フォルクスワーゲン・イオスの「トランスフォーム」にゾッコン! 父を思い出す愛車いじり
親の背中を見て育つとはよく言ったもので、子供は毎日の生活の中で親から無意識のうちに影響を受け、様々なことを吸収している。話し方、行動、好きな食べ物など、気付けばだんだんと似てしまう。
今回の取材対象者であるkazumo101さんのカーライフはまさにそれで、クルマをいじっていると、ふと父の存在を身近に感じてしまうそうだ。自分のカーライフは父親なくして語れないと、自信満々に言い放った。
「こっち来てタイヤ交換手伝え!」
仙台の冬は寒く、スタッドレスタイヤを履かなければ到底冬は越せない。冬時期になるとどの家庭でも見かけるタイヤ交換だが、幼稚園児にスパルタ教育している父親はなかなかいなかったという。
ラリーに参戦したり、休日にクルマいじりに勤しんでいたお父様は、今思えば息子と一緒の時を共有したかったのだと思うと話してくれた。
「僕が意外に楽しそうにやるものだから、やってみるか?こうやってやると上手く行くぞ!など、色々教えてくれました」
そんなお父様の愛車は、豪華装備は全く付いていないタクシーみたいなマークIIで、同じ会社で働く部下の方が良いグレードに乗っていたそうだ。3人兄弟だったkazumo101さん一家にとって、クルマにお金をかける余裕は無いのだと子供ながらに分かっていたという。
「親父の面白いところはね、グレードアップを図るために部下からもらったエアコンユニットを取り付けたり、クラウンのドアミラーをもらってきて自作で加工してフェンダーミラーに装着したり、配線を組んで電動ラジオバーがニョキっと自動で出るようにするなど、自分の理想とする個体に近づけていたことなんですよ。」
そういう父の姿を見ていたため、免許を取って愛車を手に入れると、すぐに庭で同じようにいじったそうだ。するとお父様が必ずどこからともなくフラッと来て、こうでもないああでもないと指示するのがお決まりだったいう。
同じように現在の愛車である イオスをいじっていると、あの頃のように、今は亡きお父様の「そうじゃねーよ!」が、たまに聞こえてくるそうだ。
そう話すkazumo101さんは、イオスのことを「女神様」と呼んでいる。というのも、車名の由来はギリシア神話に登場する女神の意味なのと、それくらい自分にとって憧れの存在であり、愛情を注いできたからだと目尻を垂れさせた。
「子育てに終われ1日があっという間に過ぎていた頃、フォルクスワーゲン トゥーランを契約しにディーラーに行ったんです。そしたら、ショールームの照明がシルバーのボディに反射して、一際目立っているイオスに目を惹かれました。近付いてじーっと見ると、斜め後ろからのダイナミックなスタイルが……カッケーーー!と、一目惚れしちゃったんですよね(笑)。」
バイク乗りでもあったkazumo101さんは風を切りながら走るのが好きで、オープンカーにずっと憧れていたそうだ。今は我慢だと子育てがひと段落した15年後、ジャンク扱いの女神様をやっと手に入れたという。
距離は 5.3 万km、ボディカラーはブラック、ボロボロの皮シート、オプションのアルミホイール装着、雨漏り付きと、自身にとっては申し分ない(?)個体で、京都から仙台まで自走し持ち帰って来た。
「対面した時、やっぱり良いカッケェなと思いました。ワッペングリルというフロントの顔、クーペスタイル、なんといってもルーフの開閉時の動きが最高なんですよ。ガシャガシャという音をたてながら複数の工程が一気に動く様は、まるでトランスフォームなんです。そのままロボットに変身するんじゃないか?という感じ」
ニヤニヤしながら開閉のボタンを押すkazumo101さんを見て、中古車ショップの人が忠告したという。
「動くとはいっても、状態は良くないと思います。帰路中に故障すると厄介なので、もうこれくらいにして……、開けてはだめですよ」
なぜ人間はダメだと言われると、開けてしまうのだろうか?浦島太郎もそうだったように、走り始めてしばらくたった愛知県で、ボタンを押してしまったのである。
「トランスフォームがどうしても見たいんですよ。どうしても!」
そう、必死に言い訳をしていた。
雨が降ってきたらどうしようとディーラーに駆け込むと、たまたまイオスについて詳しい人が在中しており、故障の原因を調べてくれたという。するとどうやら、運転席パワーウインドウのレギュレーターが壊れていたようで、機能しなくなっていたのだとか。
そのメカニックが……
「応急処置として強制的にパワーウインドウを上げますが、修理したわけではないので開けてはダメですよ。絶対に。」と念を押すかのように忠告した。
そのやり取りを見ていた若い女子社員が、空いたところを見たことがないと呟いたのだ。
人はなぜ同じ過ちを繰り返してしまうのか……。
「ボタンを押したくなってしまったんですよ。どうしても!」
表向きは全てを可愛らしい女子社員のせいにして。
ちらりメカニックを見ると、だから言ったのにと呆れた顔をしていたという。
その後仙台のディーラーに持って行っていき詳しく調べると、フロントドアのパワーウィンドのエラーに始まり、数カ所エラーが発生してたそうだ。
早速修理に取り掛かりたいというところだったが、販売されてから15年の月日が流れてしまったため部品が無く、結局自分でやることになってしまったと話してくれた。
1番手こずったのは5分割式ルーフシステムの部分で、その工程の多さから複雑な動きが多く、整備書がないためYouTubeを見ながら修理したそうだ。紐を引っ張って動く箇所の紐を調達するために、手芸屋さんに駆け込んだことは初めてだったと笑っていた。
ルーフオープンに関する修理が終わると、エアコンユニットの取り付け、夜になると青く光るメーターに、海外製の9インチのディスプレイに交換し、理想とするイオスに近づけていったという。
「僕のは2007年式の個体なんですけど、2010年に日本以外の国でフロントとリアを変えて、ゴルフ6の内装に変えた個体があったんですよ。シロッコという2ドアのクルマだったんですけど、エアコンの送風口が一緒だったからいけるんじゃないかとエアコンユニットを取り付けたら、見事にピッタリでした。」
ざっくりした予想を立てて、上手くいった時の喜びはひとしおなんだとか。そして、その度にお父様の「そうじゃねーよ!」を思い出すのだという。
「親父がクルマをいじっていたように、自分もそうなっているんです。僕のカーライフは間違いなく親父譲りです。」
昨年、コロナで修学旅行に行けなかったお嬢様を連れて、仙台から江ノ島に旅行に行ったと嬉しそうに話してくれた。オープンにしてサザンオールスターズを聞きながら海沿いを走っていると、1番欲しかった 3.2L 狭角 V6 エンジンを搭載した白いイオスが独特な音を奏でながら隣に並んだという。
ただでさえ乗っている人が少ないクルマに、住み慣れていない土地で会うなんてとお嬢様と顔を見合わせて笑い、優しくて優雅な女神様の走りを楽しんだそうだ。
いつの間にか自分が父となり、隣に家族を乗せて走っていることに不思議な気持ちになることがあるという。こうして時は流れていくのだ、そう感じる度にこれから自分らしくカーライフを楽しんでいきたいと話してくれた。
まだまだ修理する箇所は沢山あるそうだが、純正部品を使いオリジナルを維持しつつ、子供達と風になって走るのが今後の目標だという。
いつも隣りにクルマという存在があることが重要なのは、見るたびに、乗るたびに、そしていじるたびに、トリガーとなっていろいろな“当時”に連れて行ってくれるからだという。クルマは機械ではなく、寄り添ってくれる大事な人と変わりないと朗らかに笑った。
(文:矢田部明子 写真:中村レオ)
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