廃車寸前だった「つなぎ」の愛車は、いつしか「相棒」へ。1991年式日産ローレル メダリスト ツインカム24Vターボ(C33型)
何らかの理由があり、妥協したつもりで手に入れたはずの1台が、気づけば『相棒』と呼べる存在になっていた……。この取材を続けていると、そんなオーナーにたびたび出会う。クルマが持つ魅力とオーナーの懐の深さが融合した結果なのだろう。
今回、そんなドラマにまた出会うことができた。以前、日産スカイラインのオーナーとして登場いただいた、32歳の男性オーナーが10年以上所有する、もう1台の愛車を紹介しよう。
スカイラインは、オーナーの父親が所有している個体で、家族の絆を象徴するような1台だった。今回は、オーナー自ら購入した愛車との物語である。
「このクルマは、1991年式の日産ローレル メダリスト ツインカム24Vターボ(C33型/以下、ローレル)です。私が19歳の頃に購入したので、所有して12年になります。納車当時の走行距離は5万5,000キロで、現在の走行距離は13万4,000キロになりました」
オーナーの愛車「C33型」のローレルは、シリーズ6代目として1989年から1993年まで生産された。「高級感」と「スポーティーさ」の絶妙なバランスを持つ上質な4ドアサルーンとしてデビュー。キャッチコピー「時代のまんなかにいます。」が示すとおり、この時代の4ドアセダンのトレンドを象徴するかのような、ピラーレスハードトップモデルとして人気を博した。
外観は、上品で成熟した雰囲気を醸し出しつつスポーティーさも感じられるデザインに。シャープな面と、ボリューム感のある曲面を調和させたフォルムが印象的だ。いっぽうで、内装は高級感のある素材をふんだんに使用。本木目パネルや、グレードに応じて本革やエクセーヌ(スエード調の人工皮革)シートなどが採用され、高級車にふさわしい質感を持つ。
さらに、四輪操舵システム「HICAS-II」、ステアリングの操舵力や路面状況に応じてダンパーの硬さをコントロールする「DUET-SS」など、当時の最新技術も搭載。ラグジュアリーでありながら運転の楽しさも両立させた。
オーナーの愛車は後期型の「メダリスト ツインカム24Vターボ」だ。トランクのエンブレムにも「TWIN CAM」そして「TURBO」の文字が誇らしげに刻まれている(NAエンジン搭載車は“MEDALIST”のみのエンブレムとなるため、識別ポイントのひとつだ)。オーナーのローレルのボディサイズは全長4690mm×全幅1695mm×全高1365mm。駆動方式はFRで、搭載されている排気量1998ccの直列6気筒DOHCインタークーラー付きターボエンジン「RB20DET型」の最高出力は205馬力を誇る。
オーナーは、12年前のローレルとの出会いをこう振り返る。
「実は、最初からローレルが欲しかったわけではありませんでした。当時は“高級なおじさんセダン”のイメージがあり、私としては父が乗っていたR32スカイラインやR32のGT-Rといったスポーティーなクーペに憧れがありました。そんなある日、知人が所有していたローレルに触れる機会があったんですよね。見た目は全然違うのに、R32スカイラインと同じ排気音がすることに驚いて、興味を抱くようになりました。スカイラインと同じRB型エンジンを搭載している点や、共通する設計思想に強く惹かれましたね」
前回の取材で伺ったが、オーナーは大学生になると自動車部に所属。クルマに対する理解を深めていくなかで、父親のスカイラインへの愛情と自らのクルマへの価値観が重なるようになったという。
まもなく、オーナーは初めての愛車としてローレルを迎え入れる。しかし…だ。
「中古車サイトでカタログカラーの“ダークグリーンで前期型”という、理想の仕様を見つけて購入したんですが、残念な事情で、たった3週間で手放すことになってしまったんです」
当時は大きく落胆したというオーナー。しかし、それからしばらく経ったある日。SNSを通じてこんな話が舞い込んできたという。
「ある板金店が『大型車の修理でヤードを空けなければならないから』という理由で、ナンバーを切って敷地内に放置されていた後期型のC33ローレルを処分するというんです。当時は前期型が好きだったのでスルーしていたんですが、思いがけず格安で譲ってもらえることになり“つなぎでいいか”と思い、購入することに決めました。後で聞いたんですが、私が購入したタイミングが廃車にする直前のことだったそうです」
もし、オーナーがそのままスルーしていれば、この個体は確実にスクラップになっていただろう。この運命を分けた決断が、結果としてオーナーのカーライフの大きな転機となった。
そして、いざ対面。当時の愛車はどんな状態だったのだろうか?
「このローレルは現車確認なしで、直接引き取りに行きました(笑)。雨ざらしでボディがくすんでいたり、ドアの内側に苔が生えていたり……といった状態でした。でも、不思議と嫌な気持ちにはなりませんでしたし、ナンバーが付いたときは感慨深かったです。当時はまだ『つなぎ』のクルマのつもりでしたが、きれいにして乗ってあげたいという気持ちになりましたね」
オーナーの家族はどんな反応だったのだろうか。
「スカイラインとは違うラグジュアリーさが印象的だったみたいです。母には好評で『いいクルマね』と褒めてもらえました(笑)。父もこのクルマを運転するんですが、特別な感想はなかったですね。やはり自分のR32に乗っているほうが安心するというような感想だったと思います。BRZオーナーの弟にも乗ってもらったことがあるんですが、普段はMTに乗っているのでATの加速が新鮮なようでした」
納車後は、遠出もしたというオーナー。
「卒業旅行の一人旅にローレルと出かけました。中学の修学旅行みたいに京都や奈良を観光して、そこから思いつきで姫路城を見てみたかったので、姫路まで走りました。5日間くらいかけて行きましたね」
オーナーにとっては思い出深い旅であり、ローレルをじっくりと走らせる初めての機会でもあったわけだ。続いて、このローレルに乗り続けるなかで感じているドライブフィールについて伺ってみた。
「まずは、やはりこの時代のスカイラインと同じ“RBエンジンだな”ということです。スカイラインは“ドッカン”な加速感ですが、ローレルはラグがなくなめらかな加速感。ATということもありますが、同じエンジンでも味付けがこんなに違うのかと驚きました。サイズ感はスカイラインよりも少し大きめで、ゆったりとリラックスして乗りたいときはローレルがいいですね」
当初は苔が生えていたこの個体を、ここまでのコンディションに仕上げたオーナー。現在のローレルは、大幅なモディファイではなく「調律をとる」ことに重点を置いているという。
「トータルで見てバランス良く作ってあるのが純正のチューニングで、それを崩すことは、シーソーのバランスが崩れることだと思っています。例えば、下手に強化品を使うことでクルマに負荷を掛けてしまうこともありますよね。そのため、そのクルマの時代や特性に合わせて、ときには互換性のある部品を使い、バランスを維持するようなイメージです。外装も同様で、主張したいポイントを何箇所もそれぞれ目立たせると、悪目立ちして全体のデザインが崩れてしまうと感じています。あえて主張していないけれど、見る人が見れば気がつくくらいがいいですね」
全体の調和を大切にしながら、時代や特性を踏まえたモディファイを施すことで、そのクルマが持つ魅力を最大限に引き出す。そんなオーナーの洗練されたセンスを感じる。
続いてそんなモディファイを詳しく伺った。
「まずは内外装の修復ですね。外装は自分で磨き直して、塗装を部分的に塗り直しています。それから、グリル、テールランプ、リアガーニッシュ、ホイール、リアドアの付け根のパネルを前期型のものに交換しています。また、フロントグリルの格子の箇所をブラックアウト化、フロントリップスポイラーも装着しました。
内装も前期型のステアリングに交換。当時このグレードには設定がなかったエクセーヌシートおよびエクセーヌ内装に変更しています。シートは純正品ですが、ダッシュボードやドアパネル、センターコンソールの部分は生地問屋に行って豚の天然スエードを探してきてDIYで張り替えました。その後、ネットオークションで出てきたセレクションS用のエクセーヌ内装に交換したんですけどね」
DIYはそれだけではない。手先が器用な方なのかもしれない。
「その他、エアコンやドアミラー交換をはじめ、各部の修理、洗浄、交換などなど……。車検はディーラーで行っていますが、お金もなかったのでDIYが多いですね。前期型にモディファイするにあたり、何人もの友人や知人が協力してくれたことにも感謝です」
純正のスタイルを尊重しつつ、自分の理想に近づける努力を惜しまない。結果として完成度の高い1台になっただけでなく、その過程にオーナーの愛情と情熱を感じられる。
「こんな感じで10年間乗ったとき、記念にやりたかったことをやろうかなと思い、初めて字光式ナンバーを取得しました」
とオーナー。愛車への想いを「字光式ナンバー取得」という形で表現されているのが素敵だ。愛車と過ごした時間を一つの節目として思う気持ちは、もはや「つなぎのクルマ」ではありえない。
最後に、この先このローレルとどう過ごしていきたいかを尋ねた。
「“現状維持”でしょうか。もはや手放しづらいから持っているというのはあります(笑)。20代はこのローレルと一緒に通り過ぎてしまいましたね。実は、エアコンが故障したときなどに手放してしまおうかという思いがよぎったこともあったんですが、そうなりかねない場面を全部くぐり抜けてきてしまったので、これからも乗るんだろうなと思っています」
そんなオーナーの言葉は、一見ドライなようであったが、クルマに対する真摯な思いが根底に感じられる。そうでなければ、手間を惜しむことなくこれほどの愛情を注げるものではない。コンディションを長く保ち続けるという選択は、愛車を「人生の一部」として自然体で受け入れていくことでもあるのかもしれない。
少なくとも、オーナーが廃車寸前のクルマをレスキューしただけでなく大きな愛情を掛けなければ、廃車寸前だったローレルがこれほどのコンディションを保つことはなかったことは間違いない。
オーナーとローレルが過ごす日々が良い意味で程よい距離感を保ちつつ、時間を重ねるたびに豊かになっていくのだろうと確信した取材だった。
(取材・文: 松村透<株式会社キズナノート> / 編集: vehiclenaviMAGAZINE編集部 / 撮影: 古宮こうき)
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