“幸せの黄色いスポーツカー”2003年式マツダ RX-8 タイプSは、キャンプも行ける理想の愛車
ひょっとすると「理想の1台」とは、かなり後になって気づくものではないだろうか。時間を経て「これしかなかった」と思えるような1台こそ「理想の1台」というのもあり得るかもしれない…。
たしかに、出会ったときに心を奪われた1台であることは間違ない。そして「愛車とどう過ごすか?」を考えはじめたそのときから「理想の1台」へと続く物語がはじまっていた。
そんな「理想の1台」に14年間乗り続けている男性オーナーが今回の主人公だ。小学生の頃に憧れたマツダ RX-8は、かけがえのない相棒だという。
「このクルマは、2003年式のマツダ RX-8 タイプS(LA-SE3P型/以下、RX-8)です。私は現在32歳で、高校を卒業した18歳のときに手に入れました。乗りはじめた頃は約2万kmで、現在の走行距離は約10.8万km。これまで約8.8万km走ってきたことになります。このボディカラーはライトニングイエローという、当時の純正色です」
RX-8は、2003年から2012年まで生産された4ドア・4シーターのスポーツカーだ。観音開きの「フリースタイルドア」やリヤシートの実用性を備え、高い運動性能と居住性を両立させた。ボディサイズは、全長×全幅×全高:4435×1770×1340mmである。
新開発の自然吸気型ロータリーエンジン「RENESIS」を搭載。排気量1308ccの水冷式直列2ローターエンジン「13B-MSP型」は、ベースグレードとタイプEで最高出力210馬力、タイプSでは最高出力250馬力を誇る。駆動方式はFR。トランスミッションは、ベースグレードとタイプEは4ATと5MTが選択でき、最上級グレードのタイプSには6MTが設定された。
オーナーのRX-8は、2003年式の最上級グレードにあたる「タイプS」だ。18インチホイールやスポーツサスペンションが標準装備され、発売直後のわずかな期間にのみ設定されていたボディカラー「ライトニングイエロー」は、オーナーが愛車を選ぶ際にもっともこだわったポイントだ。
そんなオーナーは、物心つく前からあらゆる乗り物に目を輝かせる子どもだったそうだ。トミカやプラレールで遊び、幼少期には最寄り駅へ電車やバスを眺めに行く日常が、オーナーの乗り物熱を育んだのだろう。
映画やゲームも影響を与えたようで、「ワイルド・スピード」は当然履修済み。「グランツーリスモ」は、リアルなカーライフの基盤となった。そして「頭文字D」の存在である。
「周りにはクルマ好きの同世代が多くて、ゲームセンターで一緒に『頭文字D』のアーケードゲームでよく遊んでいました。頭文字Dのアーケードゲームには、自分の愛車データをカードに入れて持ち歩けるシステムがあって、愛車で友達と対戦できるのが楽しかったんです。いまでも当時の友人たちの多くがクルマ好きのままで、お互いに愛車を手に入れて一緒にツーリングに行く仲です」
オーナーはゲームのなかでRX-8と出会った。
「高橋啓介の黄色いFD3S(RX-7)が好きだったんですが、なぜかRX-8もラインナップされていたんですよね。作品には登場していないですが、ゲームのみの設定だったようです。そのとき見た目が好きでなんとなく選んだのが、黄色のRX-8だったんですよ」
余談だが、この取材を続けていると「頭文字Dがカーライフの原点」というオーナーが本当に多い。とくに20代後半から30代前半の人たちはこの傾向が強い。彼らが小中学生の頃に漫画やアニメ、アーケードゲームが全盛期だったという背景があるのかもしれないが、それ以上にクルマに対する情熱を“自分ごと”として結びつける偉大な作品だ。
あらためて、オーナーの愛車遍歴を伺った。
「最初に手に入れたRX-8を想像以上に気に入ってしまったため、このクルマと並行してスポーツカーやクロカンを所有してきました。ユーノス ロードスター(NA型)の後、1台目のマツダ RX-7(FD3S型)、スバル インプレッサ WRX STIi(GR B型)、スズキ ジムニーを2台(JA11型/JB23型)。輸入車ではアルファ ロメオ ジュリエッタにも乗りましたね。現在は、2台目となるRX-7(FD3S型)、フェアレディZ(Z33型)、トヨタ スープラ(A90型)とRX-8の4台体制です。ちなみにRX-8、RX-7、90スープラはボディカラーが黄色です。自分がかっこいいと思うクルマは黄色が良いんでしょうね(笑)」
傍目にはコレクターのようにも映るかもしれないが、そこに収集目的のような視点はない。理由があって選び抜かれた愛車たちだ。
「これまで90年代から2000年代初頭のクルマばかり乗り継いできました。90スープラに乗ってみて、現代のスポーツカーは改めてすごいと気づかされたんです。いまは、マツダの次期スポーツを楽しみにしています。それがハイブリッドであろうがロータリーの名前を引き継いでいようが関係なくて、マツダが『これが最新のロータリースポーツです!』というモデルを出してくれたら迷わず乗りたいと思っています」
90スープラを所有したことで、現代車の「最新こそ最良」という価値観を自然に受け入れられるようになったオーナー。過去を大切にしつつ、未来を楽しむ柔軟な視点を持ち合わせている。そんなオーナーに、愛車との出会いを伺った。
「このRX-8を手に入れたのは、大学1年生のときでした。中古車サイトを眺めるようになったのは、中学生の頃からですね。2007年~2008年くらいで、当時はまだガラケーが主流だったと思います。携帯電話や家のPCで中古車サイトをひたすら見ていました。ネットで中古車はさんざん見ていたんですけど、たまたま出てきたこの個体が大好きな黄色で、状態もよくて、ディーラー保証付き。あのときゲームで選んだRX-8が、リアルで手に入るなんてもう運命ですよね」
とはいえ、当時はまだ学生。クルマを手に入れるにはハードルが高かった。
「アルバイトもしていましたけど、全額は用意できなかったので親に購入資金を借りられるように頼み込んだんです。維持費やガソリン代、生活費や交際費も含めてすべて自分で工面する約束で、それができなくなったらクルマは手放すという条件でした。たしかに親に頼った部分はありますが、自分なりに覚悟して購入したつもりです」
14年間乗り続けていることこそ一時の熱ではなかったこと、自ら課した覚悟と責任を果たしてきたことの何よりの証明だろう。オーナーに、納車当時の思い出を振り返ってもらった。
「納車当日は祝日だったんですが、まさかの授業があって引き取りに行けなかったんです。代理で父がディーラーまで行ってくれました。帰宅したら玄関先にRX-8がいました。愛車がいる景色に感動のあまり言葉にならなかったですよ。
父を隣に乗せて家の周辺をひと回りしました。マニュアル車に乗るのも久々だったので緊張しましたけど『本当に買えたんだ!』という喜びを噛みしめながら運転していました」
所有していくなかで、オーナーによって手が加えられたRX-8。それは「いじる」というより、自分好みに「仕立てあげる」という言葉がふさわしい。モディファイの変遷やこだわりを伺った。
「現在の内装は、特別仕様車『Sport Prestige Limited II』のものに入れ替えています。ベージュの革シートにワインレッドのステッチという組み合わせがすごく好きで、ネットオークションでパネルからシート、ドアトリムまでコツコツと集めて、2年くらいかけて揃えました。自己満足ですけど、かなり気に入っています(笑)。年式相応にヤレも出てきていたので、ボディは全塗装しました。
現在の仕様はマツダスピード製のフルエアロ、スルガスピード製のマフラー、SSR製のホイール、オーリンズ製のサスペンションなどです。いまとなっては貴重なガナドール製のドアミラーは新品が買えた時代に取り付けたものです。車高調や触媒といった劣化するパーツは、必要に応じて交換しています。それと最近は純正部品がなかなか出てこないので、少しずつストックしています。以前は社外エアロを装着していた時期もあったんです。今後、長く乗っていくことを考えたとき、極力純正に近い状態で乗っていきたいと考えて現在の形になりました。
メンテナンスはロータリーエンジンの扱いに慣れているディーラーにお願いしています。行くと必ずRX-7(FD3S)やRX-8がいて、過去にはコスモスポーツが入庫している姿も見たこともあります。14年間お世話になっているすごく信頼できるお店ですね」
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(写真提供:ご本人さま)
オーナーは、このRX-8でキャンプにも出かけるという。一時期はオフロードも走行できるジムニーを所有していたほど、アウトドアが好きなオーナー。しかし、最終的にたどり着いたのは「スポーツカーでキャンプをする」というスタイルだったという。そのこだわりとは?
「ジムニーでアウトドアもやっていましたが、RX-8でキャンプできることが分かった時点で、アウトドア専用のクルマが必要なくなってしまったんです。路面の凹凸さえ気をつければ車高も問題ありませんし、いまはキャンプ用具も軽量でコンパクトなものがたくさんあるので、荷室の広いRX-8なら十分です。意外に思われるかもしれませんが、3人までなら泊まりのキャンプもOKで、デイキャンプなら4人でも余裕でいけますよ!私はこのクルマをキャンピングカーと認識しています(笑)。
そしてなにより、夜にお酒を飲みながら仲間と語らう時間が本当に幸せです。仲間と過ごして、そばに愛車がいるという幸せ。キャンプって自然のなかに自分の空間をつくる行為じゃないですか。愛車がいる空間がそのまま森の中に広がっている非日常感がたまりません」
愛車との暮らしを追求すれば、たとえばガレージ付きの家を建て、愛車と屋根の下で過ごすというスタイルにたどり着く人もいるだろう。いっぽうでオートキャンプは、愛車と星空の下で眠るという自然とつながった時間をもたらしてくれる。
焚き火の炎に照らされて、愛車が暗がりの中に浮かび上がる姿を見つめるときの感覚は、旅人が愛馬を見守るような安堵感に近い。走らない時間のなかにも、人とクルマの関係が深まる魅力が、キャンプにはある。
いまからRX-8を手に入れようと考えている人に向けて、オーナーは率直に語る。
「やっぱり大変だと思います。自分もそうでしたが、ネオクラ系…FD3S型のRX-7やスカイラインGT-Rなどは、若い方からは“神格化”されがちですよね。でもあえていいます。これからクルマ趣味を楽しもうとするなら、現行の86やBRZ、ロードスターなどに乗ったほうが、“幸せ”にはなれると思います」
もちろん、強い憧れや思い入れがあるなら話は別だ。どうしてもそのクルマでなければならないと思えるほどなら、どんな苦労も楽しめるはずだとオーナーは話す。
「“ロマン”と“楽しい”は必ずしも共存しないので、勢いだけで購入すると後悔するかもしれません。いまとなっては、それくらいハードルが高いことだと思います。・・・とはいいつつも何かをやろうとしたときの勢いは非常に大切なので、自分で限界を決めず挑戦する人の背中は押したいですね。なるようになるので(笑)」
FD3S型のRX-7を含め、さまざまなスポーツカーを所有するオーナーだからこそ感じるRX-8の評価も気になるところだ。
「高い実用性を持ちつつ、手足のように楽しめるフィーリングがRX-8の魅力ですね。RX-7から乗り換えるとボディ剛性の高さや重量配分からくるハンドリングの良さを実感できます。剛性感に関しては90スープラに乗ってみて歴然とした差を感じましたけど・・・。いつももっと評価されてしかるべきクルマだと思っています。運転好きな人は絶対に好きなクルマだと思います」
最後に、RX-8とこれからどう接していきたいかを伺った。
「一生乗りますとはいいきれません。先のことはわかりませんし、一生モノだからと力み過ぎると、かえって苦しくなってしまいます。だったらいま、楽しく乗れるうちに乗れるクルマに乗っておきたい。それくらいの距離感のほうが、結果として長く乗れるのかもしれません」
過去の記事でも何度かお届けしているのだが、長きにわたって愛車と過ごすオーナーの共通点ある。それは「入れ込み過ぎないこと」。愛情を注ぎつつ許容する部分も持ち合わせているという、良い意味での“抜け感”がある。
キャンプに乗って行いけば当然ながら汚れる。汚れたらまた洗車すればいいのだ。気負わずに付き合える関係性こそが「理想の愛車」と長く付き合えるコツなのかもしれない。
オーナーが取材中に発した「乗れるうちに、乗っておきたい」。一大決心をして実行に移した人だけが見える景色がある。と同時に、先延ばしを繰り返して実行に移さなければいずれ機会を逸する。立場や年齢ではなく、覚悟の問題かもしれない。
今回の取材中にオーナーが発した「乗れるうちに、乗っておきたい」。このひと言が決断を迷っている人の背中を押すきっかけとなることを願うばかりだ。
(取材・文: 松村透<株式会社キズナノート> / 編集: vehiclenaviMAGAZINE編集部 / 撮影: 古宮こうき)
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