近所に住んでいたお兄ちゃんに負けたくない! そんな一心でアリストを購入した若者の今
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トヨタ・アリスト 3.0V (JZS147)
結婚から30年の記念を真珠婚と呼ぶそうだが、今年、愛車との真珠婚を迎えたのが『よとも』さんだ。出身は千葉県だが、仕事の関係で現在は大阪府に在住。その人生の半分以上を、トヨタ・アリスト(JZS147型)とともに過ごしてきた。
アリストは1991年から2代にわたって展開されたトヨタの高級セダン。当時から海外市場ではレクサスGSとして設定され、その命脈もGSとして4代目まで引き継がれたのだが、2020年には生産を終了したモデルだ。
よともさんの愛車は、アリストの初代モデル、JZS147型。当時のクラウンマジェスタと基本コンポーネントを共有しており、アリストの中でも2JZ-GTE型の3.0リッター直6ツインターボを搭載した『3.0V』グレードがセダン好きのハートを鷲掴みにした。
よともさんがアリストを購入した最大の理由もまさにそれで「若かりし頃に感じた近所のお兄ちゃんに対する対抗心」が引き金となったそうだ。
「最初に購入したクルマはJZX81型のマークIIでした。本当はその時も2.5リッターツインターボ搭載の“2.5GTツインターボ”が欲しかったんですが、予算オーバーで断念し、NAの2.5グランデGにしたんです。その時は21歳だったんですけど、購入から2年くらいした頃に、近所に住んでいた仲の良いお兄ちゃんが、新型のJZX90型マークIIのツアラーVを買ったんですよ」
「これは負けてられないと思って、90マークIIのツアラーVに勝てるセダンは…と考えたところ、1991年に発売されていたアリストの3.0Vしかない! となったんです」
近所のお兄ちゃんに張り合って『もっと良いクルマを買う!』という発想に、当時のクルマ好きが生きた時代背景も感じられるが、アリスト3.0Vに的を絞った若きよともさんの戦略はクレバーだった。
「当時のトヨタ車は、発売間もない前期型よりも、マイナーチェンジで改良が入った後期型の方が断然イイと感じていました。その頃は2年でマイナーチェンジ、4年でフルモデルチェンジというサイクルが定番でしたから、少し待てばアリストも後期型が出るだろうと踏んだんです。そのサイクルからはちょっとズレましたけど、1994年にマイナーチェンジが入って購入意欲が湧いてきました」
それまで虎視眈々と軍資金を貯めていたよともさん。機は熟したと、すぐにでも買いたい気分になっていたが、当時は初度登録の年式にこだわりがあり、登録が1995年になるまでさらに待つことにしたそうだ。
「94年登録と95年登録だと、リセールに10万円くらい差があったんです。まあ、今思えば売らないんだから関係なかったんですけどね(笑)。アリストの取り扱いディーラーは当時のトヨタオート店とトヨタビスタ店で、同じ町内に住む中学の先輩がトヨタオート店に勤めていて、私の意見も親身に聞いてくれました。そこで見積もりを取った後、平成6年(94年)の12月10日に契約すれば平成7年(95年)の1月中旬に納車できると連絡が入って正式に契約。今でもその時の契約書は大事に持っています」
そうして弱冠25歳の時に、晴れてアリストオーナーとなったよともさん。近所のお兄ちゃんをギャフンと言わせると、その勢いのまま、夏はアリストにビーチベッドとパラソルを積んで九十九里浜へとドライブ。20代最後の青春を思う存分謳歌したが「今思うと、真夏の強い日差しと潮風ですから、アリストにはひどいことをしたなと反省してます(笑)」と振り返る。
よともさんはカスタマイズにも積極的で、ホイールは2代目のアリストに設定されたTTEバージョンという、限定車の純正ホイールに交換している。
外装パーツには、独自のアイディアを盛り込むのも大好きで、例えばフロントバンパーにはスカイラインGT-R(BCNR33)用のエアダクトを追加したり、リヤバンパーにはバックランプを埋め込んだりした。
「当時はインターネットなんてなかったですから、クルマ雑誌を読み漁って情報収集していましたね。テールガーニッシュは、アリストの北米仕様であるレクサスGS300の最終後期型用に変更したんですけど、いざ付けようとしたら鍵穴の位置が違ったんですよ(笑)。仕方ないのでドリルで穴を開けちゃいました」
外装パーツの変更や加工を行なったついでに、ボディ下半分のカラーも塗り替え。元の色はカラーコード178のシルバーMだが、それをUCA62のライトウォームグレーMという別の色を指定して塗ってもらったそうだ。
なぜならば、そうすることによって初代クラウンマジェスタに採用されていた、ウォームグレーパールマイカトーニングGの後期型用と同じ組み合わせになるからだそうだ。
つまりクラウンマジェスタのウォームグレーパールマイカトーニングGも、前期型と後期型で下半分の色が少しだけ変わっているということなのだが、実際の色味の差は並べて見比べないと分からないレベル。そのため同じアリスト乗りにも色替えしていることに気づかれることは少なく「過去に2人くらい聞かれたかな?」と、よともさんは少し勝ち誇った表情で言う。
「カーナビはトヨタ純正の2DINタイプに交換したんですけど、MD付きと言うのがこだわりです(笑)。トランクにはCDチェンジャーとMDチェンジャーもありますよ!」
ここで令和の若者に、MDとCDチェンジャーが何であるかを説明するには紙幅に余裕がないので割愛させてもらうが、よともさんのマメな性格が現れているのがMDの背面に貼られた曲名リスト。エクセルを使って一から打ち込んだそうで「どの曲が何曲目に入ってるかすぐわかって便利でしょ!」という言葉には、ついウルッと来てしまった。
エンジンルームを清掃する時はカルキ成分が残らないようにと、“精製水”を使うと決めているよともさん。洗車やメンテナンスを怠らないのはもちろん、コンピュータやメーターなど、不具合が出た時には放っておかずに、その都度修理を繰り返してアリストとのカーライフを守ってきた。
「大阪に住んで4年経ちますが、さすがに千葉のお店に通うは遠いので、今はクルマ仲間に紹介してもらった静岡のお店で整備や車検をお願いしています。なにぶん古いクルマですし、製廃パーツも多いですから、主治医との関係も良好に保っていきたいですね。若い頃はそんなこと考えたこともなかったですけど、やっぱり大切なのは人間関係ですから」
昔と比べれば、アリストに乗る頻度は減っているそうだが、最低でも月に一回は近所を流して調子を保つように心掛けているとのこと。大阪の家と千葉の実家には今もパーツが山と積まれているそうだ。
「人生の半分以上を供にしてきたクルマですから、もはや手放そうとは思っていません。周りに何を言われようと、好きな事にはとことん全力になるのが私のモットー。あと、そんな熱狂ぶりを理解してくれる仲間を持つことも大事ですね(笑)。クルマが先に壊れるか、それとも自分が先か、勝負しているような気になることもありますけど、これからも大事に維持していきたいと思います」
もはや一心同体とも呼べそうな、よともさんとアリスト。その歩みは50年の節目となる金婚式を目指し、また一歩、また一歩と確実に進んでいく。
(文: 小林秀雄 / 撮影: 清水良太郎)
※許可を得て取材を行っています
取材場所:ジーライオンミュージアム&赤レンガ倉庫横広場 (大阪府大阪市港区海岸通2-6)
[GAZOO編集部]
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