自分で修理をするしかなかった「ランタボ(ランサーEXターボ)」。整備解説書のコピーに始まりエンジン載せ換えまで、僕の整備記録
車両価格がお財布に優しく、速いクルマを探していたところ、「ランタボ」の愛称で親しまれているランサーEXターボが見付かったという「タルボ175さん」。
この頃の三菱車は、競技ベースとなるクルマが沢山販売されており、走りを楽しみたい人達から人気だったと話してくれました。そんなランタボですが、とある事情により全て自分で整備することになってしまったのだそうです。
今回は、タルボ175さん×ランタボ のお話をお届けします。
――早速なんですけど、自分で整備をすることになったとは、一体どういうことですか?
私がかなり辺鄙なところに住んでいるので、ランタボをいじってくれるショップが近くに無いんですよ。だから、人に触られたくないとか、自分でやってみたいとかっていうよりは、やらざるをえなかったという感じなんです。
1軒くらいはあるでしょ~って思うでしょ? 本っっっっっっ当に、何も無いんだから(笑)。
――まさに、それを思ってました
いやいや、本当に無いんですって(笑)!車検も自分で全て整備してから、あとは見てもらうという感じなんです。
――タルボ175さんは、自動車関係のお仕事をしていらっしゃるのですか?
いえ、建設業を営んでいます。だから、誰に習った訳でもなく、全部独学で覚えていったんです。
クルマの詳しい構造が分からないから、とりあえずディーラーから整備解説書を借りるところから始めましたからね(笑)。コピーして製本をして、確か8冊くらい出来たんだっけな~。
それを読み込んで、スパナ片手にアチコチいじって、各部の構造や色々なことを覚えていったんです。例えば、ボルトって、これくらいの力を入れたら頭がねじ切れるのかとかね。そのレベルからのスタートだったんですよ。
だけど、これが意外と楽しくてね。もともと、自転車をバラして組み立てるのが好きだったりしたから、機械いじりが好きなタイプの人なんでしょうね。
あとは、クルマを置ける広大な土地と、建設業に使うボール盤や工具もあったりと、道具も一通りあったので、没頭しやすい環境が整っていたんです。
――1番大変だったのは、どの部分ですか?
エンジン載せ換え作業が大変でもあり、とても楽しくもありました。もともと、1800ccのG62Bエンジンが搭載されていたんですけど、これをギャラン∑などに搭載されていた2000ccのG63Bエンジンと取り換えたんです。
――なぜ載せ換えようと思ったのですか?
走行性能アップを期待して行いました。実際、排気量が上がったことによってトルクも太くなったし、エンジンのピックアップも良くなって手応えはあったと思います。
三菱は、当初の予定では僕が載せ換えたG63Bエンジンを搭載して発売するそうだったんです。ですが、車体に比してエンジンが強力すぎるということで運輸省の許可が下りず、しぶしぶG62Bエンジンにスケールダウンしたとのことでした。
ちなみに、WRCで入賞した輸出用のランタボは、G63Bエンジンを搭載していたそうなんですよ。そういうのを調べていくと、やっぱりG63Bエンジンを搭載しているということが、本来のコイツの姿なんだろうなと感じたのも、エンジン載せ換えのキッカケとなりました。
――自分1人でやるとなると、かなり根気が必要そうですね。
かなり必要でしたね……。だって、2年くらいかかっているんですよ(笑)。
例えば、デフピニオンの起動トルク合わせなんて初めてしましたから。トルクチューブというスペーサーでピニオンナットを規定トルクで締め上げて、ベアリングプリロードを決めるんです。
ランタボの場合、競技ベースのデフだったので、ソリッドスペーサーで0.01㎜単位のシムを挟み組んでは測定、合わなければバラシを繰り返すんです。気の遠くなる作業ですよ(笑)。
――聞いているだけで、気が遠くなってます……。
あはは(笑)。ただ、解る方が見ると、お金をかけてないエンジンルームだな~ってバレちゃうと思います。
例えば、ターボからの吸気パイプにFFストーブの排気筒を利用しているとか、ランタボは本来バッテリーはラジエーター横に鎮座しているはずなのにブースターケーブルを利用してトランクに移設しているとかね。
でも、そういうのでも僕にとっては可愛くて自慢のエンジンなんですよ。エアダムに貼ってある“2000TURBO”の逆文字ステッカーがあるでしょ?あれが見せかけではなく、本当に2ℓのG63Bエンジンを搭載した証なんだと思うとすごく嬉しいです。
――素敵ですね。大変と仰っていましたけど、またやりたいと思っているのでは?
実は現在、とあるエンジンを制作中なんですよ。
――今度は、どんなエンジンを制作中なのですか?
当時の三菱車には、振動抑制の為にサイレントシャフトというバラストの付いたシャフトが2本ブロックに入っているんですけど、このシャフトがクランクの倍の回転をするので、フリクション面でかなり不利になってしまうんです。
だから、このシャフトを廃する加工を行ったエンジンを作成しているんです。バラして、キッチリとバランス取りをしてあげて組み上げると、カタログ値を上回る高性能エンジンになるのではと思っています。
――タルボ175さんがいると、他のランタボオーナーさんにとってもとても心強いなと思います。
そう思ってもらえると嬉しいなぁ。僕はクルマ屋さんなわけじゃないんだけど、自分で得た技術と知識は、教えて欲しいという方がいらっしゃれば伝えていきたいと思っているんです。
同じクルマに乗っている人と、ランタボの楽しさを共有したいから、手持ちのパーツ類も最低限の経費で提供しています。これからも、そういうスタンスでランタボライフを楽しんでいけるといいな。
ランタボを維持するにあたり、多くの技術を学んだという タルボ175さん。今後も車体の維持と性能アップをしながら、長く乗り続けていきたいとのことでした。
(文:矢田部明子)
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