「クルマと言えばロードスターのことしか分からないんです」一車入魂で人生のカーライフを捧げる
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マツダ・ロードスター(ND型)
バブル景気の勢いそのままにハイパフォーマンスカーやラグジュアリーカーが続々と誕生した平成初期。そのなかでもシンプルな“ライトウエイトスポーツ”という、他車とは一線を画したアプローチで、世界的にも話題を集めたのがユーノス・ロードスターだ。
国内はもとより、そのカテゴリーの草分けであるヨーロッパの自動車メーカーにも影響を与えるなど、海外でも多くのファンに支持されてきたことは周知の通り。ここに紹介するオーナーの『OPEN CAFE』さんも、そんな熱烈なロードスターファンの中のひとりである。
「とは言っても、自分はそれまでクルマ好きでも何でもなく、ユーノスがマツダの販売店だということもまったく知りませんでした。『オープンカーなんて若い時にしか乗れないだろうし、スーパーカーみたいな(リトラクタブル式)ヘッドライトがカッコ良い』という単純な理由から、就職先の長野県でマリナーブルーのロードスター(NA6CE型)を中古で購入しました。ロードスターが新車で発売された翌年、自分がハタチだった頃ですね」
このように、最初は“通勤のための道具”程度に考えていたはずのロードスターだったが、いざ乗り始めてみると、ナチュラルな操縦性やオープントップにした時の非日常的な感覚に、一瞬でハマってしまったという。
当時は、毎日夜中にしか帰宅できないほどの激務が続き、その反動から休日になると現実逃避のツーリングに出掛けるなど、多忙な日々の中における精神安定剤として大活躍。購入時は1万kmほどだったオドメーターの距離は、数年で24万km(!!)を突破。パーツの種類や車体構造に対する造詣も深まり、OPEN CAFEさんのロードスターライフはいよいよ本格的な展開に…と思いきや、なんと自損事故で廃車となってしまう。
「仕事からの帰り道、疲れてボーっとしていて…。本当に人生、終わったくらい落ち込みました。自分にはあのクルマしか無いと、心の底から思っていたもので。でもその1ヵ月後に、たまたま近くの販売店で1号機と同じマリナーブルーのNA6CEロードスターを見つけ、即決。身勝手なモノで、乗り始めるとすぐに気持ちは立ち直り、これが新しい相棒だ! って(笑)。今度は走行10万kmの個体でしたが、私が20万kmまで乗った後、知人に無償で譲りました」
今となっては、新車当時を上回るプレミア価格が付けられた個体を見かけることも珍しくない。そんな人気のネオクラ車のひとつとなっているNAロードスター。しかし、ひと昔前は数万〜数十万円レベルの中古車が、文字通りゴロゴロしていた時代。それでも“無償”というのは随分、気前の良い話のようにも聞こえるが、そこには“このクルマの楽しさを一人でも多くの人と分かち合いたい”という、ロードスターに対するリスペクトが込められていた。
「誰に頼まれたワケでもなく、ふと気づけば勝手に“推し活”をはじめていました。ガレージには今回乗って来たND型ロードスターの他、NA型が3台、NC型が1台あります。マリナーブルーのNAロードスターには何かと縁があって、今所有している1台は、かつて私が知人に譲ったもの(20万km走った2台目のNAとはまた別の個体)です。数年前にご本人から“そろそろ降りたい”との打診があったので、改めて買い戻しました」
「その方は整備士さんで、私が譲り渡した時より遥かに素晴らしい状態になっていました。走行距離は53万kmですが、もちろん今も現役です。他のクルマへの目移り? う〜ん、他のクルマのことはよく分からないんです。ロードスターならボルト1本見れば、どの型式のどの部分に使われているものかも分かるけど、それ以外のクルマについてはちょっと…。別に否定しているワケじゃなくて、分からないだけなんで…ゴメンナサイ!」
長野での仕事に区切りをつけ、熊本に戻ってからは、ロードスターに関する情報を発信するサイト『OpenCafe』を立ち上げるなど“布教活動”はさらにパワーアップ。中でも最たる例と言えるのが、2000年に阿蘇、大観峰でスタートしたユーザーミーティング『おはよう熊本(通称:おはくま)』である。
「当時、愛知で“おはよう三河湾”というミーティングが定期開催されていて、“行きたいけど遠いなぁ、だったらこっちでもやってみようか”、と思ったのがすべてのきっかけ。なんだかんだで25年も続いて、初期の頃の参加者が、年齢的に運転が厳しくなったので、息子さんの助手席に乗って来る姿も時折見かけるようになりました。毎月のことなので創設から10年ほどは開催場所との擦り合わせや、閉会後の場内近辺の点検など、ほとんど休みなしで動いていましたね」
現在はオープンカーのみならず、様々なカテゴリーのクルマ好きが集まる場として賑わいを見せている『おはよう熊本』だが、驚いたことに運営はOPEN CAFEさんただひとり。定期開催を長年続けるに当たっては正直、心労やストレスも多いのではないかと思いきや、真逆の答えが返ってきた。
「ストレスなんて全然無いです。ひとりでやってきたから良かったんです。ひとりだと愚痴も出ないし、仲間同士でギクシャクもしないから楽。本当に苦になっていないんです。でなきゃ、25年も続けられません。もちろん、ロードスター以外は来ちゃダメ! なんて気持ちはまったくありません。毎月、第二日曜にその場所に行けば、クルマ好きの仲間がいる。初めて会った方でも、クルマを通じてお互いの交流の輪が広がれば、それで良いんです」
そんなOPEN CAFEさんは、2019年に商業デザインや環境活動などを手掛ける企画会社『ReDESIGN LAB. OPENCAFE』を設立。さらに翌年にはロードスター関連のアイテムを開発・販売セクションとして『OPENCAFE GARAGE』も立ち上げたという。そこにはロードスターと過ごした35年間、総走行距離79万km以上という経験を活かした、オーナーの共感を呼ぶ数々のアイテムが揃えられているそうだ。
「振り返ってみると『おはくま』をやってきたことが大きかったような気がします。長く続けているうちに、NAロードスターで主査を務められた平井さんや、パワートレインチーフを担当されていた横倉さん、NCロードスターを担当された貴島さんともお会いすることができました」
僕が作っているオリジナルアイテムは『簡単に取り付けられて、ガチガチにしないこと』がコンセプトなんです。例えばドア部分に取り付けるパーツは、純正がゴム製なのに対し、POM樹脂製とすることで、剛性感を高めることができます。“剛性”ではなく“剛性感”というのがミソ。街乗りで使う限り、ロードスターをガチガチに固めるのは僕的にはお勧めしていません。運転中に聞こえてくるロードスターからの囁き声を耳とお尻で感じ取って、それに答えて運転を楽しめるというスタンスですね。ガチガチにすると、囁きが聞こえなくなっちゃうんですよ。他にもコルク製(マツダの前身、東洋コルク工業に由来)のコンソールパネルも、今作っている最中なんですよ」
「OPEN CAFE GARAGE」のロゴには“ブルー、ホワイト、レッド、シルバー”の4色ストライプが添えられている。ここでピンときたならば、アナタも相当なロードスター通。そう、この4色はユーノス・ロードスターの発売当初に設定されていた純正色なのだ。
仕事もプライベートも分け隔て無し。OPEN CAFEさんにとって、ロードスターは側にいて当たり前であり、無くてはならない空気のような存在となっているご様子だ。
(文: 高橋陽介 / 撮影: 平野 陽)
※許可を得て取材を行っています
取材場所:宮崎県林業技術センター/森の科学館(宮崎県東臼杵郡美郷町西郷田代1561-1)
[GAZOO編集部]
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