小さくても頼もしい。マリンスポーツも難なくこなすスズキ ハスラーの実力
磯・浜・堤防・船など、海釣りの楽しみ方は人それぞれ。その中で近年注目を集めているのがSUPフィッシングだ。文字通りSUPに乗って釣りを楽しむスタイル。釣り船と違い、自分がここだと思ったポイントを自由に動けるのが人気の理由だ。
今回お会いしたかずさんも週末は神奈川県の小田原周辺の海でSUPフィッシングを楽しんでいる。住まいは東京の東エリアなので、片道100km弱のドライブだ。
かずさんの現在の愛車は初代スズキ ハスラー。クルマの買い替えを考えていたときにテレビでたくさんCMが流れていて、デザインを気に入って購入したという。
「ディーラーに足を運んだ際、ハスラーにするか先代ジムニーにするかを悩んでいました。セールスの人に話を聞いたら、モデル末期だったのにジムニーは納車までに半年以上かかると言われてしまい、僕が新しいクルマを必要とするタイミングには間に合わないことがわかりました。ジムニーの人気には驚きましたね」
かずさんは小学生の頃に祖父に連れられて釣りを始めるようになった。当時は近所の川でタナゴやヘラブナを狙って遊んでいたという。20代になるとバスフィッシングをスタート。
かずさんが通っていたポイントは細くて未舗装の農道のような道を通っていく。なので、軽自動車で機動性の高いジムニーはアリだと思った。最終的にジムニーを選ばなかったのは納車のタイミングが合わなかったのもあるが、車内が思いのほか狭かったことも二の足を踏んだ理由だったという。
こればかりは仕方ない。ジムニーは悪路走破性を優先したFRレイアウトの4WDのためエンジンルームが大きくなり、その分室内空間は狭くなってしまう。
対する初代ハスラーは広さに定評のあった5代目ワゴンRと同等の室内空間が与えられた軽クロスオーバー。実車を見て「これなら軽自動車でも釣り道具をたくさん積める」と感じたそうだ。
「もうひとつ気に入ったのは、濡れた荷物を積んでも水気を簡単に拭き取れる荷室フロアでした。釣りでは道具が濡れるのはもちろん、急な雨でウェアなどが濡れてしまうこともあるので、それらを気にせずクルマに放り込めるのは楽なんですよね」
かずさんがSUPフィッシングを始めたのはハスラーを手に入れて3年ほど経った2019年。きっかけは同僚からの誘いだった。
実はこの頃、かずさんは釣りに対して複雑な思いを抱いていたという。バスフィッシングがブームになったことでさまざまな人が楽しむようになった。するとマナーを守らず釣り場を荒らしてしまったり、地元の人とトラブルを起こしたりする釣り人も出てきた。それが原因で、かずさんが訪れていた場所がどんどん釣りが禁止になっていった。
「本来は自然の中で気持ちよく魚との駆け引きを楽しむ遊びなのに、周りの人を嫌な気分にさせてしまったり、自分も嫌な思いをしたり……。自分は何のために釣りをやっているのだろうと考えたんです。そんな時に同僚が『だったら海でやろう。気持ちいいよ』と誘ってくれました。そして実際にやってみたら、あまりの気持ちよさにすっかり海の虜になったんです」
SUPフィッシングのもう一つの魅力が、仲間の存在だ。岸辺、あるいは閉鎖された湖でボートからルアーを投げるバスフィッシングと違い、SUPフィッシングはオールを漕いで海に出ていく。海では波はもちろん風の影響をもろに受ける。少しでも強い風が陸から海に向かって吹いていると陸に戻ってこられなくなる可能性もある、非常に危険なスポーツだ。
そのためSUPフィッシングでは数人のチームで海に出るのが鉄則。バスフィッシングは1人で楽しむことが多かったが、今は仲間とLINEグループでさまざまな話をしながら海に出る予定を決めている。これまでなかったコミュニケーションがとても楽しいと話す。
「釣り場へは近所に住む友人と2人で行くこともあります。持って行く道具はインフレータブル(空気注入式)のSUP、オール、釣り道具、クーラーボックス、真水を入れる20Lのポリタンク、そして着替え。これが2セットです。かなりの荷物量になりますが、ハスラーはリアシートを格納すると広大なスペースが現れるので、荷物が積めなくて困ったことはありません」
SUPで海に出るのは日の出前。夏は4時30分には日の出になるので、それより前に準備を終えなくてはならない。必然的にかずさんと友人が自宅を出発するのは夜中の2時頃になる。
「ハスラーは2人分の荷物が積めて便利ですが、小さなクルマなので荷室は荷物でいっぱいになります。そのため現地に早く到着してもシートを倒して仮眠ができなくて。だからいつも時計を見ながらなるべくちょうどいい時間に到着するよう計算して家を出ています。それでも早く着いてしまった時はシートバックを倒さずに目をつぶっていますが、短い時間なのでなんとかなっています(笑)」
かずさんの奥さまはマリンスポーツにはまったく興味がなく、一緒に海に行くことはない。SUPフィッシングはかずさんにとって家族のことを気にせず仲間との時間を存分に楽しめるものになっている。
「妻はほとんど運転しないのでハスラーの乗り心地などを聞いたことはありません。でも助手席に座ると気づけば寝ていることが多いので、クルマでの移動が心地いいのかなと感じています」
かずさんは社会人になってもしばらくは自分のクルマを持たない生活をしていた。クルマを所有するきっかけは、地方への赴任。クルマがないと生活に支障をきたすからと、ホンダのコンパクトミニバンであるストリームを購入した。その後東京に戻り、再びクルマがなくても困らない暮らしになった。しかしかずさんはクルマを手放す気にはならなかったという。
ちょうどその頃、ストリームが修理に多額の費用がかかる壊れ方をしたため、ホンダの軽自動車である4代目ライフに乗り替えた。バスフィッシングにはライフで通っていたが、高速道路ではふらつきがあったり、室内空間が広くなかったりして、不便を感じることもあった。でも「軽自動車だし、こんなものか」と考えていたそうだ。
ところがハスラーに乗って軽自動車の印象がガラリと変わったそうだ。室内空間の広さに驚いたのはもちろん、高速道路を長距離走っても安定感があるため疲労が全然違う。ご存じの方も多いと思うが、スズキは5代目ワゴンRでプラットフォームを刷新。室内空間の広さや質感、走りが飛躍的に向上した。初代ハスラーもこのプラットフォームを採用している。
「ハスラーで僕が気に入っている機能はシートヒーターです。SUPフィッシングは一年中やっているので冬は海から上がると身体が冷え切っています。シートヒーターで身体を温めると生き返りますよ。ハスラーの年式だと普通車でもそこまで普及していなかったと思うので、軽自動車なのについているのは嬉しいですね」
東京に戻り、ストリームからライフに乗り替えたタイミングで、かずさんには再びマイカーを持たない暮らしに戻るという選択肢もあっただろう。それでも交通の面で困ることはないし、職場にはクルマを所有している人はほとんどいないそうだ。かずさんがクルマを手放さなかったのは、好きな時に釣りを楽しむ時間を失いたくなかったからだ。
「人間にはいろんなタイプがいると思います。僕は仕事とプライベートを完全に切り離さないとダメなタイプ。釣りをしている時は仕事のことは一切考えないし、仕事用のスマホも電源を切っています。自由に釣りを楽しんで心を空っぽにできる時間があるからこそ、仕事にも真剣に取り組める。それを叶えてくれるのがクルマだと感じていたので、手放すという選択肢はありませんでした」
ハスラーのことは気に入っているのでこれからも乗り続けるつもりでいる。でもこれまでずっと小さなクルマに乗ってきたから、次は大きなSUVを選びたいと思うこともある。そんなかずさんは、この秋に生活環境が大きく変わる決断をした。東京からSUPフィッシングで訪れている小田原に移住することにしたのだ。
「東京での生活に疲れたと言ったら大げさですが、自然が豊かで海が近い場所で暮らしたいと思うようになって。小田原は釣りで通っているので土地勘もありますし、仲間もいるので心強いなと思ったんです」
小田原で暮らし始めるとクルマの使い方も大きく変わるだろう。奥様が運転する機会も増えるだろう。環境が変わっても、ハスラーはかずさんのオンとオフをつなぐハブであり続けるはずだ。
(取材・文/高橋 満<BRIDGE MAN> 撮影/柳田由人 編集/vehiclenaviMAGAZINE編集部)
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