ほかのクルマにはない“熱”がある! 「トヨタ・カローラレビン/スプリンタートレノ」を振り返る・・・懐かしの名車をプレイバック
FRスポーツの王道として、熱狂的な人気を誇る“ハチロク”ことAE86型「トヨタ・カローラレビン/スプリンタートレノ」。このクルマの、ほかには代えがたい魅力とは? 4台もハチロクを乗り継いできた、モータージャーナリストの山田弘樹氏が語る。
実はハチロクが嫌いだった?
ハチロクの名で親しまれる、AE86型トヨタ・カローラレビン/スプリンタートレノが登場したのは、1983年のこと。好景気を背にスポーツカーのハイテク化、ハイパワー化が進む一方で、小型車ではスポーティーなモデルでもFF車が普通になりつつあったころだ。そんな時期に誕生したハチロクは、若者たちが走りを楽しめる手ごろなFRスポーツとして人気を博した……ようだけれど、筆者が実際にハチロクに触れるようになったのは、このクルマが絶版になった、もっとずっと後のことだった。
筆者が初めてハチロクを手に入れたのは、たしか1995年。そのころは「ポルシェ911」がタイプ993になったり、「日産スカイラインGT-R」がR33型にスイッチしたりした時期で、バブル経済がはじけたとはいいながらも、まだまだ各社が頑張ってスポーツカーを販売していた。
ということで、当時ハチロクなんかに乗ってるのは、お金のない若者。もちろん筆者も、そのうちのひとりだった。
しかも筆者は、それまでどちらかというとハチロクが嫌いだった。なにせ最終型でも8年落ちのクルマで、いかにもビンボーくさい。ボコボコになったクルマを適当に直して、格安でオールペンした鬼キャン仕様のドリ車なんてのもゴロゴロしてたから、ものすごくイメージが悪かった。
じゃあなんで、ハチロクを選んだのか? 答えはシンプルで、ものすごくお金がなかったからだ。運転がうまくなって、将来はGT-Rみたいなスポーツカーを思いどおりに振り回せるようになりたかった。だから、選ぶなら絶対FR! と、心に決めていたのだ。
ちなみに、当時のハチロクはピンキリで、先輩から10万円とか20万円とかで買うのが王道だった。譲ってもらうと、使い古したいらないパーツまで、ごっそり付いてきた。程度がいいものだと「30万円かな」なんて言われて「高いなぁ!」と文句を付けたものだ。
乗ることで180度変わったイメージ
そんなこんなで筆者もついに、バイトで貯金したお金を全部つぎ込んで前期型のトレノを手に入れた。当時の人気は3ドアのレビンだったが、筆者のは2ドアで、しかもリアがドラムブレーキの「GT」という一番残念なパターンだ。おまけに価格は43万円もしたが、初心者丸出しの筆者は個人売買のオーナーの圧に負けて、それを買うことになってしまった。
オーナーに「ハチロクレビンってかっこいいですね」とお世辞を言ったら、「スプリンタートレノです」と言われて沈黙したのは苦い思い出。スプリンターってナニ? ヘッドランプがパカパカするのはトレノ? 筆者は「ハチロクレビン」がクルマの名前だと思っていた。当時は圧倒的にレビンが有名だったのだ。
だが、そこからのハチロク・ライフは、最高だった。カッコ悪いはずの“2ドアトレノ”は、筆者のハチロク像を180度ひっくり返した。
「GT」はパワステがなかったから、後付けで小径のナルディが付いたハンドルが重たい。足まわりも変わっていたはずで、デコボコ道だとバンバン跳ねる。TRDの機械式LSDも付いていたから、曲がる度にガキガキ音がして、ビギナーにはめっちゃスパルタンだった。
しかしそれが、硬派でよかった。おおぉ、モーレツ! なんだちっともヤン車じゃないぞ!? エンジンはうなる割に遅いし、なんだか曲がりにくい。それでもスピードが乗るとえたいの知れない一体感が出てきて、アドレナリンがぶわっと湧き上がる。今まで甘ちゃんだった自分が、一皮むけたような気がしたのだ。
ガソリンはレギュラーだし、タイヤは13インチだから、小銭が続く限り走り回った。友達の走行会に行けば、いらなくなったタイヤをもらって、広いトランクに喜々として詰め込んだ。自分は決して運転がうまくはなかったけど、ハチロクに乗っているとなんか誇らしかった。ビンボーでも、下手くそでも、プライドが持てる感じがしたんだ。
“いいスポーツカー”ならほかにもあるけど……
筆者より少し上の世代にとって、AE86カローラレビン/スプリンタートレノは、衝撃的なクルマだったという。それまでの「2T-G」と比べて「4A-G」は断然パワフルで吹け上がりが鋭く、「ディーラーで試乗してそのまま購入した」なんて話も聞いたことがある。そしてこの世代がいま、昔を懐かしんでもう一度ハチロクに乗り直していたりする。
一方、筆者よりも若い世代にとってのハチロクは、“イニD”のイメージだろう。藤原豆腐店は見事なフランチャイズ化を果たしたと思う。
翻って筆者はというと、“ぼろハチ”世代だ。エンジンならホンダの「V-TEC」にはかなわなかったし、FRなら「日産シルビア」のほうがドリフトしやすかった。それでもビンボーだからハチロクに乗っていたら、どんどんそれが楽しくなって、いまだにずーっと乗り続けている。
当時は、練習用マシンとして壊しては乗り換えるという「お代わり」グルマだったけれど、いまや壊しても壊しても、さびても朽ちても直して乗り続けている仲間は多い。かくいう筆者も初代トレノを手放したあと、乗り換えを続けて今の赤い“パンダトレノ”が4台目だ。
そんな、ぼろハチ世代から見たハチロクの一番の魅力は、やっぱり“熱く”なれることだと思う。ND世代の「マツダ・ロードスター」がこの度大幅な改良を受けて、恐ろしくいいクルマになった。でもハチロクには、そういう洗練では得られないなにかがある。むしろ洗練すると、それはなくなってしまう気がする。進化した「トヨタGRヤリス」も、つくり手の思いがほとばしる極熱なハッチだが、ちょっと高い(笑)。そう、ハチロクになるには安さが重要なのだ。
そういう意味で言うと、いま現存するハチロクは、もう昔のハチロクじゃない。相変わらず走らせれば熱いけれど、余計なプレミアムが付いたクルマになってしまった。
本当のハチロクは、ビンボーだけどクルマが好きで仕方がない若者たちが乗るクルマだ。先代にあたる「トヨタ86」の初期型がその最右翼だけれど、本当は、もう少し小さなハッチバックの安価なFR車が欲しい。そう、KP61「スターレット」の現代版のような。
(文=山田弘樹)
トヨタ・カローラレビン/スプリンタートレノ(1983年~1987年)解説
トヨタの量販車種である「カローラ/スプリンター」シリーズのスポーツモデル。セダンやリフトバックはこの5世代目からFF化されたが、2ドアクーペ/3ドアハッチバックは運転の楽しさを重視してFRの駆動レイアウトを継承。それまでは高性能なDOHCエンジン車を指すサブネームだった「レビン/トレノ」を、クーペ系のモデル全体を指す名称とし、代わってDOHCエンジン車には「GT」のバッジが与えられた。
姉妹車であるカローラレビン/スプリンタートレノの違いはフロントマスクにあり、前者には固定式ヘッドランプを、後者にはリトラクタブルヘッドランプを採用。いずれのモデルにも2ドアクーペ/3ドアハッチバックの両方のボディータイプが用意された。
エンジンは最高出力130PSの1.6リッター直4 DOHC「レーザー4A-GTU」と、最高出力85PSの1.5リッター直4 SOHC「レーザー3A-U」の2種類で、トランスミッションには5段MTと4段ATを設定。サスペンションは前がマクファーソンストラット式、後ろがラテラルロッド付きの4リンク式の組み合わせだ。スポーツカーのハイテク化、ハイパワー化が推し進められたバブル期にあって非常にシンプルなクルマだったが、それゆえに運転を学び、楽しむモデルとして好適であり、今も「ハチロク」の愛称とともに人気を博している。
トヨタ・カローラレビン/スプリンタートレノ 諸元
レビン3ドアGTアペックス
乗車定員:5人
重量:940kg
全長:4180mm
全幅:1625mm
全高:1335mm
ホイールベース:2,400mm
エンジン型式:4A-GEU
エンジン種類:直列4気筒
排気量:1587cc
最高出力:130PS/6600rpm
最大トルク:15.2kgf·m/5200rpm
サスペンション形式: (前)マクファーソンストラット(後)5リンク
(GAZOO編集部)
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