学生時代に飛び込んだ旧車専門店、そこで出会ったフェアレディZが少年の人生を大きく変えた

S30系・初代フェアレディZ。SOHC6気筒のL型エンジンを搭載し、ロングノーズ・ショートデッキというスポーツカーとしてのアイデンティティを国産車の中で確立し、販売から半世紀が経過した今でも衰えぬ人気を誇る名車である。

その中でも昭和51年度の排出ガス規制に適合すべくマイナーチェンジが施された1978年型S31を所有するのが、都内無線機メーカーの会社員として勤務する今出卓範さん(37才)。

購入したのは13年前。当時においてもいわゆる「旧車」のカテゴリーに分類されるほどの年式だ。しかも、日産の名機・L型エンジンにこだわり、最上級のメカチューンを施した1台と聞いていたが、目前にしたソレは、とても40年以上経ったクルマとは思えないほど美しく、そして調子が良さそうだった。

「車体を買った当時はまだ日産純正の新品パーツの供給がされていたこともあって、レストアと同時に新品に代えられるパーツは同等の社外品も含めてすべて交換したんです。平日は電車通勤なので車庫に保管してますが、週末はほとんどこれに乗ってどこかに出かけていますね。経年が原因で自走できなくなるトラブルはまだありません」と、それがさも当然のように話す今出さん。

言うのは簡単だが、頻繁に乗る車両で長期間に渡って好調を維持するのは簡単ではない。
聞けば、このフェアレディZについて、今出さんが全幅の信頼を寄せメンテナンスを依頼しているのが、旧車レストア専門店「スターロード」(東京都江戸川区)。代表の井上さんとの出会いはおよそ20年前、今出さんが自動車部に所属していた学生時代まで遡るという。

「そもそも、旧車にちゃんと興味を持ったのは、自動車部に入ってどのクルマを買うか考えたときでした。20年くらい前なので、部員にはEG、EKシビックやS13、14、15シルビア、あとはスカイラインのR32タイプMが人気で。でも、みんなと同じの買うのは面白くないと思ってた時、ふと見かけた雑誌に旧車がメインで載ってて、これもありだなと」。

そう思った今出さんが向かったのは、当時、既に都内有数の旧車レストアショップとして各方面から実力を認められていたスターロードだった。

「まだ18才の時です。旧車のことだって詳しくないし、正直スターロードがどれくらい凄い店なのかもわからず、1人で店に行ったらいきなり犬に大声で吠えられて。その奥からたばこを咥えた井上さんが出てくるんです。めちゃくちゃ怖かったのを覚えてますよ」と振り返る今出さん。

「それで『S30がほしい』って言ったんですけど『馬鹿野郎、そんな金持ってなくて親に仕送りしてもらってるような学生がZなんて買えるわけねーだろ』って井上さんに怒られました(笑)。今思えば当たり前ですよね。でも、そのときにスターロードには白い240仕様のS30があって、せっかくだからとその運転席に座らせてもらい、ポラロイドで写真を撮ってもらって『頑張れよ』と井上さんから言われたのを、今でも鮮明に覚えています。もちろん、その時の写真は今でも大切に保管していますよ」。

そしてここから1年後、今出さんは再びスターロードの敷居をまたぐこととなる。
「どうしてもZに乗りたくて、1年間暇があったらバイトをして100万円貯めました。引っ越しと、リサイクル工場がメインで、時給が良かったから働いてましたが、俗に言う3Kな職場でしたね」。

バイト代を握り締めて再びスターロードの門を叩いた今出さんだったが、憧れのS30を買うにはそれでも明らかな予算不足。Zは諦めるように説得される一方で、そのときスターロードに5代目スカイライン・通称『ジャパン』の下取り車があり、それを購入することとなった。

「ジャパンは自分のお金で買った1台目のクルマなので愛着がありましたね。でも最初はノーマルのL20エンジンだからホントに遅くて。それまで姉からタダでもらって乗ってたスターレットの方が速かったし、軽にも置いてかれるくらいでした(笑)」。

そこで、自動車部の仲間を通じて、解体屋に置かれていたL28エンジン搭載のS130フェアレディZを購入。そこからエンジンを降ろしてジャパンへ載せ換えることを決めた。

「車体をまるごと買ってきて、オーバーホールの真似事みたいに家の風呂でヘッドを洗浄したりしましたね。でも組むのは自分じゃできないから、スターロードで場所を借りて教えてもらいながらポート研磨もやりました。普通のお客さんだったら絶対させないでしょうけど、旧車屋には珍しい学生のお客ということもあって、今振り返れば井上さんから相当かわいがってもらったと思います」。

気がつけば店の近所にまで引っ越し、特に用事がなくても週3日は店にいて、他のお客さんから新入りのスタッフと勘違いされるほどになったという今出さん。

就職前後のタイミングで諸事情により休眠期間があったものの、またしても転機が訪れる。
「就職して3年くらい経ったころですね。ボクがもともとZに憧れていたのを覚えていた井上さんから『程度のいいS31が入ったけど、そろそろ復活しないか?』と話がありました。価格は当時の年収の2倍くらいで、5年ローンを組みましたが、それでも車体の程度の良さを考えれば格安でした」。

憧れの初代フェアレディZを作るにあたって、こだわったのはロングノーズ・ショートデッキの際立つ240Z仕様にすること。
購入時のボディカラーは白で、10代の頃にスターロードで最初に出会ったS30と同じ白だったが「長期間所有するならこっちの方がいい」と井上さんが選んだ純正マルーンカラーをアレンジした色へと変更した。

内装はスターロードのエアコンキットを装備し、ETCや1DINオーディオも完備した快適仕様。程度の良さを保ちつつ、一方で使用感もあるのが決して車庫保管車じゃない事実を物語っている部分だ。電動ウインドウやミラーなどの電装品も購入時に新品で組み直したこともあり、トラブルレスを維持している。

そして極めつけは、ノーマルのL28エンジンからクランクやピストンを変更し、400cc排気量をアップさせたL型エンジンの究極形『3.2L仕様』への換装だ。

当初はジャパンに積んでいたL28を積み替えたものの、キャブのセッティングを無視したまま踏みすぎた結果ブローしてしまい“どうせ載せ換えるならとことんやりたい”と、井上さんと意気投合。2.8L改3.2Lのシリンダーブロックに、井上さんがデモカーのために用意していたハイカムやビッグバルブ、ポート類のチューンを施したヘッドを組み合わせ、自然吸気ながら推定出力400馬力弱を絞り出すに至った。

窓を開けていると感じる、キャブ独特の吹け上がりのエンジンサウンドもたまらなく、ニッサンの旧車乗りなら誰もがヨダレを垂らして羨ましがるエンジンに仕上がっている。

今はレアとなったソレックスの50φキャブは中古で購入後、ガタが出るたびにオーバーホールして使い続けている。ブローした教訓から、キャブのセッティングに使うジェット類やプラグなども常に車内に携帯しているという。

今後はバックラッシュが増えてきたLSDのオーバーホールや、メタルツインプレートクラッチの変更など、走行性能を重視していた当時の仕様から、自身が年齢を重ねたこともあり乗りやすさを重視したアップデートをしていくのが目標だという。その時のメンテナンスガレージはもちろん、気づけば人生の半分以上の年月の付き合いとなるスターロードに決めている。

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(文:長谷川実路 / 撮影: 藤井元輔)

[ガズー編集部]

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