ホンダ NSXは、あと30年は乗りたい同年代の「同士」
1990年に初代NSXがデビューした当時、カタログには「our dreams come true」のキャッチコピーが。NSXが世に登場したことで、日本のスポーツカーがさらなる高みに到達したことを世界に向けて宣言した瞬間だといえます。
そして2005年に生産が終了してからもなお、当時を知るクルマ好きだけでなく、次の世代をも魅了し続けています。そしていまや初代NSXと同世代にこの世に生を受けたオーナーも誕生しています。今回取材が実現した片岡大輔さん(34歳)もそんなおひとり。なぜ初代NSXに惹かれたのか?じっくりと伺ってみました。
―― まずは、片岡さんの愛車について教えてください
愛車は「1992年式 ホンダ NSX(NA1型/5速MT仕様)」です。手に入れてから2年半、現在の走行距離は約9万km、私が手に入れてからは5千km走りました。
―― 5速MT仕様のNSXなんですね!片岡さんがクルマ好きになったのは何歳頃でしたか?
中学生のころなので、13歳だったと思います。父親と一緒に頭文字Dを観たことがきっかけです。これでクルマ好きに火がつきましたね。作品のなかでは中里毅が乗るR32スカイラインGT-Rが好きでした。
―― この流れだと「R32GT-Rが欲しい!」となりそうな展開ですね
NSXに興味を持つようになったのは、岡山で開催された全日本GT選手権2001年開幕戦を父親と観戦した影響が大きいですね。レース中、トップグループを快走するNSXが強烈に印象に残っています。
なかでも、2位を走っていたARTA NSXの土屋圭市さんの走りが強烈で「自分もいつかNSXに乗る!」と決意するきっかけになりました。しかもこのレース、GT500クラスはNSXが表彰台を独占したんです。
―― 頭文字Dや全日本GT選手権といい、お父様もかなりクルマ好きですね
そう思います。ただ、数年前に他界してしまったんです…。父親が乗っていたのはスバル サンバー トラック(TT2型)、パートタイム4WDのスーパーチャージャー仕様、垂直ゲート付きという"ヘンタイ仕様"(笑)なんですが、このクルマを私が受け継いでいまも乗っています。
―― 片岡さんがサンバーを乗り継いでくれて、お父様も喜んでいらっしゃると思います!ちなみに、これまでの愛車遍歴を教えてください
23歳のときにオートマのスズキ アルトを手に入れ、2年くらい乗ったあと、ダイハツ コペン ローブの新車に乗り替え、5年乗りました。そしてNSXに乗り替え、父のサンバーを引き継ぎ、通勤用のフォレスター(SJ5型)を手に入れて現在にいたります。
―― ついに念願のNSXを手に入れることができたわけですが、片岡さんがこの個体を「愛車」に選んだ決め手を教えてください
何台かのNSXをチェックしてきて、この個体のコンディションが良好だったので決めました。
―― NSXが納車された日のことを覚えていますか?
積載車に積まれたNSXを見て、思わず「わっ!低っく!」と声に出したことを覚えています。その後、NSXが積載車から降ろされたことでさらに全高の低さを感じましたね。
NSXから発せられるオーラに「えらいモノ買うたな」って思いつつも、ついにオーナーになれたことを実感しました。
―― 記念すべき初ドライブはどこに行きましたか?
そのあとすぐに海沿いからコンテナ置き場などを40分ほど走らせました。停車中に60歳くらいの男性の方から話しかけられ「実はさっき納車されたばかりなんです」と答えたことを覚えています。
―― 念願のNSXを手に入れてから、ご自身のライフスタイルやカーライフにどのような変化がありましたか?
以前よりも街中で注目されることが増えましたね。NSXのオーナーズクラブに入ったことも大きな変化といえます。クラブのNSXのオーナーさんは年配の方が多く、34歳の私が最年少なんです。
「NSXがあるから仕事を頑張れた」といった貴重なエピソードを伺うこともあり、私ももっと仕事を頑張ろうという良いきっかけにもなっています。
―― 人生の先輩たちの実体験だけに説得力がありますよね。ちなみに、NSXを手に入れてからモディファイした箇所はありますか?
いまのところ、ショップのステッカーをリアウインドウに貼ったくらいです。レカロシートやRAYSのホイールは前オーナーさんが装着していたものです。ゆくゆくはこのショップのサスペンションやショックなど、足まわりに手を入れるつもりです。
―― これは楽しみですね。NSXの自慢できるポイントをぜひ聞かせてください
ノーマルな箇所が多いですが、存在感とオーラが自慢できるポイントかなと思います(笑)。あとは、見た目が白と黒のツートンなので、NSX-Rに見えることです。
―― NSXとのカーライフでいちばんの思い出をぜひ聞かせてください
参加しているNSXのオーナーズクラブで春と秋に開催しているツーリングに初めて参加したときです。30台近いNSXが連なってツーリングする光景は壮観でした。このときの注目度は忘れられません。
―― 30台NSXがランデブー走行していたら誰でも驚きます(笑)。失礼ながら…NSXを手に入れてから故障などのトラブルはありましたか?
クラッチのトラブルです。おかしいなと思っていた矢先、自宅のガレージから出ようとしたらクラッチがスカスカで動けず…。私の自宅は山の奥の方で、狭い坂道で、しかも一本道なんです。キャリアカーが入ってこられないので、ご近所の方たちが手伝ってくださり、700メートルくらいみんなでNSXを押してようやく載せることができました。
それと…現在、運転席側のドアノブが引っ張るようにしないと開かないんです。しかも交換したい部品がないらしく、シビックのもので代用できるとショップの方に教えていただいたので、こちらも直そうと思っているところなんです。
―― ある程度、年数が経過したクルマだと、故障だけでなく、部品の手配や確保も大変ですよね…。ちなみに、NSXを所有うえでこだわっている点はありますか?
ノーマルの雰囲気を崩さないことです。NSXの直線的かつ丸み帯びたデザインが気に入っています。特に、ドアからリアフェンダーにかけてのラインとフロントノーズの低さが好きです。
純正のスタイルのままでまとまっていますし、エアロパーツやGTウイングなどの装着も考えていません。
―― 愛車を維持するうえで気をつけていたり、意識していることは何ですか?
雨の日は乗らない。そして、知らないところへは行かないことです。車高が低いので、段差を超える際は気を遣います。知らないところだと、NSXでは通れないかもしれないので、できるだけ避けるようにしています。
―― 今後、NSXに対して手を加えてあげたいポイントを教えてください
先ほどの足まわりの他に、運転席のシートの肩の部分が剥げているので、自宅で保管しているレカロのフルバケットシートに交換したいです。
―― 片岡さんがNSXに対して「伝えたいメッセージ」をぜひ聞かせてください
少なくとも30年は乗る予定なので「これからもよろしく!」です。
以前、年配のNSXオーナーの方が「その歳ならあと30年は乗れるな」と声を掛けてくださったこともあり、頑張って維持します!
―― 片岡さんにとって「愛車であるNSX」はどのような存在ですか?
「僕の同士」です。これ以上のクルマはなかなか見当たりません。しいていえば、新型のNSXを手に入れて2台並べることができたら最高ですね!
片岡さんは現在34歳とのことで、今後30年間NSXに乗りつづけたとしても60代なかば。30年後もNSXに乗りつづけている可能性は充分にありそうです。
あとは部品の供給と、30年後の未来も内燃機関のクルマが走ることが許されるかどうかに掛かっているといってもいいはず。片岡さんをはじめ、次の世代のクルマ好きが憧れを現実にした喜びを長きに渡って持ち続けられることを願うばかりです。
そして最後に…。お父様が愛用していたサンバーを受け継ぎ、さらには父子で観戦した全日本GT選手権がきっかけで好きになったNSXを手に入れた息子さんのことを、天国で誇らしく思っていることでしょう。
<取材・編集 株式会社キズナノート>
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