実用性の中に宿る、深い愛情とリスペクト。2000年式 日産キャラバンデラックスGLパック(E24型)
カーライフにおける「愛車の価値」とは、移動手段の道具を超えて芽生えた「愛着」によって宿るものだと思う。しかし、道具として使い込む過程で生まれる愛車の価値とは、「信頼すること」なのかもしれない。
今回の主人公は、28歳の男性オーナーだ。以前、日産ラルゴのオーナーとして登場いただいたが、もう1台の愛車である日産キャラバン(E24型)もラルゴ同様、大切に乗られている。そんなもうひとつのカーライフを紹介したい。
「このクルマは2000年式の日産キャラバン(E24型)です。所有して4年目に入りました。購入時には4.8万キロだったオドメーターも、気がつくと11万キロに達しました。私の父が過去に所有していたキャラバンと型式・ボディカラー・グレードまで同じです。グレードはデラックスのGLパック。ボディカラーは“イエローイッシュシルバー”です。これは180SXにも採用されている純正色なんです」
日産キャラバンは、1973年の初代モデルからシリーズ5代にわたって世界中の幅広いユーザー層に支持されてきた。商用車をはじめ、公用車から個人用まで多用途に対応。実用性と耐久性に長けている。
オーナーが所有する「E24型」は、シリーズでは3代目となるモデルだ。1986年から2001年まで15年間生産され、歴代でもっとも息の長いモデルでもあった。ディーゼルエンジン、4WDもラインナップもされ、乗用としてもアウトドアや車中泊などに利用されるなど好評を博した。
E24型(以下、キャラバン)はボクシーなデザインが特徴で、広々とした室内空間と積載空間を実現している。ボディサイズは、全長4690mm×全幅1690mm×全高1990mm(ロング)。駆動方式はFR。搭載される排気量1998ccの水冷直列4気筒DOHCエンジン「KA20DE型」は最高出力120馬力を誇る。
オーナーの父親が所有していたキャラバンは、主に仕事用として使われていたそうだ。しかしながら、オーナーが幼い頃に家族で乗った思い出も多くあるという。
「小学校低学年の頃に喘息を持っていて、発作が悪化すると父がキャラバンで病院まで送ってくれたことは今でもよく覚えています」
オーナーは18歳で運転免許を取得した。免許を手にしたその日に、父親からラルゴとキャラバンのキーを手渡され、スペアキーを作ったというエピソードを前回の取材でお聞きした。あれからキャラバンは?
「ATのDレンジが入らなくなる不具合で動かなくなり、結果として父がディーラーへ下取りに出してしまいました。私は修理してそのまま乗り続ければいいと思っていましたし、修理後に自分で買い取るシナリオも考えていたんです。しかし、父が仕事用のクルマを優先して決断したことです。下取りの価格も意外と良かったこともあって、経費を抑えるためにはそれが最善だったのだと思います。ただ、もし近くに残っているのならと思い、陸運局にも足を運んで調べたんですよ。しかし、すでに輸出されていることが分かったんです。その時点で、父親が乗っていたキャラバンを取り戻すことは諦めざるを得ませんでした」
残念ながら、父親が乗っていたキャラバンを取り戻すことは叶わなかった。その後は日常使いの愛車として、初代モデルのワゴンRや、トヨタ マークⅡ(GX81型)を乗り継いだというオーナーだが、やはり“長年自分の家にあったクルマ”への思いは特別だったようだ。
「同じ年式・ボディカラー・グレードのキャラバンがどうしても欲しくて、業者オークションをこまめにチェックするようになりました。ある日理想の個体が見つかったんです。本当はATが良かったのですが、MTでもかまわないくらいに良いコンディション。なんとしても手に入れたくて“予算の上限なし”で競り落としました」
こうして手元に届いたキャラバンは、ガラス店の営業車として使われていたと思しき個体だった。記録簿も残されていて、年間走行距離は1000キロ程度と少ない。
車体にはワックスをかけた跡があった。手放す前にかけられたのだろうか。オーナーも「大事にされていたクルマだ」と感じとったという。仕事の道具として役目を果たし、やむを得ない事情から手放された個体かもしれない。気になって調べてみたところ、そのガラス店はすでに存在していなかったそうだ。
「ワックスをかけた跡を見つけたとき、前オーナー同様に大事にしていきたいという気持ちが強くなりました。そのため、洗車するときは必ず手洗い洗車にしています。拭き上げだけでもざっと2時間、しっかりやると3時間はかかりますね」
前オーナーが丁寧に使ってきた歴史を尊重し、手洗い洗車を欠かさない姿勢から、前オーナーへの敬意が感じられる。あらためて、このキャラバンで気に入っている点を伺った。
「このE24型はしっかりと作られていることが実感できます。そのため、ドアの閉まる音も剛性感のある音がします。さらに、同サイズのクルマと比べて着座位置が低くて乗り降りがしやすいので使い勝手がすごく良いんです。現行モデルを横に並べてみるとよくわかりますが、ヘッドレストの位置も低めです。そのぶん頭上空間が広いので、圧迫感がないところも気に入っています。中でも、カリフォルニアミラーは本当に気に入っているポイントです。視認性抜群!このミラーは、安全基準の関係で現行モデルには付けられないんですよ。洗車機を使わない理由のひとつに、このミラーのステーに配慮しているという理由もあるんですけどね」
日常使いのクルマとして活躍しているというが、どんな場面で活躍しているのだろうか。
「買い物はもちろん、友人と出かけるときは、だいたいキャラバンですね。よく考えてみると、ラルゴよりも乗る回数が多いかもしれません。冠婚葬祭の行事以外はこのクルマに乗っています」
さらにオーナーは、かつて父親が所有していたキャラバンと同じ仕様に近づけることを目指している。当時の雰囲気や機能を再現することで、理想のキャラバンをカタチにしようとしているのかもしれない。
「ドリンクホルダーを2つと、チューリップ灰皿を取り付けました。この3点は完全に前のキャラバンと同じにしたかったんです。通常では入らないカーオーディオの2DINデッキも、内部を調整して父のキャラバンと同じように収めています。スピーカーは、上にサテライトスピーカーの配線を引っ張って取り付けました。シートもチャンスがあれば前のキャラバンと同じものに交換したいですし、いずれは同じ色で全塗装もしてリフレッシュしたいですね」
愛車へのひたむきな思いが感じられるからこそ、オーナーが「次に選びたいクルマ」としてどんなモデルに興味を持っているのかが気になった。
「興味のあるクルマはいくつかあるんです。まずはシボレーアストロ。特に、前期型のヘッドライトを備えたモデルがいいですね。シルバーのハイルーフにリアラダー・スペアタイヤ・前後メッキバンパーの仕様が理想的です。父が若い頃に乗っていたポルシェ928も欲しいと思うことがありますね。影響を受ける気はないんですが、やっぱり受けていますよね(笑)。それと、トヨタカムリのハイブリッドも気になっています。旧車が好きですが、現代のクルマにアレルギーがあるわけではないんですよね。友人からは『古いクルマしか乗らないけど、新しいクルマの良さも理解して楽しんでいる柔軟さがあるね』といわれたこともあります」
愛車への強い思いを持ちながらも、柔軟な視点を忘れないオーナー。そんなオーナーとキャラバンとの今後のカーライフを伺った。
「ラルゴ同様、今後も他のクルマとの入れ替えはないです。この2台は不動の存在なので、もし新しいクルマを購入するとすれば増車になるんでしょうね。このキャラバンは日常使いの感覚で乗っていくことも今後変わらないですし、クルマにそれほど興味のない人と同じように、ある程度キレイに乗って、汚れたら洗車するような感覚です。ですが、もし乗れなくなったときは、ナンバーを切って保管しておく可能性もあります。手放すときは、むしろ輸出されることを望みます。日本のどこかで大事にされていない元愛車を見かけるのは辛いので、できるだけ遠くで走っていてほしいんですよ」
オーナーは、決して大げさに愛情を語るわけではないが、愛車へのメンテナンスやモディファイの方向性には深い愛情が感じられる。
嫁ぎ先によっては酷使され、くたくたになりながらその役目を終えた同型のキャラバンも多かったはずだが、この個体は幸せだと思う。決して気取らないが、静かなこだわりが感じられるキャラバン。どう愛し、どう使い込むか。その新しい視点を教えていただいたような気持ちになった取材だった。
(取材・文: 松村透<株式会社キズナノート> / 編集: vehiclenaviMAGAZINE編集部 / 撮影: 古宮こうき)
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