「エンジン&MT至上主義」だったカメラマンを変えたEV、スバル ソルテラ

  • スバル・ソルテラとレヴォーグと雪岡直樹カメラマン

モータースポーツを中心に、さまざまな撮影を日々行っているフォトグラファー、雪岡直樹さん。そのドライバー人生初の愛車こそ「日産 パルサー」だったが、いつの頃からか、スバル車ばかりを選ぶようになった。それも比較的“濃い口”のスバル車ばかりを。

「スバル車はいろいろ買いましたねぇ。BPレガシィ(4代目スバル レガシィ ツーリングワゴン)のtuned by STIに始まり、BRレガシィ(5代目スバル レガシィ ツーリングワゴン)、初代レヴォーグの2.0GTアイサイト、そして3Lの水平対向6気筒エンジンを搭載したBPレガシィ……とかね」

雪岡さんは「いろいろ買いました」と過去形で言うが、そのうちの初代レヴォーグと3L水平対向6気筒のレガシィは、実は今も所有し続けている。

だが、そんな「エンジン車で、なおかつマニュアルトランスミッションで」というスバル車をこよなく愛してきた雪岡さんが今、メインの機材車として使っているのは、スバルのピュアEVである「ソルテラ」だ。

  • スバル・ソルテラ
  • スバル・ソルテラのラゲッジルーム

「今から2年ぐらい前に『スバルからEVが出るらしい』と聞いて、『ふーん。ならばスバルのEVってのがどんなモンかを知るために、いちおう乗ってみるか』ぐらいの気持ちで購入したんです。いわゆる補助金も出ましたからね」

とりたててEVに強い興味と関心があったわけではない雪岡さんだったが、「とりあえず自分のお金でEVを所有してみる」という経験は、カメラマンと並行して行っている自動車ライター稼業のほうで、何らかの糧になるだろうと考えたのだ。

だが2023年6月にソルテラET-HSが納車されると、これが意外と雪岡さんの日常にハマった。

「もちろんEVは急速充電にかかる時間の点で同行者に迷惑をかけてしまうこともあるため、撮影現場まで編集者やライターさんを乗せて行くケースであれば、ソルテラではなくレガシィあるいはレヴォーグを選ぶことも多いのが実情です。でも、もしも車に乗るのは自分1人だけで、なおかつ片道300kmか400km圏内までの現場であったなら――間違いなくソルテラで向かいますね。だって、エンジン車とは身体にかかる負担がまったく違いますから」

エンジン車だけに乗っていたときは気づかなかったし、気にもしなかったが、内燃機関特有の「排気音」や「振動」は知らず知らずのうちに、仕事柄長距離を走るドライバーである雪岡さんの身体と心に負担をかけていた。いや正確に言うならば、EVに替えてみたことで「あ、自分の身体と心には、実はそれなりの負担がかかっていたんだな」と気づいた。それぐらい、振動がなく、当然ながら排気音もいっさい聴こえてこないピュアEVによる移動は快適だった。

  • スバル・ソルテラの運転席
  • スバル・ソルテラの開放的な前席

「いや本当にそうなんですよ。先日もモントレー(群馬県内で行われる全日本ラリー選手権)の撮影にソルテラで行ったのですが、片道約2時間、エンジンによる振動や音がまったくない環境下でお気に入りの音楽を聴きながら快適に走るというのは、本当に素敵なひと時でした。そして高速道路を降りた後は、これまた快適にワインディング走行を楽しむこともできますしね。

もちろん『エンジン車ならではの快感や面白さ』を否定するつもりはありませんし、否定するどころか、今も3L水平対向6気筒自然吸気と、同じく水平対向の4気筒ターボという2種類のガソリンエンジンが大好きな私です。でも――『快適に、そして身体に負担をかけずに移動する』という部分においては、エンジン車は、正直EVに太刀打ちできないとも思っています」

  • スバル・ソルテラのトップマウントメーター
  • スバル・ソルテラのヘッドライトとフェンダー
  • スバル・ソルテラのリア
  • スバル・ソルテラのエンブレム

筆者もスバル ソルテラに乗って東京から群馬県まで行った経験があるが、たしかにあれはひたすら快適で、ひたすら安楽としか言いようのない何かだった。そこは、大いに認める。

だが同時に、筆者が群馬県に到着したとき、運転席前方のディスプレイに表示されたソルテラのバッテリー残量は「26%」で、航続可能距離の予測値は「93km」であった。当然ながらどこかで充電を行わない限り、東京へは戻れない。そのため筆者は、当然ながら充電を行った。

つまりは「時間」の話である。

雪岡さんによれば――そして筆者にもよれば――スバル ソルテラという、排気音もエンジンの振動も発生しないピュアEVによる長距離高速移動はきわめて快適かつ安楽であり、身体への負担も少ない。そしてワインディング路では、思いのほかゴキゲンなドライビングプレジャーを堪能することもできる。

だが「それ」を堪能するためには、どうしたって途中で30分ほどの時間を使って急速充電を行わなければならないことも多い。向かう場所までの距離によっては、約30分×2回または3回分の時間、どこかで足止めをくらうことにもなる。ガソリンあるいは軽油であれば、1回の給油に3分もかからないというのに――。

「まぁそこは考え方次第じゃないですか?」

雪岡さんは、静かな笑顔でそう語る。

  • スバル・ソルテラと雪岡直樹カメラマン

「私も、一緒に乗っていく人が『30分も時間を無駄にするなんてとんでもない!』というタイプの人であれば、最初からソルテラは出動させません。エンジン車で行きます。でも、なかには――あるいは場合によっては――『30分ぐらいどうってことないですよ。むしろのんびりできていいじゃないですか』という人もいらっしゃるし、自分も、どちらかと言えばそのタイプです。少しぐらい余計な時間がかかったとしてもあまり気にしませんし、気にしなければならない状況であったなら、『まぁ30分早く出発すればいいだけだ』とも思いますしね。

バッテリーの性能と充電に関する技術とインフラが、今後どう進化していくのかはわかりません。しかし『300kmか400km走るたびに30分ほど足を止めなくてはならない』という現在のEVの状況が、私は決して嫌いではないんです。それは慌ただしすぎる日常からの脱出である――と言うとやや大げさですが(笑)、まぁ『そんなに急いでも仕方ないんだから、のんびり行きましょうよ!』とは思っています。もちろん状況や事情によりけりではありますが、長い人生の中で、ときおり30分間の空白が生まれるのって、決して悪いことではないと思うんですよね」

たしかにそのとおりなのかもしれない。売れっ子芸能人や一国の総理大臣などと違い、多少遅刻したところで世の中に大した迷惑をかけるわけでもないくせに、無駄に焦り、無駄にイライラしながら運転している自分の手を、私はじっと見た。

(文=伊達軍曹/撮影=阿部昌也/編集=vehiclenaviMAGAZINE編集部)

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