収集癖で3台持ちに! オーナーの心を動かしたトヨタ・ランドクルーザー80
出会いはジャンクヤード。解体される寸前だった、トヨタ・ランドクルーザー80を買い取った、酒井義正さん。当初は乗るつもりは無かったものの、まさかの展開になったそうです。
今では、唯一無二、生涯乗り続ける愛車と断言する、「ハチマル」のお話をお聞きしました。
――ランドクルーザー80に乗り始めたきっかけはなんですか?
15年ほど前の話ですかね。80に乗る前にランドクルーザー76に乗っていたんですが、林道ツーリングやオフロード走行の時、ここ一発のところでパワー不足を感じていたんですよ。そこでパワー不足を解消する為にエンジンスワップを考え、80のエンジンを探しだしました。
そこへ、地元の知人から解体屋に80があったぞと話を聞き、その日の仕事帰りにその解体屋を訪ねてみると80が解体されずにまだあったんですよ。すぐさま社長さんに交渉すると、値段が合えば売ってもいいよという話になり言い値で即決しました。
ドナーとなる車輌も見つかり、本当はすぐにでも76にエンジンを載せ換えたかったのですが、工賃や構造変更申請をするお金が無かったので、とりあえず資金が貯まるまでドナーとしてやって来た80に車検を取って乗ってみるかと思い、乗り始めました。
乗り始めると、これがまた凄くいいクルマだったんですよ。当初の予定はお蔵入りして乗り続ける事になりました。これが80との出会いと始まりですね。
――ランドクルーザー80を3台所有しているとお聞きしましたが、ランドクルーザー80の魅力と3台も所有することになった理由をお聞かせ下さい
80はですね、乗り心地もいいし、フルタイム4WDだし、デッカイわりにはハンドルも切れ、取り回しも楽だし、デザインも直線基調でかっこいい。何ともいえないオーラがあるというか、私的には現在のところ80以外に乗りたいクルマは無いですね。
なぜ3台も持っているのか?それはおそらく最初に買った80の印象が良かったからでしょうね、それ以来、あの80もいい、この80もいいとか、いろんな80に乗ってみたくなり、出物があると乗替えではなく買い足しで増えていきましたね。
あと私は収集癖があるんですよ。過去にR31型のスカイラインも2台持っていました。同じクルマを何台も買ってしまう。これは私の持病ですね(笑)
――3台の80の各個性をお話して頂けますか?使い分けとかしていますか?
最初に買った80は1号機、次に買った80を2号機、最後に買った80を3号機と名付けていまして、1号機はガンメタのVXで、5速マニュアルのパートタイム4WD、買ったときには脚も上がっていたし、低速ミッション仕様にもなっていました。
またこの車輌は初期ロットに存在していたと言われている、出荷時から前後ともスタビライザーが付いていない、稀なスタビレス車だったんですよ。いま一番気に入っている80でオフロード専用みたいな感じですかね。一番気に入っているはずなのに年間1000kmぐらいしか走っていませんね。
2号機はブラックのVXで、オートマのフルタイム4WD、エアロが組まれていて、オンロード仕様ですかね。長距離の移動も楽で一番乗っている80ですね。オンロード仕様ですが、タイヤはマッテレ(マッドテレーンタイヤ:オフロード用のゴツゴツタイヤ)を履かしていますね。そこはこだわりです。
3号機の色は……なんていえばいいんですかね?再塗装がされていて昼と夜とか晴れとか曇りで色調が微妙に変わって見えるんですよ。チョコレートメタリックってことにしておきましょうかね(笑)。
グレードはVXリミテッドで2号機と同じオートマのフルタイム4WD。仕様的には1号機と2号機のクロスオーバー的な80で、脚も上がっていて、デフロック、ウインチが付いてABSも付いている。オンロード走行からスノーアタックまでオールマイティに使える80ですね。
――80のとの印象に残るエピソードは何かございますか?
エピソードなのかは分かりませんが80がなかったら、ちょっと困ったことになったぞってことはありましたね。
私の家は山の中にあり、町道に出るまでは未舗装の私道を走らなければいけないんですが。その私道が令和元年の台風19号で水に流されて道が無くなったと言ってもいい位の被害が出たんですよ。
台風が通り過ぎた翌朝、道には深さ50cmを越えるオフロードコースにあるようなV字の溝が延々と続き、荒れた林道を越えて廃道のようになっていました。普通車では絶対通れない道を80があったおかげで、その日、出社できましたね。
台風被害もそうですが、冬には雪が積もります。私道ですから壊れた道の補修や除雪などもすべて自分しなければいけません。すぐに工事に取りかかれてすぐに補修できればいいのですが、取りかかれたとしても何日も掛かることもあり、80がなければ会社どころか、どこにも行けなくなってしまいますからね。
――80以外の趣味や活動をしていることはありますか?
一般的な趣味と言えばクルマ一本ですね。趣味に入るかは分かりませんが実家は農家でしたので、農機具が好きですね。父が他界して現在、農業は休業中ですが、トラクターやバインダー、ハーベスターなどの農機具は残しています。
今でも仕事が休みの日に人手の少ない農家さんのところに手伝いに行き、トラクターやコンバインとかの農機具を動かす事もあります。
――休みの日に農作業ですか!疲れませんか?
農家の小倅ですから。小学生の時から長年、実家の手伝いで草刈りやトラクターを運転して代掻きとかしていましたから苦にはならないですね。
子供の頃はトラクターでよく遊びましたよ。代掻き前の田んぼの中を走り回り、冬になると田んぼに水を張り、パカンパカンに凍ったところにトラクターを乗り入れ4駆から2駆に切り替えてドリフトさせて遊んでいましたね(笑)。
今考えると80を含む四輪駆動車が好きになったのはトラクターが原点かもしれませんね。
――では80も含む四輪駆動車の活動は?
私の地元、福島県田村市の檜山高原で、福島を拠点とする4WDクラブが主催する、フクシマフォーホイラーズフェスティバルという、アウトドア愛好家と四駆乗りが集まるイベントが私の家から見える所で開催されることになったんですよ。
地元の四駆乗りとして手伝わせて下さいと申し出てみたのですが、人は足りていると断れてしまいました。第2回は客として参加し、イベントを楽しみましたが、沸々と湧いてくる物があり、第4回の時は、朝5時半にメンバーの到着を待ち伏せ、無言で手伝いだしました。
周りからは、こんな人いたっけ?みたいなかんじでしたね。今から考えるとかなり変な人でしたね(笑)
何はともあれ4WDクラブのメンバーになれ、イベントの準備ではユンボを操縦できるのでオフロードコース担当になりました。初めてコースを掘る時はプレッシャーがかかりましたね。浅くも深くもできるのですが、深く掘りすぎると埋め戻せないんですよ。
桧山高原の土は手ごわく、掘りすぎて埋め戻したところは水を含むとかなりヌタヌタになり、いとも簡単にスタックしてしまいますから。メンバーの意見を取り入れながら注意を払って掘っていますね。毎年地面の様子が違うので掘ってみなければ分からないところも難しいですね。
そんな苦労もイベントが閉会して片付けをしている私たちに会場を離れ帰路につく来場者がクルマの窓越しに手を振ってくれるんですよ。中にはわざわざクルマを停めて「ありがとう。楽しかったよ、また来年ね、さようなら」と言ってくださる来場者の方もいらっしゃるんですよ。
その日の疲れもブッ飛んで、後片付けにも力が入り、来年はもっともっと楽しんでもらえるように努力しようと奮い立ちましたね。それ以来、私は、さようならという言葉には、また逢いましょうも含まれているんだなと思うようになりました。
――ランドクルーザー80が中心となると思いますが、酒井さんのカーライフの今後をお聞かせ下さい
80は生涯乗り続けるつもりで、できれば今ある3台いつまでも動けるように維持し続けることですかね。問題は多々あり、修理代は高いは、直らんは、メーカーのパーツ供給はいよいよ怪しいはで。
中でもパーツ供給が一番の問題で昔のように解体車なんてまず出てこないから、こまめに中古パーツ屋さんを回ったり、情報を張り巡らせていますよ。財布との相談になりますが、出物があれば、今は必要の無いパーツも購入してストックしています。
今、3台と言っていますが、実は4台目の話も出てきているんですよ。こればっかりは持病なんで止まりませんね(笑)
――最後にランドクルーザーは盗難に会いやすいクルマですが、何か対策はしていますか?
盗難対策ですか?まずドロボーさんはまず私の家には辿り着けないでしょうね。私道もガタガタで普通乗用車では上がって来るのも困難ですし。家の周りに来るのは、イノシシや、タヌキや、キツネぐらいですよ。あとよく吠えるイヌを4匹配備しているので盗難対策は万全です(笑)
インタビュー中、泥道は極力避けて走るようにしている。クルマはあくまでも道具だけど、大切にしたい。泥遊びは田んぼで十分楽しんでいるからという言葉が印象に残り、一生乗り続けたい、惚れ込んだランドクルーザー80への愛情がひしひしと伝わってきました。
酒井さんの住む福島県田村市には鬼の伝説があります。鬼といっても悪事を働く怖い鬼ではなく、里の田畑を守り、さらに豊かにしようと、里の人々の先頭に立って働いていた心優しき鬼の伝説です。
休みの日には人手不足の農家を手伝い、地元のイベントを盛り上げ、来場者の笑顔のために率先して準備に勤しむ、体も大きく、いかにも力がありそうな酒井さん。実は田村の伝説の鬼の末裔では?と私は思ってしまいました。
ランドクルーザー80は維持が容易ではなくなってきますが、これからも末永くに乗り続けて頂きたいと私は願っています。
(文:よしのけんいち)
[GAZOO編集部]
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