こだわりの愛車でキャンプを楽しんできたオーナーが、たどり着いた最終形態とは?

  • フォルクスワーゲン・タイプ1(カブトムシ、ビートル)

アウトドアがブームとして盛り上がっているここ数年、日本でもキャンピングカーのニーズは大いに高まっている。特にハイエースをベースとした快適車中泊仕様や、手軽さがウリの軽キャンパーなどそのバリエーションも豊富で、週末のキャンプ場は多くのキャンピングカーで賑わっている。

神奈川県相模原市で開催された『レッツチルアウト』に設けられたキャンプサイトでも、さまざまなキャンピングカーに出会うことができた。そんな中でも抜群に目を引く存在だったのが、ヴィンテージカー+ヴィンテージキャンピングトレーラーの組み合わせだ。

『カブトムシ』の愛称で親しまれている1969年式フォルクスワーゲン・TYPEⅠが牽引するのは、ドイツのハイマー社が製造していた1971年式エリバパック。そのデザイン性から世界各国でファンが存在するキャンピングトレーラーとともに、キャンプを楽しんでいるのがオーナーの『n.Ito』さんだ。

  • フォルクスワーゲン・タイプ1(カブトムシ、ビートル)で引くハイマー社のエリバパック

トレーラーを牽引するVW・TYPEⅠは、基本設計を変えることなく1945年から2003年まで製造されたロングセラー。1年ごとに微細な変更が加えられるイヤーモデルということもあり、それぞれの年式にこだわったオーナーも存在するほどだ。
そんなTYPEⅠの中でもn.Itoさんは、1668年、1969年にターゲットを絞って個体を探し求めたという。

「この“アイロンテール”と呼ばれるテールランプは、正規輸入車の中でも68年と69年だけ、ウインカーが赤なんですよ。20才の頃に70年式に乗っていたんですが、やっぱりTYPEⅠに乗るならレッドウインカーのアイロンテールが欲しいなと思って探しました」

こうして見つけ出したのは今から25年ほど前の1998年ごろのこと。69年式正規輸入車のシングルナンバー、さらにフルノーマルという理想の1台に巡り会ったのである。

  • フォルクスワーゲン・タイプ1(カブトムシ、ビートル)オーナーのn.Itoさん

そして、そんなTYPE Iとエリバパックの組み合わせは、n.Itoさんにとって長年かけて辿り着いたVWキャンプの理想形だという。

「子供が小さい頃には同時所有していたキャンパー仕様のTYPEⅡでキャンプをしていた時期もありました。でも、子供が大きくなって家族でキャンプに行く機会も減り、このTYPEⅠかTYPEⅡを手放さなければならなくなったタイミングでTYPEⅠを残したんです。

その後はTYPEⅠとテントというスタイルでキャンプをしていましたが、設営の手間などを考えたらエリバパックが最良かな、という結論に至ったんです」

ファミリーキャンプからソロキャンプへとキャンプスタイルが変化したことに伴い、クルマやキャンプ装備も変化。そしてコンパクトながらも実用性に富んだキャンピングトレーラーをプラスしたことで、n.Itoさんのキャンプの楽しみ方はさらに大きな変化を遂げたというわけだ。

  • フォルクスワーゲン・タイプ1(カブトムシ、ビートル)のエンジンルーム

空冷VWとキャンプという組み合わせは日本でも珍しいものではなく、様々な愛好家が存在しているという。n.Itoさんは25年の歴史を持つ「VWキャンプモービルクラブ」のメンバーのひとりで、今回も空冷VWオーナーのメンバーとグループでイベントに参加したとのこと。

こういったキャンプイベントなどに関東一沿はもちろん京都などのキャンプ場にまで足を運んでいるうえに、日常の足としてもフルに活用され走行距離は20万キロを走破しているというから、そのタフネスさに驚かされる。
もちろん、そういった使い方をする前提で、機関系も万全に整えられているのはいうまでもない。

「エンジンなどの補修部品に関しては今もまったく心配ないのが空冷VWの特徴ですね。さすがに純正ではないのですが、品質の良いリプロダクトパーツが手に入るため、しっかりメンテナンスしていれば長距離でも不安はないですよ」

  • フォルクスワーゲン・タイプ1(カブトムシ、ビートル)の運転席
  • フォルクスワーゲン・タイプ1(カブトムシ、ビートル)のマーク
  • フォルクスワーゲン・タイプ1(カブトムシ、ビートル)のホイール

n.ItoさんのTYPE1は、過去のオーナーさんたちが内外装とも大切にオリジナルの状態をキープしていた車両だったそうで、そこにルーフキャリアなど時代考証に合わせた純正アクセサリーをプラス。ホイールもオリジナルスチールを履き、純正オプションとして用意されていた陶器製のフラワーベースなど当時のムードを大切にしたアレンジを加えたという。

キャンピングトレーラーというと牽引免許の取得などハードルが高いと思われがちだが、エリバパックは普通免許で運用できるのが最大のメリット。もちろん牽引用のヒッチメンバーは必要になるが、手軽に移動ワンルームを持ち運べるのは、空冷VWファンの定番になり得た理由ともいえるだろう。

  • フォルクスワーゲン・タイプ1(カブトムシ、ビートル)のヒッチメンバーを操作するn.Itoさん
  • キャンピングトレーラー ハイマー・エリバパック
  • キャンピングトレーラー ハイマー・エリバパックの車内

日本では少数派といわれるキャンピングトレーラーは、TYPEⅠと時代感をマッチさせる1971年式。空冷VWと組み合わせるスタイルも定番で、当時からTYPEⅡキャンパー同様に世界中のVWファンに浸透している。

ちなみにドイツ人は古くからアウトドア好きが多く、週末になればリゾート地に足を運んで余暇を楽しむお国柄。そのためTYPEⅡをベースにしたウエストファリアやドアモービルなど、コーチビルドのキャンピングカーも数多く存在している。

このエリバパックも、コンパクトな車体ながらもキッチンや収納、さらに大人2人が余裕で寝られるベッドルームまで完備。今の時代にはないポップなデザインながらも、実用性は現行キャンピングカーに引けを取らない。しかもTYPEⅠ同様にノンレストアのオリジナルながら、ダメージがまったくない完璧な状態をキープしているのも見どころといえるだろう。

  • キャンピングトレーラー ハイマー・エリバパックの付属のオーニング
  • キャンプを楽しむn.Itoさん
  • シアーズ製バースデーランタン
  • Bluetoothを組み込んだトランジスタラジオ

コンディションが良いのはキャンピングトレーラー自体だけではなく、付属するオーニングなどもオリジナルの状態をキープ。手軽に組み立てられる今の機構と比べると多少は設営時間がかかるものの、暖かみのある生地の質感や配色などはこれでしか表現することはできないという。

便利さだけではないトータルパッケージでのキャンプスタイルこそ、n.Itoさんがリラックスできる風景を作り出してくれるというわけだ。

クルマやキャンピングトレーラーに合わせて、サイト内を飾るアイテムも年代モノを中心に揃えられる。中でもランタンは生まれ年のシアーズ製バースデーランタンを中心に並べ、夜にはマントルの優しい光が仲間との語らいの場を照らしてくれる。

そんな空間のバックミュージックは、Bluetoothを組み込んだトランジスタラジオから流れる音楽。古さの中にも快適性を追加することで、肩の力を抜いた自分なりの快適キャンプスタイルを確立しているというわけだ。

  • フォルクスワーゲン・タイプ1(カブトムシ、ビートル)とキャンピングトレーラーの定番キャンプスタイル

オシャレなキャンプ、快適なキャンプなど、ブームとともに様々なキャンプスタイルが確立される中、n.Itoさんが自分なりの状況に合わせて辿り着いたTYPEⅠとエリバパックの組み合わせ。

長い時間愛され続ける空冷VWでキャンプを楽しむための正攻法とも言えるスタイルは、空冷VWを愛するn.Itoさんにとって必然の選択だったと言えるだろう。

取材協力:レッツチルアウト

(文:渡辺大輔 / 撮影:中村レオ)

[GAZOO編集部]

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