26歳オーナーの、冷静と情熱のあいだに垣間見る深い愛情。1998年式日産 フェアレディZ 2シーター バージョンS

これまで多くの女性オーナーを取材してきたが、「愛車を我が子同然に慈しんでいる」ように接していることがしばしばあった。男性よりも女性の方がクルマに対する愛情が深いような気がするのだ。さらに、愛車への深い愛情が胆力に結びつき、オーナーの人生そのものを充実させていると、毎回感じずにはいられない。

愛車が持ち主に似るのか…、はたまた持ち主の人柄が愛車に寄るのかは定かではないが、今回は、愛車さながらに凛とした女性オーナーをご紹介したい。

「新型フェアレディZに、Z32型のテールランプがオマージュされているのはうれしいです。欲をいえば、もう少し部品も残してくださるとうれしいんですけど(笑)。Z32型以来といわれる3リッター・ツインターボエンジンにも興味があるので、機会があれば運転してみたいですね!」

今年の8月、日産から発表となった新型フェアレディZの話題に声を弾ませる、今回の主人公。26歳の若き女性オーナーだ。

彼女の愛車は、日産 フェアレディZ(Z32型/以下、フェアレディZ)。

2019年の納車当時19万キロだったオドメーターは、現在22万キロを超えている。まずはオーナーにとって、愛車とはどんな存在かを尋ねてみた。

「人生の軸となっている存在です。このクルマから得た知識や経験は、人間関係や仕事にも生きています。“自分を写す鏡”のような存在でもあり、メンタルが弱っていると、この子も不調になっていることがありますし、突然故障をしたときには、自分にも何か起こるかもしれないという警告のように感じています」

「同時に、自動車という“道具”として一線を引いている部分もあります。感情移入しすぎることなく、名車であることに敬意をはらいつつ、前オーナーさんへ感謝しながら接しています」

フェアレディZに乗ってから変化した点や、カーライフの様子を尋ねてみた。

「頼りになる専門店とのご縁があり、クルマ好きな友人も増えました。同性同世代の友人もでき、一緒に自宅で飲んでいると、つい明け方までクルマ談義してしまいます。少しは恋愛トークになってもよさそうなんですが(笑)。仲間との交流と同じくらい愛車と対話する時間も大切にしていて、通勤以外にも一人でよくドライブを楽しんでいます。運転が大好きですね」

環境や周囲の人に恵まれ、クルマ好きに成長したオーナーのフェアレディZはシリーズ4代目。型式の「Z32」の呼び名に親しみを抱くファンも多いだろう。1989年から2000年まで約10年間にわたって生産された。

ボディのラインナップは2シーター・4名乗車の2by2・そしてコンバーチブルが用意され、5速MTまたは4速ATを組み合わせたグレード構成であった。駆動方式はFRのみ。エンジンは2960ccのV型6気筒エンジン「VG30DETTおよびDE型」。吸気方式はツインターボとNAがあり、ツインターボは発売当時の国産車最高出力280馬力を誇り、馬力自主規制の基準値にもなった。

オーナーが所有する個体は1998年式の最終型、2シーターの「バージョンS」だ。しかも、ノーマルルーフでNAエンジンを搭載する5速MTという非常にレアな個体。オーナーの個体のボディサイズは、全長×全幅×全高:4310×1790×1245mm。排気量2960cc、V型6気筒DOHCエンジン「VG30DE型」は、NAながら最高出力230馬力を誇る。

オーナーがクルマ好きになったきっかけを振り返ってもらった。

「母親がクルマ好きで、私が幼い頃から日産のファンだったんです。なかでもシルビア(S14型)やブルーバード・パルサーなどが好きでした。小学生から中学生まで、同世代のクルマ好きな友人はできず、高校生になってガソリンスタンドのアルバイトを始めてから、お客様や先輩方のカーライフに刺激を受けました」

「また、同じ職場にいた女性整備士の存在にも憧れ、機械の仕組みや整備のイロハを教わりました。整備のコツがわかるほど楽しくなり、メカニックな視点から車種の特徴にも気づけるようになりました。その後、整備士資格を取得し、タイヤ脱着やオイル交換など、できる範囲のメンテナンスは自分で行っています」

これまで、現愛車を含めて同じZ32型を3台乗り継いでいるというオーナー。フェアレディZとの出逢いを伺った。

「アルバイト中に、街を颯爽と走っていくスポーツカーを見かけてスタイリングに心を奪われてしまいました。最初は何のクルマだかわからなくて、調べていくうちにZ32型のフェアレディZだと知りました。それから歴史やメカニカルな部分まで魅力を知っていくほど、乗りたい気持ちも増していったんです」

「19歳で運転免許を取得後、念願だったフェアレディZを手に入れることができました。前期型でTバールーフ・ツインターボでした。独特の操作感があり、気難しい一面も見せるクルマでしたが、本当にうれしかったですね」

その後、紆余曲折のすえに1台目を手放すことになるのだが、諦めきれず2台目のZ32型を手に入れた。

「縁あって、フルエアロをまといチューニングされた個体を迎えました。チューニングカーのリスクとして、通常よりも車体に負荷が掛かることを覚悟していましたが、やはりトラブルが多く、当時は学生ということもあって経済的にも維持が不可能になり、断腸の思いで手放しました。知人が引き継いでくれたので、きちんと送り出せたということに気持ちが救われました。2台目のZ32型から『長く乗るということ』を学んだ気がします」

具体的に「長く乗るということ」とは?

「長く乗っていけるか見極める目を持つことだと思います。フェアレディZに関係なく『ネオクラシック』と呼ばれるスポーツカーは、低走行であることや、どんなパーツが装着されているかに魅力を求めてしまいがちになります。しかし、社外品パーツは純正品とは異なる壊れ方をする場合があり、部品の入手が困難であることも想定されます」

「また、低走行車は放置されたまま劣化が進んでいる可能性があるため、クルマの状態はもちろんですが、どの部品が寿命を迎えていて、リフレッシュするにはいくら掛かるのかを、維持費と合わせてしっかりとシミュレーションする必要があります」

2台目での経験をふまえて、現在の愛車を購入する際に心がけたことは?

「次に見つからなければフェアレディZを卒業しようと決めたうえで、お世話になっている専門店に希望グレードを伝えて探してもらっていました。メンテナンスがしやすく、さらに長く乗ることを重視して、NAエンジンでノーマルルーフの『最終型』という条件です」

「一度良い個体が出てきたのですが、僅差で別の方に買われてしまったんです。こんな出来事もありながら1年以上希望の個体を探し、気持ちが切れそうにもなりましたが、流れにまかせてみようと開き直った途端、今の子にめぐり逢えました」

1年以上探し続け、現在の愛車と運命的に出逢った経緯を伺った。

「ある日、中古車検索サイトで、条件に合致したZ32を偶然見かけたんです。お世話になっている専門店ではなく、自宅からそれほど離れていない場所にある中古車販売店でした。偶然にも同じ県内だったので、現車を確認するためにお邪魔したんです」

「下回りまでチェックさせていただいて、本当に手入れが行き届いているという印象を持ちました。前オーナーさんも、大切に乗ってくれる人に託したいという思いが強く、次のオーナーは誰でもよいというわけではなかったようです。私自身、すぐにでも欲しいと思ったんですが、冷静に判断しようと気持ちをどうにか抑えました」

千載一遇のチャンス。おそらく、ほとんどがこの時点で飛びついてしまうにちがいない。長く乗ってきたオーナーの話にも感情移入してしまうだろう。そこを冷静でいられた理由は?

「本気で長く乗りたかったからです。これが1台目や2台目だったら即購入していたと思いますが、いち社会人としても後悔する買い物はしたくなかったので、購入費用や維持費用を何度もシミュレーションして決めました。結果的に、納車前整備も含めて予算よりも良心的な価格でお迎えすることができたんです。前オーナーさんからも快諾していただき、そのお心遣いに心から感謝しています」

「クルマに乗る覚悟=高い買い物」とは限らないことに気づかされる。そんなオーナー、愛車で気に入っている点は?

「ノーマルルーフとリアスポイラーが装着されていないスタイルがお気に入りです。念願だった白のボディカラーも大好きですね。ホワイトパールは美しいボディラインが一層際立って、存在感が増します」

どんなクルマでも自分のものになれば、モディファイは自由だ。前オーナーの形跡を消したくなりがちでもある。オーナーがこの個体を手に入れてから、自ら施したモディファイは?

「ホイールとマフラーくらいです。外観は前オーナーさんが乗っていた頃からほとんど変えていません。ホイールは大口径化せず、純正よりも1インチ上げている程度。車体の配色に統一感を出したいのでブラックを選択しました。マフラーはAPEX(A'PEXi)製で、残り1本といわれていた新品を入手できました」

モディファイするにあたってこだわっている点は?

「当時の雰囲気が好きなので、できるだけ壊さないようにしていることでしょうか。リアのナンバー灯はあえてLEDにせず、当時の色味にこだわっています。それと、生産された当時のファブリックや接着剤などの匂いが好きなので、車内には香りの強い芳香剤を置かないようにしています」

「前オーナーさんから受け継いだ、RECARO製の限定シートSR-ZERO、navan(日産純正のオプションパーツブランド)のシフトノブ、MOMO製のステアリングCommand(初代モデル)はとても気に入っていて、これからも大切に使っていきたいと思います」

「この子の前オーナーさんをリスペクトしているので、この方の想いも乗せているつもりです。手放すときの辛さは、私も経験していますから……。今後も、大きく見た目を変えることはありません。もし装着したいパーツが現れたら、今取り付けている何かを外すでしょう。自分に合っているのは、今風に表現すれば『引き算』なのかもしれないですね」

例えば、複雑なデザインの外装パーツは、オリジナルの美しさを損なう可能性がある。カラフルなステッカーを多用すれば、色の統一感を失う。この個体に洗練された雰囲気を感じるのは、オーナーが持つ「引き算」の感性が研ぎ澄まされているからなのだろう。

オーナーの個体が製造されたのは、20年以上も前。コンディションの維持は容易ではないはずだ。そこで、現在の部品供給状況や部品調達の苦労を尋ねてみた。

「最終型とはいえ、製造から20年以上経っているクルマなので、部品は減ってきています。予想もしなかった場所が壊れることがあるので、製廃になりそうな部品は今のうちに確保しています。自宅に『部品専用室』を設けて保管しているんですが、今買っても時間が経つと経年劣化でダメになってしまう部品もあるので、さじ加減が難しいですね」

すでに“出なくなってしまった”部品は?

「プロペラシャフトが出てきません。愛車の主治医ともいえるZ32の専門店“Zone”にお願いして探してもらっているところです。専門店の存在は本当にありがたいですし、まだ若い自分を信用してくださっていることに感謝しています。将来は、今よりも部品流用・修復の知識と技術を身につけたいです」

最後に、このフェアレディZと今後どのように接していきたいのかを伺ってみた。

「今までと変わらず、どこへでも出かけますし、壊れたら修理して乗り続けます。自分がラストオーナーとして“看取る責任”みたいなものも感じています。いつか別れの日は来ますが、それまでは人生のあらゆる場面で一緒にいたいですね。メンテナンスも楽しみたいと思います」

オーナーのカーライフには求道心を感じる。「乗り手としてどうありたいか」という、ある種の熱い想いとストイックさを感じさせる一方で、「機械・道具なのだから」と一歩引いた冷静な視点も持ち合わせている。冷静と情熱の感情を自分自身のなかで巧みに折り合いをつけることで、心地よい距離感で愛車と付き合えている様子が、取材を通じて伝わってきた。

そして「あたりまえに走らせる幸せを享受する」ことは、多くのオーナーがわかっているようで忘れがちではないだろうか。もちろん愛車への接し方は千差万別だが、もし愛車との距離感に悩んだときは、今回のオーナーと同様、愛車とじっくり対話する時間を設けるのもいいかもしれない。

(編集: vehiclenaviMAGAZINE編集部 / 撮影: 古宮こうき)

[ガズー編集部]

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