3年掛けてついにめぐり会った理想の愛車。1990年式日産 フェアレディZ 2by2 300ZX ツインターボ Tバールーフ(Z32型)
取材中に「愛車に一生乗る」といい切る人ほど、意外とあっさり手放してしまうことがある。その場の勢いで発してしまうこともあるだろうし、さまざまな事情があるから致し方ないと思う。しかし、黙して語らずとも、カーライフの積み重ねから本気度は伝わってくるものではないだろうか。今回のオーナーはまさにそんな方だ。
その違いとはおそらくだが、「気づけば何年も経っていた」というように、時間を忘れるほど濃密な日々があることかもしれない。
今回は、最愛の1台とカーライフを楽しむ女性オーナーが主人公だ。
「このクルマは、1990年式の日産 フェアレディZ(Z32型/以下、フェアレディZ)です。通称「1型」と呼ばれる初期のモデルで、グレードは2by2 300ZXツインターボ Tバールーフです。所有年数は3年ほど。納車当時の走行距離は7万3000キロで、現在は10万5000キロ走りました。自分への誕生日プレゼントとして購入したクルマなんです」
シリーズ4代目となるフェアレディZ(Z32型)は、1989年から2000年まで生産されたロングセラーモデルといえる。それまでのロングノーズ・ショートデッキという伝統的なシルエットから、ワイド&ローで曲線を強調した流線型のデザインへと大胆な変更が行われた。
流れるようなシルエットを描くボディは、空力性能との両立も追求されていた。当時としては驚異的なCd値0.31を記録している。当時、往年のファンのなかにはこの大胆な変更に戸惑う声もあったというが、新たな時代の到来を予感させた流麗なフォルムは当時の若者にとって憧れの存在となったことは確かだ。
生産終了から25年が経過した現在でも根強い人気を誇り、Z32型に特化した専門店があるほどだ。デビューから36年も経過したとは思えないほど色褪せないZ32型フェアレディZは、いまでも多くのファンに愛され続けているだけの魅力を兼ね備えた、日産、そして日本が誇るスポーツカーだといえる。
Z32型のボディバリエーションは、2シーターと4人乗りの2by2。1992年にはコンバーチブルもラインナップされている。グレード構成はNAとツインターボのV型6気筒エンジン。トランスミッションは5速MTと4速ATが用意された。
オーナーが所有する2by2のボディサイズは、全長×全幅×全高:4525×1800×1255mm。駆動方式はFR。搭載される排気量2960cc、V型6気筒DOHCツインターボエンジン「VG30DETT型」は、最高出力280馬力を誇る。
オーナーとフェアレディZとの記憶をたどってもらった。原体験は9歳の頃にまでさかのぼるという。
「幼なじみの家に大きなガレージがあって、その子の父親が所有するクルマが何台もあったんです。そのなかでもZ32型のフェアレディZだけは特別扱いだったと記憶しています。ボディカラーは黒で、ゴールドのBBSホイールを履いていました。家族のまんなかにZがある印象でしたね。BBQのときも、Z以外のクルマを全部外に出して、ガレージの中でZと一緒にBBQしていたくらいですから(笑)。幼なじみのお父さんが所有していたZは2by2だったので、リヤシートが装備されています。でも『後ろは人を乗せるところじゃない』と、私と幼なじみを順番に助手席に乗せて近所をひとまわりしてくれたのを覚えています」
Z32型の2by2は4人乗りではあるものの、リヤシートは決して広いわけではない。大人はもちろん、ある程度大きくなった子どもが長時間座るのは厳しいだろう。それ以上に幼なじみの父親は、フェアレディZが特別なクルマだという想いがあったに違いない。狭いリヤシートではなく、助手席に座るからこそ味わえる空気を、オーナーは子ども心に感じとっていたのかもしれない。
もっとも、そこからオーナーがクルマに夢中になったわけではない。これまで、生活や家族のスタイルに合わせて、実用的な車種を選んできた。そんなオーナーがフェアレディZという“自分だけのクルマ”を選んだことは、彼女にとっても特別な意味を持つ。
「最初はかっこいいスポーツカーに乗ってみたいな、くらいの漠然とした気持ちでした。でも、いろいろ調べているうちに子どもの頃に乗せてもらったZのことを思い出して…やっぱり私にとって“スポーツカー=フェアレディZ”だと思ったんです。そうしたらもう、Zのことしか考えられなくなっていました」
幼い頃に触れた黒いフェアレディZの記憶がよみがえったとき、オーナーの中で何かが動き出した。
しかし、すぐに購入に踏み切ったわけではない。ネットの情報を丹念にチェックする。そんな日々が少しずつ積み重なっていき、いつのまにか3年が経っていた。3ヶ月ではない。3年だ。途中で諦めたり、気持ちが冷めてしまう人がいくらでもいるだろう。しかし、オーナーは違った。
「ネットでずっと探してたんですが、Z32型はカスタムされた個体が多く、自分が求めている雰囲気の個体にはなかなか出会えませんでした。そもそも、Z32型を置いているお店自体が少ないんです」
さらに、オーナーはある決断を下した。このことからも、並々ならぬ意志の強さを感じる。
「Zに乗るなら、やっぱりMTモデルだと思っていたんです。それに理想的な個体が出てきたとき、AT限定免許が理由であきらめるのは悔しい。だから事前に、MTを運転できるように限定解除しておこうと決めたんです」
それは現実的な準備でもあり、同時に「もっと運転を楽しみたい」「もっと自由に走りたい」という気持ちの芽生えだったのかもしれない。
オーナーの言葉には、Z32型のキャッチコピー「スポーツカーに乗ろうと思う。」が重なる。迷いや不安を抱えながらも、自分の思いに正直に動ける人は決して多くないはずだ。
「ある日、候補のZを見に行った帰りに、偶然置いている店が近くにあることを知り、もう1軒立ち寄ることにしたんです。そこに並んでいたのが今の愛車です」
実車を見たその場で即決だったという。ただし、現在のような、目を見張るレベルのコンディションとは決していえないような状態だったという。
「ボディカラーである“スーパーレッド”がちょっとくすんでいました。記録簿によると私で4オーナー目らしく、何代目かのオーナーさんが1度全塗装しているようでしたが、磨いてコーティングしてもらい、どんどんきれいになっていったんですよ」
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(写真提供:ご本人さま)
全体の雰囲気は好みにぴったり。3年という年月を経て、ついにすべての条件が揃った“理想のZ”と出会うことができた。あらためて納車当時の心境を振り返ってもらった。
「ずっとニヤニヤしてました(笑)。リヤフェンダーとかトランクのあたりに、思わず抱きついちゃいました。ようやくZのオーナーになれたんだって、じわじわと実感が湧いてきた瞬間でしたね」
体ごとクルマに気持ちをぶつけるほどの喜び。フェアレディZだったからこそ、オーナーの心は突き動かされたのだと、あらためて感じられるエピソードだ。そんな愛車と普段はどんな場所を走っているのだろうか?
「近所の買い物に乗って行ったり、用がなくても軽くドライブしたりしています。ただ眺めているだけのときもありますよ」
普段使いに乗る潔さと高揚感。日常生活のなかであれば、フェアレディZのオーナーだと実感する場面も多い。「自分は今、Zに乗っている」と思える場面が増えたことこそ、このクルマを迎え入れたことで起きた変化なのかもしれない。
変化といえば、愛車のモディファイもさりげなく行われている。購入当初はほとんど純正状態だったが、純正の美しさを損なわない範囲でこだわりが反映されていた。
「ホイールはスカイラインGT-R(R34型)の純正ホイールです。オフセットも合っていてしっくりきますね。足まわりも、SNSのフォロワーさんからZ32型用の純正未使用品を譲っていただき、交換しました。Bピラーのところの『Z』のエンブレムのキャップが最初のモディファイでした。ネットオークションに出品されているのを落札して、自分で取り付けました。ナンバー灯も、昼白色のLEDに交換してあるんですが、納得がいく色味を出すために何回も交換しているんです。その他、ホイールキャップのZのエンブレムなど、走りに直結しない部分のモディファイはDIYでおこなっています」
フェアレディZ本来の個性やバランスを損なわないよう、クルマの“素の魅力”を大切にしたいという想いが感じられる。そんなオーナーの純正パーツへのこだわりとは?
「やはり純正のバランスがいいなと思います。Z32型は見た目も整っているクルマなので、雰囲気を崩さず、純正の流れに沿ったパーツを選ぶようにしていますね」
冷静さのなかにもフェアレディZに対する、強く、そして深いリスペクトが感じられる。確かに、Z32型のモディファイは、数あるスポーツカーのなかでも難易度が高いように思う。下手に手を加えると、美しく調和のとれていたバランスがあっという間に崩れてしまう。そのことをオーナーも本能的に理解しているのかもしれない。そんなオーナーにとってお気に入りのアングルはどこなのだろうか。
「真横から見たアングルが気に入っています。流れるようなボディラインに惹かれます。時代を超えても色褪せないですよね」
Z32型には、2シーターと2by2というボディバリエーションがあることは先述したとおりだ。真横から眺めたとき、この2モデルのフォルムの違いをもっとも実感できる。驚くことに、どちらのモデルも自然なボディラインであり、そして美しくまとめられている。これはなかなかできることではない(たいてい、どちらかがちぐはぐになりがちだ)。あとは好みの問題だ。
すでに車齢30年を超えたクルマだけに、トラブルが起きるのも当然だが、修理はどのように行われているのだろうか。
「購入してすぐに、エアコンが壊れたんです。でも保証期間内だったので大きな出費にはならずに済みました。HICASと油圧が連動しているので、修理の手間も費用も掛かります。そして、ラジエーターの交換もしました。その際、ラジエーターのブラケットがなかなか見つからなくて、探し出すのに苦労しました。こうして、大きな修理はひととおりやった感じです」
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(写真提供:ご本人さま)
そんなオーナーにとって心強いのが、信頼できる主治医の存在だ。
「エアコン修理を依頼したディーラーに、スカイラインGT-Rを長年修理しているベテランメカニックの方がいらっしゃって、整備はずっとその方におまかせしています。何かあればすぐ相談できる安心感がありますね。お店で整備をしていただくうえで、自分が触りたくないものをお願いするわけにはいかないと思うんです。そのため、できる限りきれいにして工場に入庫するようにしています」
30年以上前のスポーツカーを維持するには、そのクルマをよく知る整備士との出会いも大切だ。構造を理解し、どんな症状にも的確に対応してくれる経験豊富なメカニックがいることは、長く維持していくうえで何よりも心強い。この年代のクルマのメンテナンスをディーラーに依頼しても、担当できるメカニックがおらず断られるケースもあると聞く。オーナーはとても運の良い方なのだろう。
そして何より、ディーラーに入庫する前に可能な限り愛車をきれいにして持ち込むという姿勢に深い感銘を受けた。思っていたとしても、実行に移せる人はごくわずかだろう。
こうして、愛車の不具合を改善する過程もカーライフの一部になっていく。ひととおりの整備を経て、名実ともに「愛車」としての輪郭が一層はっきりと見えてきたように感じられるオーナーだが、今後このフェアレディZとどう接していきたいかを伺った。
「この先も、ずっと乗り続けるつもりです。Zが家にあると思えば、疲れていても頑張ろうと思えますし、心の支えになっています。手放すという選択肢はないですし、考えられないですね。いまの状態を維持して、走らせられる限りは一緒にいたいです」
オーナーのカーライフは、スペックや知識を超えて「理想の1台」にまっすぐ向き合う姿勢そのものだ。そしてカーライフとは、オーナー自身が少しずつ変化していく過程でもあるのかもしれない。
MTが運転できるようになる。苦手だった運転が好きになる。整備に興味を持ち、知識が深まっていく。サーキットやロングドライブに挑戦し、世界が広がる。どれをとっても、オーナーが前へ進んだ証だ。いずれもこのフェアレディZとの出逢いがなければなし得なかったことだろう。
オーナーにとって、フェアレディZとの出逢いが今後の人生を変えたことは間違いない。「これまで頑張ってきた自分へのご褒美」として、そろそろ憧れのクルマを手に入れてもいいかな・・・。今回の取材が、迷っている方の背中を押す良いきっかけとなれば望外の喜びだ。
(取材・文: 松村透<株式会社キズナノート> / 編集: vehiclenaviMAGAZINE編集部 / 撮影: 古宮こうき)
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