中学時代に憧れたターボモデル。フルノーマルを維持する『逆マンハッタン』のS130
2022年6月にひさしぶりの新型(正確にはビッグマイナーチェンジ)が発売されることが発表され、注目を集めている日産フェアレディZ。言わずと知れた日本を代表するスポーツカー『Z』の中でも、成瀬さんの愛車であるS130型は、1978年から販売され、日本のみならず北米市場でも人気があった2代目モデルだ。
そして、このS130を象徴するキーワードのひとつが『マンハッタンカラー』。ボディのフロント上面を塗り分けた独特なツートンカラーとTバールーフの組み合わせに、心を躍らせたという当時のクルマ好きは少なくないだろう。
そして成瀬さんのS130は、シルバーボディにボンネットがブラックで当時は“逆マンハッタン”と呼ばれて親しまれたカラーリング。
「珍しい、素敵ですね」と思わず出たつぶやきに「ほんまですか?結構手がかかって大変なんですよ。いやいや、全然大したことないんですけどね。そんな、上手いこと言うても何もでませんよ~(笑)」と謙遜する言葉とは相反して、その表情からは「そうでしょう!カッコイイでしょう!」という思いが溢れ出ているところが、成瀬さんの面白いところだ。
「昔から旧車が好きやったんで、旧車雑誌を不定期に買うてたんです。ほんならある時、ノスタルジックヒーローという雑誌の広告ページで『フェアレディZ(130)、フルノーマル、2by2、ツートンカラー、ターボ、MT仕様車、応相談』と掲載されているのを見つけたんです。
それで興味が湧いて現物を見に行ったのが始まりですね。時間もあったから、ちょっと散歩がてら行ってみたんですけど、なかなかええやんっ!てなって、2ヶ月くらい悩んで購入しました。いやいや、乗るつもりなんて無かったんですけどねぇ(笑)」
そう話してくれた成瀬さんだが、関西から福岡までの距離は“ちょっと散歩がてら”というには遠すぎる。おそらく、気になるフェアレディZの情報を見つけて自分の目ですぐに確認したかったというのが本音だろう。そして“2ヶ月悩んだ”というのは、よくよく聞いてみるとこの期間に車庫を建てていたと言うのだ。
「鉄板がすぐ錆びるんですよ。ほんまは屋根だけの車庫にしよか思ったんですけど、それだけやと、なんか可哀想やから」とのことだった。
「中学2年生の時にターボが売り出されたのを見て、カッコええなぁ~、欲しいなぁ~、と思ってたクルマがコレなんです」とニコニコしながら話す姿を見て『乗るつもりが無かったのに、車庫を建てたんですか?』という野暮な質問は飲み込むことにした。
「今は2シーターの方が人気ありますけど、当時はバイツー(2by2)の方が売れてたんじゃないかな。バイツーってボディがボデッとしているからちょっと間延びして見えるけど、僕はソコが好きなんです。中途半端なショートデッキも、よく見るとカッコええし、せっかくやったら大人が数人乗れる方がええやないですか。1度だけ乗ったことのある母は、めちゃくちゃ狭いやんって言うてましたけどね(笑)」
そんな成瀬さんに愛車のお気に入りポイントを尋ねてみると、1番気に入っているのは“フルノーマル”であることだという。購入時の走行距離は1万5000kmで、前オーナーの保管状態が良かったため、綺麗なボディは純正塗装のままで、経年劣化によるバックランプの黄ばみも見られないくらい、良好な状態だったそうだ。
「痛みやすいフロントシートもめっちゃ綺麗なんです。ダッシュボードが割れるトラブルも多いんですけど、これにはまったく見られません」と、満足気に眺めていた。
唯一、マフラーには穴が空いていたとのことで、修理を施してから納車してもらったのだとか。
順序よく話してくれていた成瀬さんの熱がぐっと上がったのは、エンジンルームの説明に差し掛かったときだ。「それだけじゃないですよ!ここもフルノーマルなんです」と言いながら、丁寧にボンネットを開けた。
「ほんまは、3連キャブになっている方が速そうに見えるかもしれませんけど、僕はそのまんま。やから加速はねぇ…ターボと言えども、むっっちゃくちゃ悪いですよ(笑)。やからこそ、キャブ仕様にしたり、3100ccにしたりとエンジンをいじる人が多いんやとも思いますけどね。L型エンジンは、いじりがいがあるでしょうし、もう市場に出回ってるんはノーマルの個体の方が少ないんちゃうかなぁ。
ぶっちゃけ、購入したのはそれもあったんですよ。せっかく産まれたまんまの状態やのに、僕じゃない人が購入したら、カスタムされてしまうんじゃないかと思ったんです。これは、僕が購入してあげなダメやと」
日産のターボ車に乗ったのは初めてだったそうだが、回転数の上がり方は鈍重で、やはり速くなかったと笑いながら話してくれた。だが、それでもこのエンジンをいじる理由が見つからない、と成瀬さんは言う。
「2速か3速に入れて踏み込んで、3500rpm以上になるとターボが効いて急に加速しだすんです。ドッカンターボと言えばそうかもしれないですけど、うちのはそんなに極端にはこないです。おぉ、出た出た!ターボ効いてるの分かるなぁ!くらい(笑)。
ターボが効き始めると、エンジン音のキュィーンという加給音が鳴るんですけど、僕はこの音を聞くのが好きです。後輪駆動だから後ろから支えてくれる感じがするし、速く走らんでも充分楽しめるんですよ。やから、何もせんと、このままでええんです」
「排気量がデカいのは好きじゃない、というのもありますけどね。このS130も2.8ℓやなくて、あえて2ℓを選んでいるくらいですから。踏み込んで頻繁にシフトチェンジをするというよりは、一気に加速してあとは流すってな具合で走っています」
マニュアルミッションで操る楽しさが感じられることもポイントだそうだ。20代前半にAE86カローラレビンのマニュアル車を運転していたものの、その後はオートマ車ばかりに乗ってきたそうだ。久しぶりのマニュアル車に不安が無いわけではなかったが、乗ってみてすぐに楽しさを実感したと話してくれた。
「基本的に走るのは楽しいんですけど、納車して、福岡から大分経由で高速に乗って帰ってくる時は緊張しましたね。サイドミラー見えないやん!!みたいな。普段使いしているクルマが軽自動車やから差もありますしね」と、苦笑いした。取材スタッフが「ロングノーズだから車両感覚を掴むのも大変そうですよね」と同調すると、そうそうと同意するような表情で頷いた。
その反応を受けて『なんだかんだ言いつつ大変な思いまでして乗りたいクルマだった』という感じで話がまとまり始めたころ、成瀬さんの口から衝撃の事実が伝えられる。
「でも僕、トラックを運転していたので、そこまで困ってはないんですけどね。車庫入れも、だいたいポイントを決めると簡単ですよ」という一言に「運転のプロじゃないですか(笑)!」と思わずツッコミを入れてしまった。
冒頭でも記したが、成瀬さんにはこういう面白さがある。言動に対して表情や行動が相反しているのだ。
それはさておき、最後に成瀬さんにとってフェアレディZがどういう存在か尋ねてみた。
「人見知りの僕を支えてくれる“良き友達”ですかね。取材中もやけど『写真撮らせてもらってええですか~?』とか『昔乗ってたんです~』と話しかけられることも多いです。それってやっぱり嬉しいから『エンジンルーム見せてください』なんて言われると、ほなちょっとって感じでボンネットを開ける時もあります。ほかには、イベントに行って繋がりができたりとかね。人見知りな僕に、そういうキッカケをくれるんです」
おそらく、本当の人見知りは、見ず知らずの人にエンジンルームを見せたりしないだろう、と思わず心の中でツッコミを入れながら、愛車だけではなく成瀬さん自身も“逆マンハッタンカラー”なのかもしれない、とふと思った。造っていないその自然なキャラクターが、個性的で魅力なのだ。
そう思うと、フェアレディZは来るべくして成瀬さんの愛車になったのかもしれない。
取材協力:大蔵海岸公園
(⽂: 矢田部明子/ 撮影: 平野 陽)
[GAZOO編集部]
GAZOO愛車広場 出張取材会 in 兵庫
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