驚かされたものだった。

先代とはクラスが違う

NCこと3代目ロードスターの構成は、従来どおりスポーティーな「RS」(6MT)と、ややラグジュアリーに寄った「VS」(6MT/6AT)の2系統に大別される。加えて、ベーシックな5MT版(6ATも選べた)と、後にモータースポーツのベース車両(5MT)もラインナップされた。

幸運にもお世話になっていた会社でロードスターを長期リポート車(社用車)として導入することになり、数年間担当させてもらった。グレードの選択にあたっては、いつもの貧乏性かつマイナー好みの癖が出て、「ベーシックな5段MTがいいか」とも考えたが、LSDの装着がオプションでも設定されていなかったので、わかりやすくRSを買うことになった。

ちなみに、2代目NBロードスターRSの最終形は、車重1080kgに最高出力160PS。新しいNCでは1100kgに170PSだったから、パワー・トゥ・ウェイト・レシオでは、6.75kg/PSと6.47kg/PSの差がある。そのうえシャシー性能は断然NCのほうが上だから、「スポーツカーとしてどちらが楽しいか」という議論を置くと、端的に言ってクラスが違う印象だった。

朝夕とも渋滞気味の東京都心での通勤をグズることなくこなし、箱根や河口湖といった東京から離れた場所で行われることが多い新型車試乗会の会場までの足として頻繁に使われ、屋根が開くことを生かしたカメラカーとしての役割も積極的に果たすなど、編集部のNCは故障ひとつなくワークホースとして働いた。

過去にNCがあればこそ

2006年に電動のリトラクタブルハードトップを備えた「RHT」が登場したときには、「さすがにライトウェイトの道から外れすぎだろ」と内心懲りずにケチをつけていたが、後から振り返れば、NCシリーズの販売を押し上げるカンフル剤として、また耐候性や保管場所からソフトトップに不安を抱く層に訴求して、ロードスターユーザーのパイを広げることに成功した。RHTを世に出したマツダの開発&経営陣の判断は、まことに正しかった。

2シータースポーツを市販車として売り続けるのは難しい。原理主義に陥らず、過度に実用に堕することなく、ロードスターの場合はさらに庶民の手に届く存在であらねばならない。さまざまな要素を詰め込まれ丸みを帯びて膨らんだ3代目があったからこそ、原点回帰の現行モデルを開発できたのかもしれない。

りゅうとした4代目のハンサムカーもすてきだけれど、自分にはカッコ良すぎると感じるから、手に入れるなら3代目。もしかしたら、セキュリティーの観点からRHTのほうが気楽で安心かも。ただ、マニュアルトランスミッションはゆずれない。運転中の作業が多くて楽しいし、手足を動かすのでボケ防止にちょうどいい……なんて考えるのは、さすがに早すぎるか。

(文=青木禎之)