本田宗一郎に想いを馳せて。62歳のオーナーが愛でる1981年式ホンダ プレリュード XXR(SN型)

最近、取材をしていると「愛車との適度な距離感」や「良い意味での緩さ」を感じ、考えさせられることが多い。ことさら旧車となると、多少のトラブルや傷は気にしないほどのおおらかさが必要かもしれないと思う。

今回は、62歳のオーナーが主人公。国内外のクルマを複数台所有するオーナーが特に思い入れを持ち、5年前から趣味兼実用車として所有しているのが、1981年式のホンダ プレリュード XXR(SN型/以下、プレリュード)だ。

オーナーは多彩な愛車遍歴を持つ。運転免許取得後、ホンダ アコードを2台乗り継ぎ(初代・2代目モデル)、7年間所有。1989年に憧れの1台だったルノー 25を手に入れて約8年。その後はサフラン・ヴェルサティスとルノーを乗り継ぐ。

結婚を期に奥様優先のクルマ選びにシフト。シトロエン XM・ルノー 25リムジン(現在も所有)を所有し、再びアコードを手に入れた。そして現在のプレリュードに至る。

最初の愛車、アコードから回帰しているのは、本田宗一郎時代からこのメーカーに愛着の念を持つ、根っからのホンダファンだからなのだろうか?

「私はホンダファンというより、本田宗一郎ファンなんです。ホンダはもともと“バイク屋”だったわけで、四輪のディーラーがなかった頃、シビックはバイクと一緒に置かれて販売されていました。これは、シビックの上級車種であるアコードも同じでした。『バイク屋でクルマを売るんだ』ということが先進的に感じて、アコードが欲しくなったわけです」

「年齢が上がるほど、過去のクルマに惹かれます。日本車が良くなっていく時代と同じくして青春時代を過ごしたからでしょうか。触れ合ってきた感覚が恋しくなりますね」

そう話すオーナーのプレリュードのグレードは、XXR(ホンダマチック) の初代モデル。最終型の最上級グレードとなる。オドメーターの数字は現在3.8万キロを刻み、オーナーが所有してからは約1万キロ走っているという。

プレリュードは、初代アコードをベースとした2ドア4人乗りのノッチバッククーペとして、1978年に登場。5世代のモデルチェンジを経て2001年まで生産された。車名は音楽用語の「前奏曲(プレリュード)」に由来。「先駆」という意味もあり、ホンダが時代を牽引する存在という思いが込められていた。

その名の通り、初代は国産車で初めて電動サンルーフを装備。シリーズ3代目では量産車初の機械式4WS(四輪操舵)を導入するなど、先進の技術が用いられた。「スペシャリティーカー(デートカー)」の代表格として、華やかなバブル時代を彩った。また、本田宗一郎氏が長らく所有していた1台としても知られている。

初代プレリュードのボディサイズは、全長×全幅×全高:4090x1635x1290mm。搭載される1750ccの直列4気筒CVCC(CVCC-Ⅱ)エンジンは、昭和53年の排ガス規制に適合し、低公害ながら最高出力は90馬力(ATモデルは85)馬力を発揮。シャープなハンドリングで、FFコーナリングマシンとしても高評価を得た。

まずはオーナーに、愛車との出逢いを振り返ってもらった。

「2代目のアコードが好きで7年間乗っていて、また欲しいと思って探していたんです。しかし、ほとんど見つからない状態。そんなときに見つかったのがこのプレリュードでした」

プレリュードの納車には半年かかっているという。その苦労を伺った。

「購入当初は、あちこち故障していてまともに走らなかったんです。そのため、故障部分を1つずつ修理しなければならず、納車に半年もかかってしまいました。エンジンの不調は、たまたま工場にキャブの在庫があったので交換することで対応できました」

「その他の部品の確保は本当に大変で、海外で中古品や復刻品を探したり、同型のプレリュードを保管していた方から部品を購入したりもしました。パワーステアリングの修理には取り分け苦労しましたね。この時代のクルマは『日本=右ハンドル・アメリカ=左ハンドル』だったので、アメリカで部品が探せなかったのです」

最終的に、専門店に依頼することで解決しましたが、ステアリングラックは、ニコイチならぬ“3コイチ”になっています」

しかし、これだけ大規模な修理であれば、費用もかなり掛かっているのでは?

「意外かもしれませんが、修理自体はびっくりするような値段ではありませんでした。現代のクルマは、ほとんどがユニット交換やアッセンブリー交換になるので高額になりがちですが、昔のクルマは部品単体で交換できるため、金額的な負担は少ないんです」

こうして日常使いできるまでにリフレッシュ。さらに、日常使いにおいて心がけていることを伺ってみた。

「あたりまえのように乗ることでしょうか。古いクルマを、あたりまえに乗ることが心地良いんですよね。なので、普通に走れたら多少のことはあまり気になりません。もちろん雨の日も乗りますが、メッキの質がとても良くて濡れても錆びない。そのため、走った後に水滴を拭き取ることもありません。妻からは『手に入れると大して手間をかけない』とよく言われています(笑)」

「人からしばしば訊かれるのが『日常使いをしていると壊れないか』ということです。不具合が絶対ないのかと言われれば、正直あります。クルーズコントロールの固定が効かなくなったり、シフトインジケーターの照明の調子が悪くなることも……。しかし、走ることには差し支えないのでスルーしています」

愛車でもっとも気に入っている点を尋ねてみた。

「この世代のホンダマチックですね。ポルシェでいう昔のスポルトマチック(2ペダルMT)みたいなものです。ファンの間では好まれないようですが、私は好きです。自分の意思でロー・スター・ODと変速できることに、3ペダルとは違った楽しさを感じます」

日常使いができるようにリフレッシュはされているが、新たにモディファイを加えた点はあるのだろうか?

「足回りを交換していますね。というのも、初代プレリュードのサスペンションはすでに欠品しています。2代目からはまだあるんですけどね。そのため、TEINに依頼して、特注で作ってもらいました。私のプレリュードで採寸しておけば、次のオーダーがあれば作れるかもしれません」

モディファイにおいてのこだわりは?

「基本はオリジナルで、外装を変えたい欲求はありません。もし手を入れるのであれば、見えない部分に現代の部品を取り入れて、機能を向上させることにこだわります。例えばS800を例に挙げると、ポイントをポイントレスにしたり、ヒューズをブレードヒューズにするとか。他にも、フィルターはカートリッジにするとか。現代品を抵抗なく取り入れていますね」

最後に、このプレリュードと今後どのように接していきたいのかを伺ってみた。

「これまでと変わることなく、一人で出かけるときは、お気に入りのクルマで出かけます。けれども、誰かが代わりに乗ってくれないかとも思うんです。同じクルマを一人のオーナーが乗り続けることも良いですが、今までの経験上、オーナーが変わったほうがクルマのためになると考えているからです。なぜなら、新しいオーナーになるたびに、その人が気になっている部分を修理していくからです。そうして古いクルマを生き延びさせるのもひとつの方法ですよね」

クルマは手に入れたオーナーが自由に乗って良いのは当然だが、貴重な車種を残していく意味で、乗り手として相応の自覚もこれからは必要になるのかもしれないと考えてしまう。ひょっとすると、プレリュードもこの先、別のオーナーの手に渡る可能性もある。しかしそれは、次世代に継承するための「愛の証」ともいえるのではないだろうか。

(編集: vehiclenaviMAGAZINE編集部 / 撮影: 古宮こうき)

[ガズー編集部]

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