『農道のNSX』に込めた想い。ホンダ最後の軽トラック、アクティトラックに魅せられて

  • GAZOO愛車取材会の会場である福井大学 文京キャンパスで取材したホンダ・アクティ トラック(HA9型)

    ホンダ・アクティ トラック(HA9型)


ホンダ最後の軽トラック』と聞いて、このクルマだけはどうしても手に入れておきたい──。そう感じていたオーナーがいる。赤黒ツートンの特別仕様車『スピリットカラースタイル』に、深い想いと軽トラへの愛情を重ねてきたオーナーの『ロンドンバスホテル』さん。そのクルマへの想いと人生をご紹介させて頂こう。

「実はこのアクティ、2台目なんです。最初に乗ったのは、今は亡き祖父が大事にしていた2代目のHA3型。当時、自転車店を営んでいた祖父が20年以上も使っていた業務車両で、祖父が運転免許を返納したあとに譲り受けました。私にとって形見のような存在でしたが、能登半島地震の被害に遭い、あえなく廃車になってしまいました」

そう振り返るオーナーだが、このアクティに辿り着くまで、様々なクルマを乗り継いできたようだ。生まれながらにしてのクルマ好きとでも言えようか。物心付く前は泣き虫だったそうだが、ドライブに連れていかれるとすぐに泣きやんだという。

そんな彼が、運転免許を取得して初めての愛車は、実家にあったBMW 528e。父親が乗っていたのを譲り受けた。それからバイトをしたお金を貯めてBMW 633CSiを手に入れると、以来ミニクーパーやプジョー406といった輸入車を乗り継いだ。

「当時は国産車のことがあまり好きじゃなくて、海外のクルマがカッコ良いと思っていたんです」
やがて運輸系の会社に就職をして、シンガポールやメキシコなど、海外駐在も経験。現地では、キャデラックやパサートCCなどを手に入れて乗り回すなど華麗なクルマ遍歴を重ねてきた。

しかし、国産車の面白さに改めて気づいたのも、このアクティがキッカケだったという。
「輸入車の酸いも甘いも色々と経験してきて、国産車もすごく楽しい! って気付いたんです。一周してみて、こっちの方が面白いんじゃないかなってね。国産でも輸入車でも、個性的というかどこかひとつ秀でたクルマが好きですね」

今はアクティトラックのほか、ランドクルーザー(300系)や、EKクロスEVなども所有し、充実のカーライフを満喫されている。

なかでもお気に入りは、アクティトラックの特別仕様車『スピリットカラースタイル』(HA9型)だ。快適装備付きの上位グレード“TOWN”をベースに、ホンダの四輪車の原点となるT360の誕生55周年記念モデルとして販売されたもの。
フレームレッド×ブラックのボディカラーもオリジナル。耕うん機や発電機などを展開する『ホンダパワープロダクツ』をイメージしたカラーリングなのだという。

「レンタカーで借りるなどして、他のメーカーの軽トラに乗る機会もありました。でも、やっぱりアクティが一番肌に合うというか、面白いんですよ。ホンダのエンジンってやっぱり良く回るし、静かで小回りも効く。何よりミッドシップっていう構造が最高なんです。農道のNSXなんて呼ばれているのも良く分かります」

その足元には、ENKEI製の真っ赤なアルミホイールが映える。まるでオリジナルかのようなマッチングのよさだが、こちらは自身で交換したもの。実はクルマ雑誌の取材を受ける機会があり、その時に純正の黒い鉄チンホイールをこれに変更して、撮影に挑んだのだとか。
お気に入りのホイールに組み合せたのは、YOKOHAMA製のジオランダーM/T G003。M+S規格に準じたタイヤなので、多少の雪道ならへっちゃらだ。なによりオフロードテイストを盛り込んだスポーティな装いが、唯一無二の存在感を演出している。

このアクティトラックは日常から業務、そしてオフ会までと活躍の場を広げており、ロングドライブもこなす。イベント参加のために兵庫県豊岡市、納品のために九州・福岡まで遠征したというが、道中もすこぶる快適だったそうだ。
エンジンやミッションをそっくり荷台の下に収めたミッドシップ構造を採用しているため、軽トラックとしては車内空間が広いのも快適性の高さに繋がっているのだろう。エアコン、パワステ付きなので長距離ドライブも苦にならないという。

アクティブなオーナーと軽トラという組み合せは、まさに敵なし。このアクティを通じて、そのコミュニティもどんどん広がっている。最終型のHA9型、しかも希少なスピリットカラースタイルということもあり、注目される機会も少なくない。

軽トラ仲間との交流も楽しみのひとつで、県内よりも県外の仲間と盛り上がることが多いとか。ディープな軽トラ談義のなかでも、アクティはなかなかレアな存在。だからこそ、オーナーの情熱は一層深いものになっていく。

「軽トラって、ただの働くクルマじゃない。ホッとするんですよ。飾らない、嫌味がない。いろんなクルマに乗ってきましたが、アクティには運転の基本が詰まっている気がします。私には子供はいませんが、もし子供がいて何かクルマをねだられたとしたら、軽トラかジムニーを与えると思います」

オーナーは現在、会社員を辞めて独立。宿泊業や新聞販売、ドローン関連の事業を手掛けており、アクティは日常の業務車両としてもフル稼働中。真冬の新聞配達でも、4WD+MTのパッケージはまさに最強。さらに、SUNTREX製のヒッチメンバーを装着してトレーラーを牽引。古紙回収などにも大活躍している。

「沢山の古紙を回収した時には、相当な重さを積んで走ることもあります。けど、エンジンが後ろにあるから駆動力がしっかり掛かるし、ひーひー言いながらも頑張ってくれる。その姿が愛おしいんですよね」
まさに溺愛中のアクティトラックだが、実はレッド&ブラックで鮮やかにコーディネイトされたこの特別仕様車を選んだ背景には、もうひとつのストーリーが隠れている。

  • (写真提供:ご本人さま)

「実は私、真っ赤なロンドンバスを輸入して、それをホテルに改造しているんです。そのバスと色味のバランスが、このアクティとぴったりだったんですよ。ちょうどログハウスの宿も赤黒カラーで統一していて、偶然が重なったようで運命を感じました。やっぱり赤黒カラーは目を引きますよね。このアクティをロンドンバスと並べて撮影する機会もあって、SNSに上げると反響が大きいんです」と笑う。

  • (写真提供:ご本人さま)

クリエイティブな発想力をいかんなく発揮しながら、ホテル運営や新聞販売などの事業に全力で取り組んでいるオーナー。このアクティを地元の消防団に無償でレンタルするなど、ボランティアにも意欲的に取り組む。海外を見てきたからこそ、日本の良さが分かるし、地元福井への郷土愛も深いのであろう。

このアクティは、そうした彼のライフスタイルの一部として、もはや欠かせない存在となっているようだ。仕事に遊びにとフル稼働している割に、ヤレ感がまったく感じられないのも愛着の深さを感じさせる。それもそのはず、プロのガラスコーティングを施工して、ボディの美しさを保っているそうだ。

「いつかアクティでサーキットを走ってみたいって気持ちもあるけど…この限定車は大切にしたいので、もう1台欲しいですね」と、笑顔をみせた。

ホンダ最後の軽トラック、そして唯一無二のカラーリング。他のどんなクルマにも代えがたい魅力が詰まっている。たくさんのクルマを乗り継いできたオーナーが辿り着いた、軽トラという選択。その姿は、どこか自由で、ちょっぴりロマンに満ちているようにも感じられた。

(文: 石川大輔 / 撮影: 平野 陽)

※許可を得て取材を行っています
取材場所: 福井大学 文京キャンパス(福井県福井市文京3-9-1)

[GAZOO編集部]