オーナーにとって「2台の本命の愛車」のもう1台、1992年式日産 ホーミー コーチ ロイヤル(E24型)
「本命の愛車が1台だけとは限らない」。今回の取材を通じ、そのことを改めて実感した。
そもそも「本命のクルマは1台だけ」といったルールや法律も存在しない。本命が2台でも3台でも、もちろんそれ以上であってもいいのだ。
筆者はこれまで、愛車広場の場を通じて300台を超えるクルマと、そのオーナーたちを取材させていただく機会に恵まれてきた。なかには最多出演回数が4回という、もはや“常連”といえる方もいらっしゃる。複数台のクルマを所有していたり、買い換えや増車など……。さまざまな理由で何度も取材する機会をいただけたことに感謝しかない。
しかし、いずれも早くても数ヶ月、時には数年ぶりに再会して取材をお願いするというケースが大半であった。今回のように「1人のオーナーが所有する愛車を同日に撮影し、しかも2回連続で記事にする」ケースは初である。ちなみに、前回の記事はこちらだ。
先述のとおり、前回の記事は「1988年式日産 レパード アルティマ ツインカムターボ(F31型)」であった。そして今回は「2台の本命の愛車である」こちらのクルマをご紹介したい。
「このクルマは1992年式日産 ホーミー コーチ ロイヤル(E24型/以下、ホーミー コーチ)です。手に入れてから今年でトータル8年目、オドメーターの距離数は13万8千キロ(10万キロ時メーター交換)です。このうち、私が乗ったのは約2万キロです。なぜ、“トータルで8年目”なのかというと、1度手放しているんです。その後、不思議な巡り合わせで買い戻しているからなんです」
ホーミー コーチといえば、日産が誇る1BOXカーとして親しまれたモデルだ。オーナーが所有する「E24型」はシリーズ3代目にあたり、1986年にデビューを果たした。標準ボディ/ロングボディ・FR/パートタイム4WD・5速MT/4速ATをはじめとするグレード展開、そしてモデルバリエーションは多岐にわたる。オーナーの用途や好みに応じてさまざまな仕様を選ぶことができた点も魅力のひとつだ。
そのなかでもオーナーが所有する「ロイヤル」は、1BOXカーとしては初となるV6 3リッターエンジンが搭載され、さらにロングホイールベース仕様のボディが与えられた、名実ともに最上級グレードといえるモデルだ。
「ホーミー コーチ ロイヤル」のボディサイズは全長×全幅×全高:4795×1725×1955mm。他のグレードの全長が4525mmであることから、ロイヤル専用のロングボディが与えられた、贅沢かつ特別な存在であることが分かる。
上級モデルに搭載された排気量2960cc、V型6気筒OHCである「VG30E型」エンジンの最高出力は当時155馬力を発生。車両重量1940kgもの大柄なボディを優雅に引っ張るパワーを持ちあわせていた。
このホーミー コーチとレパードいずれもが「本命」だと語るオーナー。それほどまでにホーミー コーチに強い想い入れを抱くようになったきっかけは……というと、オーナーの幼少期の原体験が影響しているようなのだ。
「当時、父親が日産プリンス系のディーラーに勤めていたこともあって、プライベートカーも日産車だったんですね。私が少年時代、たしか1987年式のホーミー コーチ リムジン ディーゼルターボ(前期モデル)を所有していたんです。後席用テーブル・リアスポイラー・リアのブラウン管テレビ……などなど。父親の好みでフルオプション仕様のクルマでした」
オーナーにとって、あぶない刑事を観たことがレパードを手に入れるきっかけとなったように、このホーミー コーチを所有しているのも、父親の存在が影響していることは間違いないだろう。筆者自身もそうなのだが、【原体験】がその後のカーライフに大きな影響を与える確率は極めて高いように思う。
オーナーの場合、少年時代に満たされなかった経験の反動が、大人になってホーミー コーチを手に入れる動機となっていることは間違いなさそうだ。
「父はディーラー勤務、さらに営業職だったこともあり、基本的に土日は仕事でした。そうなると、家族旅行に出掛けられるのはゴールデンウィークなどの大型連休に限られます。普段は父親と休みが合わなかったこともあり、ホーミー コーチに乗りたくてもなかなか乗れなかったんです。そんなモヤモヤを晴らすため、率先して洗車してホーミー コーチと接する機会を作っていました。
そんなことを繰り返していくうちに、だんだんとホーミー コーチというクルマを好きになっていくのが自分でも分かるんですね」
普段はホーミー コーチに乗りたくても乗れないという想いが満たされなかったからこそ、ようやく乗れたときの喜びは格別だったようだ。そして、あるとき、現在のグレードを手に入れるきっかけとなる体験をしている。
「たまにホーミー コーチに乗れると嬉しくて(笑)。1BOXカーならではの視線の高さや室内の広さ、助手席は私にとって特等席でしたね。ただ、快適な分、車重もそれなりで、当時のクルマとして重い部類に入るクルマ(車重は1.8トン)でした。
父が所有していたホーミーの前期、なかでも初期モデルに設定されていた2リッター・ディーゼルターボは79馬力しかなかったんです。運転しながら、父が『高速道路や登坂車線を走るとパワーがない』と呟いていたことを覚えています。高速道路で追い越しを掛けても、パワーが足りなくて追い越せない・・・。父親はもちろんのこと、私も幼心に悔しかったですね」
好きなクルマに思うように乗れないというジレンマを抱え、ようやく乗れたと思いきや、今度はパワー不足という壁に直面する。2つの満たされない想いを抱えて成長していったオーナーにとって、ホーミーというクルマの存在は過去の美しい思い出とはならず「自分なりに描いた理想のホーミー コーチ像」を追い求めるきっかけとなっているようだ。
「"父親の雪辱を晴らしたい"という自分なりの想いもあったんだと思いますね(苦笑)。運転免許を取得後、18歳で手に入れた1台目のレパード(XSターボ/後期モデル)に加えて、父親のディーラーに下取り車で入ってきたホーミー コーチ ロイヤル 2.7Lディーゼルターボ・4WDという仕様が気に入り、増車してしまったんです(笑)。二十歳にして2台持ち生活です」
こうして、二十歳にしてホーミー コーチとレパードという、幼少期に好きになった2台のクルマを手にしたオーナー。しかし、これでめでたしめでたし……とはならなかった。オーナーにとっては「ホーミー コーチとレパードを所有できればそれでOK」ではなかったのだ。
レパードであれば、あぶない刑事の劇用車と同じ「アルティマ ツインカムターボ」でなければ納得がいかないし、ホーミー コーチであれば追い越しができるパワーを持つグレードでなければならないのだ。
「あるとき、E24型のホーミー コーチにV6 3リッターエンジンを搭載したモデルがあることを知ったんですね。E24型って、細かい違いを含めるとおよそ100通りの仕様があるんですね。そのなかでも最上級グレードにあたる“ロイヤル”に惹かれるようになりました。
1台目のE24型には4年ほど乗りましたが、エンジンの噴射ポンプに不具合が出始めたときに出会ったのが、V6 3リッターエンジンを積んだE24型のロイヤルだったんです。もともとガソリンエンジンを探していたし、乗り替えることにしたんですね。それがこのクルマです」
こうして、オーナーにとって「ほぼ理想的な条件のホーミー コーチ」を手に入れたわけだが、実は1度、この個体を手放しているという。そして、不思議な縁でオーナーの元に戻ってきたのだ。
「現在所有しているレパードを購入したとき、このホーミー コーチを手放しているんです。その後はニスモ仕様の日産エルグランドと、通勤用に日産マーチを手に入れて乗っていたんですね。
しばらく経ったある日、たまたま中古車オークションサイトを見ていたら、気になるホーミー コーチを見つけまして……。よく見たら私が手放した個体そのものだったんです。とはいえ、エルグランドからわざわざ3世代も前のホーミー コーチに乗り替えるわけですから、“私がいかにホーミー コーチに惚れ込んでいるか”をこれまでの経緯を含めて妻に伝え、どうにか説得して買い替えました」
奥さまからすれば「なんでわざわざ古いクルマに乗り替えるのか」、理解不能だったはずだ。もしかしたらオーナーから説得されたというよりも、根負けしたのかもしれない(笑)。それはさておき、1度手放したホーミー コーチそのものがオーナーの手元に戻り、前回の記事でご紹介したレパード アルティマ ツインカムターボ、そして通勤用の日産マーチ12SRという3台体勢ができあがった。
「私が買い戻した時点でモディファイされていたアルミホイール(日産アルマダ用とのことだ)から、純正品を手に入れて交換しました。いわゆる純正戻しです。その他、オプションのリアスポイラー、社外品の大型のサイドバイザー、ウッド調パネル、後期グリル(ブラックアウト)・ローダウンブロックキット、自光式ナンバープレートをチョイスして自分好みに仕上げています。
あと、他車種用のフロントリップスポイラーが流用できるらしいので、ネットオークションで探している最中です。これが装着できれば自分としては完成ですね」
オーナーにとって、このホーミー コーチの気に入っているところを挙げていただいた。
「このホーミー コーチの魅力は、ハイエースにはない角張ったデザインと、1BOXカーにVG30型エンジンを押し込んだところでしょうか。あとは、ブラックパールマイカ/グレーメタリックのボディカラーに映えるエンブレムですね。ゴールドの文字と書体が気に入っています。
パワー感のある3リッターエンジンもお気に入りです。その分、燃費は悪いですけれどね。街乗りで4~5km/Lです。高速道路をゆっくり走ってようやく10km/L弱といったところです」
オーナーのご家族、そして父親の反応も気になるところだ。
「妻や子どもは快適なリアシートの空間がお気に入りのようです。かつてホーミー コーチを所有していた父はというと、実はあまり興味がなさそうです。父がかつて所有していた前期モデルのホーミー コーチだとまた反応が違うのかもしれませんね」
オーナーにとってはファミリーカーの役目を果たしつつ、大切なコレクションカーでもある。
「レパードは自宅のガレージに入れていますが、ホーミー コーチはカーポートに停めています。レパード同様、なるべく雨の日は乗らないようにしています。天気が悪い日は妻のクルマ(2012年式トヨタ スペイド)で出掛けるようにしています(笑)」
これほどまでに想い入れのあるホーミー コーチ、最後に、このクルマと今後どう接していこうと思っているのか、伺ってみた。
「1度手放したあと、私のところに戻ってきてくれたわけですし、乗り潰す覚悟で所有していきます。レパードとホーミー コーチ、どちらかを手放さなければならない状況になったとき……それは考えられないし、考えたくないですね……。どちらも大切な存在ですから。天秤には掛けられません」
最後の質問を投げ掛けたとき、悩みに悩むオーナーの姿が印象的で、申し訳ない気持ちでいっぱいであった。
オーナーにとって、ホーミー コーチとレパードはイコールの存在であり、2つでひとつなのかもしれない。どちらか一方が欠けてしまうことで、オーナーのカーライフが成立しなくなるほど大切な存在なのだ。
オーナーの幼少期時代のさまざまな想いが内包され、今では心のよりどころとなっているこのホーミー コーチ。趣味性の高いレパードに比べて実用車であるホーミー コーチは、使命を終えれば廃車になったり、海外へと旅立っていく可能性が高い。それだけに、大量に生産されても後世に残りにくい存在ともいえる。
撮影の合間に、オーナーにお願いしてリアシートをフルフラットにしていただいた。その広大な空間に驚いた。このリアシートに腰掛け、移動できる奥さまやお子さんがうらやましい。さらに、細部をつぶさに観察してみて、多彩なシートアレンジ、そして手触りが良く、厚みのあるふかふかのシート。30年以上前にデビューしたとは信じがたいほど、色褪せない魅力と贅沢な仕立てに魅了されてしまった。
オーナーにとって「2台の本命の愛車」のもう1台というホーミー コーチ。これからもオーナーからの惜しみない愛情を注がれ、美しい状態を保つことを願うばかりだ。
(取材・文: 松村透<株式会社キズナノート> / 編集: vehiclenaviMAGAZINE編集部 / 撮影: 古宮こうき)
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