キャロル360などを所有し「クルマミュージアムを作りたい!」 旧車を愛しその文化を伝承させていくという想い

  • GAZOO愛車取材会の会場である稲佐山公園で取材したカローラクーペとマツダ・キャロル360

    カローラクーペとマツダ・キャロル360

『根っからのクルマ好き』、そんな言葉を体現しているのが、ここに登場するオーナーさんである。
高校卒業と同時に免許を取り、初めての愛車としてホンダ・N360を所有。節約のために、整備や車検などをできるだけ自らの手で行ない、次第に周囲の友人や知人からの相談も増えていくなど、気が付けば趣味を超越したカーマニアとなっていたという。
そんな中でも、特に好きだったのがホンダ車だったという。ちなみに、今回の取材会に訪れた時のファッションは、ウェアや靴、時計そして下着に至るまで、ホンダのアイテムでコーディネイトしていたほどだ。
「色々なクルマを扱っていくうち、ホンダ車の面白さに魅了されました。CVCCエンジンの開発をはじめ、ホンダ・Sと呼ばれたホンダスポーツの開発、そして本田宗一郎氏の経営理念に感銘を受けていたんですね。大袈裟かもしれませんが、自身の苗字を『本田』に改名したいくらいホンダが大好きなんです(笑)」

まず、S600に興味を持ったキッカケは、レーシングドライバー、浮谷東次郎氏の存在だった。
「S600を改造し『カラス』の愛称で呼ばれたマシンでレースに出場してスター選手になるなど、浮谷東次郎氏の短い生涯を知ってからS600がすごく欲しくなったんです」

今から30年ほど前の話。知人の紹介で佐賀に1965年式のS600(AS285)を所有している人物がいると聞き、オーナーと話をして譲っていただく運びとなった。しかし、当初はエンジンの調子が良くなく、佐賀から長崎まで“どうにか帰ってこられた”というほど要修理レベルの車体だったという。その後、修理や整備は書籍を見たり、詳しい人に聞いたりして、自身ができる範囲で行なっていたそうだ。そうしてボディはもちろん、エンジンルームまでピカピカに仕上がったS600。その出来栄えは、旧車イベントに参加する度に、そのほとんどで受賞ができたそうだ。
「手間とお金はどのクルマよりも掛かりましたね~!」

「佐賀の祐徳稲荷神社で毎年開催されている『なつかしCARにばる』には、2013年から欠かさず参加しています」と、祐徳稲荷神社の巫女さんとの記念ショットも良い思い出となっている。そんなお気に入りのS600だが、現在はブレーキ系とミッションのオイル漏れ等の修理のためドック入り。完成を待つばかりだという。

実は当初、この取材会には車両はホンダ・S600で参加予定だったのだが、残念ながら修理から上がってくるのが間に合わず。今回はそのピンチヒッターとして、マツダキャロル360と、息子さんの協力も仰いでカローラクーペも登場するという2台体制での参加となった。

「今から5~6年前だったでしょうか。キャロル360を購入する前は、通称54Bと呼ばれたニッサン・スカイライン2000GT-Bを所有していたんです。しかし、54Bはお世辞にも程度が良いとは言えませんでした。そんなこともあって、レストアをしようと考えていたんですが、部品が揃わずに悩んでいたんです。ちょうどその頃、旧車で繋がった愛知県の方から、『私のキャロル360と、54Bを交換しませんか?』というお話が舞い込んできたんです。キャロル360は当時、軽自動車の中でも高級車的存在だったので憧れはありましたし、小さいクルマが好きだったこともあって、交換させて頂くことになりました」

ところが、キャロル360を所有してみたもののパワー不足を感じたため、まずはエンジンのオーバーホールを検討。当初は部品が揃わずに悩んでいたものの、鹿児島の旧車仲間よりキャロル360のオーナーの間では有名な京都在住の方を紹介してもらい、部品を譲ってもらえることになった。
「無事に部品を調達することができ、作業は旧車仲間に紹介してもらった佐世保のショップに依頼して、エンジンオーバーホールを終えることができました」

オーバーホールによってエンジンはすこぶる快調になったが、50年以上前のクルマゆえ、パーツが無いことへの悩みは尽きることがなかったという。これらを解決すべく、他車種のパーツ流用を試行錯誤していたオーナー。
その甲斐があって、エアクリーナーのフィルターはカワサキの二輪車用がピッタリだったり、エンジンオイルのフィルターにはBMWミニ用が使えたりといった、流用可能な互換パーツを探し当てていく。それ以外にも、ミーティングなどの旧車イベントに参加した際には、仲間の連絡先をアドレス帳にメモ。困った時はこのメモ帳の人脈を辿ってパーツを探しているそうだ。

「360㏄なのにも関わらず水冷直列4気筒という贅沢な仕様で、リヤエンジンのリヤ駆動というRRレイアウトを採用しているんです。他にもキャロルには面白い機構がいっぱいあるんですよ」

と、まず説明してくれたのが赤い旗。停止表示板の役割を担い、サイドウィンドウに引っ掛けて使用するというもの。そして、エンジンルーム左端には純正ジャッキが搭載されていて、写真のようにボディサイドに設けられたジャッキ専用のホールに差し込み、レバーを回転させて車体を上げるという仕組みだ。

エンジンルームのサイドにはラジエターが配置されている。エンジン駆動の冷却ファンによってフレッシュエアを引き込んで冷やすという仕組みは通常と同じだが、側面から引き込むという配置はちょっと珍しい。そして、オーナーが引っ張っているワイヤーは、その風量を調整するべく、ラジエター面をシェードしているロールカーテンを開閉するもの。全閉から2段階の開閉調整ができ、冬場は全閉にしてラジエターへの冷気を遮断。これによって水温が短時間で上がり、エンジンが早く暖まるとともに、ヒーターの稼働効率も高まるという。

「驚いたのはキャロル360の後期型だけ、エンジンとミッションのオイルタンクが一緒なんです。給油口はひとつで排油口は別々で2つあるんですが、オイルが共用なので、同時にオイルを抜いて交換しないと調子が悪くなるのです。こんな特殊な構造も、部品を譲ってもらっている、前出の京都の方から教えてもらって助かりました」
使用しているオイルは、カローラクーペと兼用できるトヨタ純正のエンジンオイル。ミッションオイルも共用なので、1回のオイル交換で約6リットル入るそうだ。

そしてカローラクーペだが、こちらは正に手元に来るべくして来た1台だという。写真を見ても分かるように、車庫保管されていたので非常に程度が良い状態。走行は7万キロほどと少なく、過去の整備記録もすべて残されていたそうだ。

「カローラクーペは、4年ほど前に天国に行った叔父の形見です。叔父は新車から最期までの47年間、ずっとこのカローラクーペを大切に所有していました。マニアから譲ってほしいという話もあったそうですが、叔父は絶対に売らなかったそうです。『クルマは大事に乗り継いでくれ』という言葉を残して旅立ちましたが、晩年、叔父は独り身だったため親族で相続することになりました。しかし、親族全員が『叔父のクルマはいらない』とのこと。そこで、クルマ好きの私が受け継ぐことになったんです。ところが、普通自動車は遺産扱いになるため、親族全員の捺印が必要。叔父の親族は総勢15組もいたもんですから、印鑑を集めるだけでもそれはそれは大変でした。クルマ1台を相続するだけで、こんなに面倒なものかと痛感しました」

「叔父は物を大事にする人でした。このクルマも相当大切に乗ってきたのだなぁ…と実感しましたね」
叔父様からカローラクーペを受け継ぎ4年近くになるが、オイル交換などのレギュラーメンテナンスを行なう以外は特に不具合もなく、今も快調に走ってくれているという。

ちなみに、現在まで約30台のクルマに乗り継いできたというオーナー。現在もS600、キャロル360、カローラクーペのほか、軽トラックのアクティ、バモスとバモスホビオ、奥様のワゴンR、車いす用N-BOXと8台も所有している。20歳で結婚し、その頃は市営住宅のアパートにも関わらず9台のクルマを所有していたといい、クルマが好きな気持ちは歳を重ねるごとに増しているという。
そして、その願望はクルマを所有するだけでは飽き足らず、カーパーツやその関連アイテムも多数コレクションしているとのこと。S600や初めての愛車だったN360をはじめ、過去に乗っていたフォルクスワーゲン・ビートルやタイプII(ワーゲンバス)など、20畳ほどの自宅倉庫にはそれらのグッズが溢れかえっている。

「当たり前ですが、年月の経過とともに旧車は今後もっと減っていくと思います。また、これらの旧車を整備や修理、レストア等が出来る職人さんも減少傾向にあります。そんな中で、職人さんの技術を後世に継承してもらうのが私の願いです。そのため、自分が旧車に乗って、修理やレストアをショップにお願いすることで職人さんを支え、その技術を絶やさないよう、少しでも役に立てればといった想いも旧車に乗り続けている理由なんです。私個人の動きとしては、ストックしている部品やコレクションがあまりにも増えすぎたので、それらを集めた“クルマミュージアム”の設立を計画中しているんです」

ナント、個人ミュージアムの建設に向け自宅近くの竹山を購入。3年掛けてひとりで整地を進め、現在も開拓中とのこと。秘蔵コレクションの展示はもちろん、旧車オーナーやクルマが好きのマニアが交流できるコミュニティを目指して、時間の許す限り開拓作業に没頭しているそうだ。

そしてカローラクーペに乗って、取材に同行してくれた息子さんと一緒にパシャリ。彼もお父様のDNAを受け継ぎ、クルマ&バイクを愛する『根っからの乗り物好き』。ホンダ・モンキーをレストアしたり、ダイハツ・ミラウォークスルーバンに乗ったり、自宅にバイク専用の部屋があったりと、とにかくお父様にソックリだった。

「実は15~16年前に大病を患ってしまったのですが、運よく手術で事なきを得たんです。それを機に、生きている間に好きな事をやりたい! と、強く思うようになりました」

そのような経験もあって、クルマへの愛はもちろんカーマニアとの繋がり、そして旧車文化を絶やしたくないという想いがさらに増していったという。
いつの日か、秘蔵コレクションと愛車が並んだ夢のミュージアム、そして、根っからのクルマ好きが集える“愛車広場”が完成する日を楽しみにしています!!

(文: 櫛橋哲子 / 撮影: 西野キヨシ)

  • 取材場所:稲佐山公園(長崎県長崎市大浜町)
  • 許可を得て取材を行っています

[GAZOO編集部]