「大切に乗り続けて、いつかは息子へ」ドリキン土屋仕様のハチロク・AE86は家族の宝物
5年前に手に入れた1986年の式トヨタ・スプリンタートレノ(AE86)を“ドリキン”土屋圭市仕様にカスタムしたオーナーさん。家族みんなの宝物だという愛車は、いずれ息子さんへとバトンタッチするのが目標だという。
運転支援システムや次世代エネルギーなど、先進技術を取り入れた最新のクルマが性能を高めていくいっぽうで、そういった便利な機能を持たない昭和〜平成車、特にスポーツカーの価値が驚くほど高まっているのはご存知の通り。中古市場では新車販売時の価格を超えるものも珍しくなく、コンディションによってはプレミアム価格がつき、もはや高嶺の花となりつつある。
そんな昭和名車の中でもひときわ注目されているのが、カローラレビン&スプリンタートレノ最後のFRモデル『AE86=ハチロク』だ。
そんなハチロクに魅せられ、1986年式トヨタ・スプリンタートレノ(AE86)に家族で愛情を注いでいるのがかっつんさんである。
「小さい頃からクルマ好きで、中学生の頃はブームもあってF1にドハマりしていたんです。それから免許をとった頃にイニシャルDを読んでいたのは世代的にも王道だと思いますよ。もちろん免許をとったらすぐにクルマに乗りたかったので、初めての愛車はトヨタ・スープラ(GA70)を友人から10万円くらいで譲ってもらいました」
1970年代生まれのクルマ好きなら多くの人が共感するであろうこういった流行やカーライフをとりまく環境は、かっつんさんをさらにクルマ好きに導いていったのだ。
ちなみに、ハチロクはマンガの主人公が乗ったことで90年代後半あたりから再び評価されはじめたスポーツクーペ。カローラレビンとスプリンタートレノの2モデル、さらにボディスタイルもノッチバックとハッチバックの2タイプが用意され、搭載エンジンは4A-GEを採用。このエンジンはチューニング志向を満たしてくれる素材として愛され、さらに単純な構造の車体や足まわりのバランスの良さから、N1レースやラリーなど様々な競技にも使われた。この素材としてのポテンシャルの高さも、ハチロクが長く愛される理由といえるだろう。
「このハチロクは5年前に購入したんですが、徐々に自分好みのカスタマイズを行い、エンジンは2年前にアップデートしたところです。スタイリングもエンジン周りも完璧に満足の仕様に仕上がっているので、これからはこの状態を長くキープできるように、メンテナンスを中心に行なって乗り続けるのが目標ですね」
これから一生乗り続けていこうと考えた結果、エンジンは同じ4A-GEでも高年式のAE111に搭載された通称“黒ヘッド”に換装。オーバーホールと同時にピストンをφ82ミリに拡大しボアアップ。また、点火系もダイレクトイグニッション化して旧車の不安感を払拭しているのだ。
スタリイングの中でも目を引くのはキャンディグリーンでペイントされたカーボンボンネット。このコーディネートはドリキンこと、土屋圭市氏が所有するハチロクと同様のワンポイントカスタムだ。
「ハチロクが好きになったキッカケでもある土屋さんのマシンに近づけるのは、このクルマを手にいれた時から考えていたことです。そのほかのエアロパーツやホイールなんかも土屋さんのクルマにならった仕上げが特徴ですね」
このハチロクは京都の専門店まで直接見に行き、コンディションに惚れ抜いて購入したというから、エンジンやカスタマイズだけでなく、ボディ自体の美しさも特筆すべきポイントだ。
「グレードや装備ではなく3ドアのトレノでコンディションを重視したため、このハチロクはパワステもパワーウインドーもないGT-Vなんです。今のクルマと比べるとかなり簡素な装備ですけど、慣れてしまえばあまり気にならないかな。逆に壊れる部分が減っているから、余分なコストがかからないのも長く乗り続けたいと思える理由ですね」
旧車所有で最も気になる問題が修理。パーツ製廃などによって修理困難となる場合もあるだけに、よりシンプルな構造のGT-Vは、かっつんさんにとってプラス要素だったともいえるかもしれない。
そんな彼の目標は、このハチロクに生涯乗り続けていくこと。そしてその延長線上には現在2才の息子・健斗くんに受け継いでもらいたいという思いもある。幸いにして健斗くんもハチロクは大のお気に入り。大切にしているオモチャもハチロクで、パパの愛車もハチロクであることをしっかりと認識しているだけに、このまま大切に乗り続けていけば、2つの目標はクリアできそうだ。
ファミリーカーとしても活躍しているだけに、内装もしっかりと残されているのは重要なポイント。というのも、ハチロクの多くは底値時代にチューニングカーとして使い倒されていたため、サーキット走行などでは不要な内装パネルが取り外され、そのまま捨てられてしまっているものが多いのだという。現在ではこういったパーツはお宝となっているだけに、内装がフルで残されているかっつんさんのハチロクは貴重な1台ともいえるのだ。
グローブボックスにはイベントに参加した際に、土屋圭市氏からもらった直筆サインが書かれている。その際にこのハチロクを見て土屋氏が「俺のクルマがココにもう1台いるよ」とコメントしたことは、かっつんさんにとって最大の賛辞だったという。まさにパーフェクトな土屋圭市仕様と胸を張って言える仕上がりなのである。
ボディの美しさだけでなく、エンジンルームも細部まで気を使った美しい仕上がり。特にヒューズボックスなどは、カーボンプレートでショーアップされている。こういったアイテムやキーチェーンなどはハチロク仲間がワンオフで作ってくれたアイテムでバージョンアップいるという。
後部座席にはしっかりとチャイルドシートを搭載し、健斗くんの指定席もしっかりと確保されている。そのためファミリーカーとして家族でのドライブなど思い出作りにもひと役買っているのだ。
「結婚する前の付き合っていた頃にFD2からハチロクに乗り換えたんですよ。でも信号で止まるたびに周りの人から見られて、正直にいうとちょっと恥ずかしかったですね」というのは奥さんの桜子さん。しかし、かっつんさんが大切にし、さらに健斗くんもお気に入りのハチロクだけに、もはやなくてはならない家族全員の宝物になっているのだとか。
トヨタ・スープラ(GA70)からはじまったかっつんさんのカーライフは、その後ホンダ・プレリュード(BB1)でホンダ車に移行。
「VTEC車に乗ってみたらエンジンが軽く回るのに感動して。その後はシビックタイプR(EK9)に15年くらい乗って、そのまま新しいシビックタイプR(FD2)に乗り換えたんです。でもFD2は電子制御が多くて、なんだか操作している気分が味わえなかった。そんな時に思い出したのがハチロクだったんですよ」
軽量コンパクトなボディに加えアナログな車体は、ドライバーのウデ次第でどんな走りにも対応してくれる。そんな操作感がダイレクトに楽しめるハチロクは、やはりクルマ好きがドライビングを楽しむためのマシン。そういった意味でもハチロクは、クルマ好きの心に残る名車といえるのだ。
家族と宝物のハチロクが揃っている記念として参加していただいたという今回の取材会。
しかも、そんな思い出に加えてこの日の午前中には“新たな家族が増える”という嬉しい報告もあったというかっつんさん。健斗くんの指定席に加えチャイルドシートをもう1脚追加して、家族みんなでこのハチロクとともに思い出を紡いでいく新たな楽しみが増えたというわけだ。
- 取材協力:
- カンセキスタジアムとちぎ 栃木県宇都宮市西川田二丁目1-1
栃木県フィルムコミッション
(⽂: 渡辺大輔 撮影: 中村レオ 編集:GAZOO編集部)
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