「修理不能の日が来るまで乗り続けます!」新車購入から34年を共に過ごしてきた相棒 シャレード

  • GAZOO愛車取材会の会場である大分大学 旦野原キャンパスで取材したダイハツ・シャレード(G102型)

    ダイハツ・シャレード(G102型)


「ふだんから若い世代の方々に『このクルマは何ていうクルマですか? 外車ですか?』などと、尋ねられることが結構多いので、ダイハツにはシャレードというクルマがあったこと、そして令和の現代でも、九州の地で元気に走っていることを知ってもらいたくて、今回の取材会に応募しました!」

そう意気込みたっぷりに登場した『九州男児』さんの愛車は、なんと20歳の頃、免許を取って初めてのクルマとして購入した3代目シャレード(G102型)のKISSA 1.3iグレードである。
現在まで実に34年間に渡って所有され、日常的に使用してきたことから車体のあちこちには小キズや退色も。それでもその一つ一つが年齢を重ねた人間のシワのような深みを醸し出し、サバイバー(レストアを施すことなく、オリジナルの状態を保ったまま現代まで生き長らえてきた個体)としての存在感を放っている。

「皆さんにシャレードのことをもっと知って欲しい! なんて言っちゃいましたが、私自身、何か特別に手をかけてきたワケでなく、ふと気がついたら30年以上の時間が過ぎていたというのが正直なトコロ。ボンネットとルーフは経年劣化で色が褪せたため2回塗り直していますが、エンブレムやデカール類、内装などはほぼ当時のままの姿です」

このクルマが現役だった1980年代末期から1990年代初頭にかけて、排気量1.6リッター以下で、多くはFF 2BOX車をベースに、ターボやツインカムなどのハイパワーエンジンを搭載した“ボーイズレーサー”と呼ばれるカテゴリーのクルマがブームになっていた。
九州男児さんもその例に漏れず、当初は愛車の候補としてEP82型のスターレットGTターボに目をつけていたという。

「スターレットターボが欲しいという気持ちはものすごくあったけど、まだ学生だったこともあって予算不足で諦めました。そして、父の会社の関係でダイハツの販売店との付き合いがあったので『シャレードというクルマがあるけど、どうだ?』と勧められたけど、その時はカタチが全然好みじゃなくて(笑)。ツインカムターボを搭載したGTグレードだったら考えても良いかな? と思いましたが、ここでもやはり予算が足りずに断念。それなら他のグレードでそこそこ走りが楽しめそうなヤツを、という消去法的な理由で選んだのがこのクルマでした。とは言っても、親には購入資金のかなりの部分を助けてもらったので、文句を言える立場にはありませんでしたが…」

九州男児さんのシャレードは、1989年からラインアップに追加された上位グレードのKISSA(キサ)。当時の同クラス車の中では珍しくパワーステアリングやパワーウインド、エアコンなどが標準装備。エンジンはCB型1リッター3気筒と、HC-E型1.3リッター4気筒の2種類が設定されていたが“せめて気持ちだけでもボーイズレーサー風に”ということで、後者の5速マニュアル車を選択したという。

ちなみに両者の価格差は約10万円だが、最高出力の差は39馬力、燃料供給も1リッター車のキャブレター式に対し、サイドデカールにも誇らしげに“EFI”と表記されている通り、1.3リッター車は電子制御インジェクションが採用されるなど、スペック面は大きく異なり、まさにバーゲンプライスと言って差し支えないお値打ちの価格設定であった。

「とは言っても、実際の走りは至っておとなしくて、当時人気があったAE92レビンやCR-Xなどに軽く追い抜かれるのがコンプレックスでした。まぁ、用途はもっぱら普段使いでしたけどね。ただ、北九州から福岡の学校まで通学には電車を使っていたし、社会人になってからは軽自動車をアシとして増車したので、実走行距離は約9万5000kmなんです。34年という所有年数からすると、少ない方だと思います。最初はあれだけ後ろ向きだったクルマでしたが、徐々に愛着が湧いてきて、不思議と途中で手放そうとか買い換えようという気にはならなかったですね」

九州男児さんが長年に渡ってシャレードを維持することができた背景には、そんな自身の気持ちの変化に加え、30年前とは比べ物にならないほど発達したネット環境も大きな要因となっている。
中でも自動車系のSNSを通じて繋がれた、シャレード乗りたちとの出会いは、自身のカーライフに計り知れないほどの広がりを持たせることになった。

「ネット上だけでなくオフ会やミーティングなどにも出掛けたりと、仲間が増えて嬉しくなりました。3年前にエアコンが故障した時も、皆さんの協力のおかげで修理することができたんです。他にも消耗品の入手方法や日頃のメンテナンスのコツなど、本当に色々とお世話になっています。中には初代モデルや、とても珍しい2ドアのクーペを所有されている人がいたり、私なんかより遥かに濃いシャレードのマニアがいらっしゃるんですよ」

この日はそんなシャレード仲間のうちお二人が、九州男児さんの取材の応援に来場。5ドアのKISSAで駆けつけてくれたのは『爺さん』と『丸さん』だ。お二人の話によると、シャレードはアジア圏でノックダウン生産が行なわれていた他、複数の国々に輸出されていたそうだ。
そのため、日本では廃盤となっているパーツのリプロダクション品が今なお作られていて、ネットオークション等で手に入る中古パーツと併用すれば、コンディションの維持管理はそれほど難しい話では無いとのことである。

「このクルマのお気に入りポイントですか? う〜ん、やっぱりヨーロッパ車にも影響を与えたと言われている独特のスタイルでしょうか。特にリヤ斜めからのボディラインが好きですね。あとは、今でも実動する電動昇降式のコーナーポール(メーカー側による名称はコーナーコントロール)や純正オプションのゴミ箱も自慢の一つです」

「短所は使いづらいパワーウインドのスイッチですかね。平面のドアパネルにスイッチが上下に並んでいて、手探りだと左右を間違えやすいんです。元々、社外パーツはあまり好きじゃないので、ホイールをGT系グレード用のスピードライン製にしています。ステアリングをG200系(4代目シャレード)デ・トマソ用のナルディ製に換えた以外はほぼ購入時のまま。シートをデ・トマソ用のレカロに交換したい気持ちもあるけど、内装がそのままでシートだけがスポーティになると全体がチグハグとした感じになって、個性が無くなるような気もするのでちょっと悩んでいます」

オフ会やミーティングの他には、福岡県添田町にある旧車乗りが集うカフェに立ち寄ったりするなど、行動範囲は県内がメインとなっているが、今後はタイミングが合えば遠方のイベントにも参加してみたいと語る九州男児さん。と言いつつ、実動状態にあるシャレードの台数は年々減少傾向にあり、ダイハツ系ユーザーのイベントでも“同志”の姿を見かけることが少ないのは気がかりな様子。

「まぁ、発売が30年以上前の話なので、仕方ないんでしょうネ。私もたまに学生時代からの知り合いに出くわすと『まだそのクルマに乗ってたんだ!』と驚かれます。それでも愛着は変わらないし、せっかくここまで維持してきたわけですから、もう修理の施しようがないという状態になるまで、大切に乗り続けていきたいと思います」

現役当時は賛否が分かれた3代目シャレードだが、ガラス面積が広く取られたルーミーなキャビン形状や、エッジを落としたプレーンなボディラインなど、そのデザインは30年という時間が経過した現代では、むしろ目新しさを感じさせるほど。ぜひ仲間たちとの力を合わせて、このクルマの魅力を次なる世代へと伝えて行ってほしいものである。

(文: 高橋陽介 / 撮影: 西野キヨシ)

※許可を得て取材を行っています
取材場所: 大分大学 旦野原キャンパス(大分県大分市旦野原700)

[GAZOO編集部]