人気ナンバーワンの5代目! S13型「日産シルビア」を振り返る…懐かしの名車をプレイバック
1988年に登場したS13型「日産シルビア」は、デビュー当時はスタイリングが魅力のデートカーだった。確かに姿も美しかったが、それ以上に当時の若者を引きつけたのは、絶妙なサイズとFRの駆動方式、比較的手ごろな価格だった。結果として今ではドリフト専用車のようなイメージになってしまったが、歴代モデルで最も多く販売されたのはこの5代目なのである。
シンプルで美しいクーペフォルム
1980年代後半=ヴィンテージイヤーの日産車は、スーパーカー世代にとって、実は特別な意味を持っていたように思う。免許を取って目ぼしいクルマを中古で探して乗りだすのがだいたい80年代半ばくらい。そこからあれやこれやと憧れつつ社会人になって給料をもらい始めたころに、日産のヴィンテージイヤーが始まったからだ。
時代はハイソカーブームの真っ最中。ヴィンテージイヤーの皮切りは1988年1月(発表は前年秋)の「セドリックシーマ/グロリアシーマ」だったけれども、スーパーカー世代には高級であったという以外にさほど刺さらなかった。3ナンバー専用の豪華なサルーンではなく、少し遅く5月にデビューした2ドアクーペの劇的なモデルチェンジぶりにくぎ付けとなったものだ。
キャッチコピーがふるっていた。“アートフォース・シルビア”。コピーライターという職業が注目を浴びた時代に、カタカナ英語で意味のよく分からないカッコよさにしびれたものだ。
違う、コピーでほれたんじゃない。S13シルビアのスタイルにほれた。シンプルで美しいクーペフォルムに瞠目(どうもく)した。かなり武骨で無理のあるデザインだったS12やS10のモダン版スタイルとはいえその時点ではかなり古びていたS110を中古で乗る若者が多かったから、新型S13のキレイなスタイルはいっそう衝撃的だったのだ。それは初代にも通じるシンプルビューティーだった。
スーパーカー世代に刺さる
先日、イタリアンスーパーカーの取材で知人のガレージを訪れてみると、そこにS13シルビアとBNR32「スカイラインGT-R」、そしてZ32「フェアレディ300ZX」も収まっていた。シルビアは新車で買った個体。2台の“32”は当時の憧れを後になって手に入れたものだという。
これほどまでにバブル時代の日産車はというとスーパーカー世代の審美眼にかなうモデルが多かったのだ。この3台の日産車は国産車史上、最も美しいクーペフォルムを持っていると思う。同じ時代に2ドアの美しいモデルが3台も登場したことは、今にして思えば、ほとんど奇跡に近かった。
くだんのガレージの主がそうであったように、美しい3台のなかで若い社会人が頑張って買えたのはシルビアだった。私の周りにも当時、ローンを組んで新車のS13を買った友人が何人もいた。
今となってはドリフト専用車のようになってしまったけれど、当時はそんな汗臭さなど皆無で、立派なデートカーでもあった。大人気を博していた「プレリュード」に対抗するスペシャルティーモデルだったのだ。
私がこの業界に入ったときはちょうど2リッターの後期型となった直後の春だったので、実を言うと1.8リッターの前期型を新車当時にドライブした経験はない。中古車雑誌の編集部に在籍していたから、流通する中古車として乗ったことは何度かあったけれど、売り物だからちゃんとテストできたわけじゃない。私の記憶にあるS13シルビアはだから後期の2リッターがメインだ。
そのせいか、先日ちょこっと触れた前期型のシルビアは、いかにもセンが細く頼りない感じの乗用車だった。もっとも2リッターだったとしても最新スポーツカーのレベルからすればウサギと亀だろう。それよりもエクステリアに見合ってシンプルで上手にまとめられたインテリアと、後輪駆動であるが故のフロントアクスルの自由な動きが時間を超えて魅力的に思えた。
デートカーからドリフトマシンへ
それにしてもS13シルビアほどそのイメージを劇的に変えてしまったモデルはほかにない。前述したようにデビュー当初は立派なデートカーだったわけだ。“プアマンズ・ソアラ”でもあった。ところが「180SX(ワンエイティ)」のデビューなどもあって、5ナンバーサイズのFRというレアな側面に光が当たってしまう。3ナンバー人気が高まっていた当時、FRのスポーツタイプで3ナンバーでないモデルというと、ほかに「ロードスター」くらいしか見当たらなかった。シルビアとワンエイティの中古車は、派手なパフォーマンス走行に憧れる若者にとって、安くてパフォーマンスに優れた格好の遊び道具だったのだ。ちなみにAE86はシルビアデビューの前年、1987年に生産を終えていた。
試しに中古車専門サイトでシルビアとワンエイティを検索してみる。ワンエイティはノーマルがほぼ皆無。シルビアの顔をしたシルエイティも多い(その逆はワンビアというらしい)。改造車であってもかなりの高値安定傾向で、400万円台の個体もザラ。
一方のシルビアはというと、こちらもターボエンジンの「K’s」は極端に流通量が少なく、しかも改造車ばかりが目立つ。たまにフルノーマル個体も見つかるけれどもノンターボの「Q’s」がほとんど。それだけドリフト関連の競技用として使われてしまったということだろう。
いや、パワーなんてもはや意味がない。たとえ32 GT-Rであったしても現代レベルからすれば遅い。だからいっそQ’sのマニュアルをフルノーマルで探して……、などとついつい妄想してしまった。
デートカーからドリフトマシンへ。なんだか少しもったいない気もするけれど、それだけ貴重なボディーサイズと駆動方式の組み合わせだったということなのだろう。
(文=西川 淳)
5代目 日産シルビア(1988年~1993年)解説
1988年5月に発売。ボディーサイズは5ナンバー枠に収まる全長×全幅×全高=4470×1690×1290mm。足まわりはフロントがストラットで、リアには新開発のマルチリンク式を採用していた。
パワーユニットは1.8リッター4気筒エンジンで、自然吸気のCA18DE(最高出力135PS)とターボのCA18DET(同175PS)をラインナップ。1991年のマイナーチェンジで2リッター4気筒に変更され、自然吸気のSR20DEは140PSを、ターボのSR20DETは205PSを発生した。
この世代から3ドアハッチバックは「180SX(ワンエイティ)」として独立していたが、基本コンポーネンツが共通のため、ワンエイティのフロントマスクをシルビアのものに変更したシルエイティや、シルビアにワンエイティのフロントマスクを装着したワンビアといったカスタマイズが流行した。
1988-1989の日本カー・オブ・ザ・イヤーを受賞。1993年のフルモデルチェンジまでに歴代モデルで最多の30万台以上が販売された。
5代目 日産シルビア 諸元
K’s
乗車定員:4人
重量:1120kg
全長:4,470mm
全幅:1,690mm
全高:1,290mm
ホイールベース:2,475mm
エンジン型式:CA18DET
エンジン種類:直列4気筒
排気量:1809cc
最高出力:175PS/6400rpm
最大トルク:23.0kgf·m/4000rpm
サスペンション形式: (前)マクファーソンストラット(後)マルチリンク
(GAZOO編集部)
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