「キャンプもドライブも、すべてが特別」 24年乗り続けるホンダ・ビートとどこまでも



X(エックス)のタイムラインで目に留まった1枚の写真。それはキャンプでのワンシーンでした。

静かな湖畔の景色で、湖面に写るのは「逆さ富士」。そしてたたずむ1台のホンダビート。富士山を借景に存在感を放ちつつも、景色に調和していました。

昨日納車されたばかりのようなコンディションながら、時間を積み重ねた落ち着いた雰囲気を感じます。オーナーさんのプロフィールを見て「やはり」と思いました。

「20年以上乗っています」

今回の主人公「Red Beat」さんは、2001年から24年間という年月を愛車のビートと走り続けてきました。ここまでには楽しい思い出だけでなく、試練も…。Red Beatさんはなぜ、ここまでビートを愛し続けるのでしょうか。濃密なカーライフを伺いました。

――子どもの頃からクルマ好きだったんですか?

僕が物心ついた頃には、たくさんのトミカで遊んでいました。両親がクルマ好きだったわけでもなく「クルマ」という存在が好きだったようで、いろんなトミカを並べて遊ぶことがお気に入りだったようです。

当時は「スーパーカーブーム」の名残もあって、絵本や子ども向けの雑誌などでスーパーカーの魅力に触れる機会が多かったですね。クルマが描いてあるお気に入りのページを何度も眺めていた記憶があります。

中学時代からの親友二人と、お互いに影響し合いながらクルマにのめり込んでいった感じですね。そのうちの一人は自動車ディーラーに勤めていて、初めての愛車は彼が紹介してくれたスバルの初代ジャスティでした。

――ビートに出会う前に好きだったクルマは?

ランチア・ストラトスが好きでした。シャープなフォルムと、ラリーで鍛え抜かれた機能美が刺さりました。そしてホンダ・S800。エンジンを高回転まで回して走るという、バイク的な魅力がありました。

――ビートとの共通点も見えてきますね。では、愛車との出会いを教えてください

ビートを知ったのは2001年です。自動車誌「Tipo」で知りました。基本的にイタリアやフランスのクルマが取り上げられていましたが、たまに国産モデルも紹介されることがありました。平成初期に登場した「ABCトリオ」と呼ばれる、マツダ・オートザムAZ-1、ホンダ・ビート、スズキ・カプチー、その3台が特集されていた記事でした。

ビートに惹かれた理由は、子どもの頃から憧れていたランチア・ストラトスとホンダ・S800の要素を持っていたからです。逆ヒンジのボンネットはストラトスと同じ構造で、ミッドシップレイアウトという共通点もあります。そして、高回転型エンジンにオープンモデルというS800の遺伝子。僕にとって「好き」の要素が詰まりすぎていたんですよ。

加えて、当時は軽自動車の維持コストが安かったことも大きな魅力でした。中古車市場にもビートが多く出回っていて、手の届く価格で販売されていました。自宅の近くで見つけたことが決め手となり、1992年式のビートを迎え入れることになりました。

――ファーストインプレッションはいかがでしたか?

すべてが新鮮でした。運転席のポジションの低さ、ステアリングの位置、視線の高さ。特に驚いたのがシフトフィールです。ショートストロークでカチッと決まる感じがたまらなかったです。

納車直後は、ちょっとしたハプニングもあったんです。給油口の開け方がわからなくて、ガソリンスタンドで右往左往してしまいました(笑)。実は、運転席ドアを開けたところにオープナーがあるんですが、まったく気づかなくて…最終的にガソリンスタンドのスタッフの方に教えてもらって、なんとか給油できました。

それから、同乗した親友が「漫画の『GTロマン』に出てくるホンダ・S800を買いに行く話みたいだね」と言ってくれました。あの漫画のなかにS800をオープンにして走るシーンがあって「寒くても楽しい」っていうセリフがあるんですけど、まさにそのままを追体験しているようでした。

――納車直後のドライブで印象に残っているエピソードを教えてください

納車1週間後くらいでしょうか。親友を乗せて、大型カー用品店へ行ったときのことです。

自宅から1時間ほど走って、ちょうど店の前の交差点で信号待ちをしていたんですが、突然エンジンがストールしてしまったんです。何度キーを回してもかからず、完全に立ち往生しました。仕方なく二人でクルマを押してなんとか移動し、押しがけも試みましたが、どうしてもエンジンが始動しなくて…。購入して1週間でレッカーという、まさかの展開になりました。
原因は、ビートの持病のひとつでもあるディストリビューターの故障でした。僕の車両はそのメンテナンスがされていなかったんです。修理はホンダのディーラーにお願いしました。

――ビートに乗ってから、カーライフにどんな変化がありましたか?

帰宅するとき、わざと遠回りしてしまうことがしょっちゅうです(笑)。ちょっとした買い物でも、暖機が中途半端だったら「もう少し乗っていこうかな」と、無駄に長く走ってしまいますね。

ビートはオープンカーなので、基本的にオールシーズン幌を開けて走っています。そのため、着る服もかなり変わりましたね。特に冬は、防寒に優れた上下のウェアやグローブが欠かせません。

雨が降っても慌てて幌を閉めることはなくなりました。通り雨くらいならそのまま走っています。こうして少しずつ余裕や寛容さも生まれたような気がします。

もうひとつ変わったのは、キャンプ道具の選び方です。
ビートは荷物を積むスペースがとても少ないので、軽量でコンパクトな道具を選ぶようになりました。テントはバイク用にしています。登山用の用品もコンパクトになって便利です。「ビートに積めるキャンプ道具を探す」も趣味のひとつになっているかもしれません(笑)。

――ビートでキャンプ!結構レアなのでは?

それが、意外といるんですよ。
先日も同じビートのキャンパーさんがすぐ近くにいたことをX(エックス)で知ったんですよ。現地でお会いしたかったなあ〜!

――移動中のドライブも楽しそうですよね

そうなんです。キャンプ場って、峠道を抜けた先にあることが多いんですよ。あえてそういう“楽しい道”を通っていくプランを考えることもありますね。海沿いの道を走りたくて、伊豆方面でキャンプに行ったこともあります。

――走ること自体が楽しいのは、やはりビートだからこそですね!

ビートは今のクルマにはない“純粋な操作感”がありますよね。パワステなし、ABSなし、バイワイヤなし。すべてがダイレクトなので、ハンドルを切るだけで楽しいです。

コーナリングではロールが多いですが、きついカーブもしっかり曲がってくれます。曲がっているときのダイレクト感は、クルマとシンクロしている感覚があります。運転していて本当に気持ちいいですね。

――ドライブするときは、どんな音楽を楽しんでいますか?

音楽にこだわりがあるわけではないので、そのときの気分でお気に入りの曲を流しています。「グランツーリスモ」のサントラを聴くことがあるのですが、実際の景色とゲームの映像がシンクロする瞬間があるとテンションが上がります。

音楽がなくても、オープンにして走るだけで世界が広がりますよね。
エンジンサウンドや排気音を聞いていると、ロードノイズはもちろん、自然の音や匂いも混ざり合って、ドライブ自体がひとつの演奏のようなものというか。

  • 西伊豆の「キャンプ黄金崎」にて

――素敵ですね!そんな愛車のこだわりのモディファイも教えてください

これまで少しずつ手を加えてきました。
エンジンまわりの強化ですが、エアクリーナーと専用エアクリBOXを装着し、スロットルにはファンネルを追加。点火系もプラグコードやイリジウムプラグに交換し、より安定した燃焼を狙いました。排気系はエキゾーストマニホールドおよびマフラー交換で、吹け上がりを向上させています。

冷却性能の強化においては、側面のエアダクトにインナーダクトを設置。エンジンルームの熱対策として、車体下部に導風板を追加しています。

走行フィールの向上としては、軽量フライホイールを導入して、エンジンレスポンスを向上。さらに、ブレーキホースとクラッチホースを強化タイプに交換し、ペダルの操作感をダイレクトにしました。軽量ホイールとハイグリップタイヤも装着しています。

外装は、デザインのアクセントもプラスしたつもりです。
軽量化と機能性を重視しつつフロントバンパーとトランクリッドを変更しました。ヘッドライトを含む灯火類はすべてLED化し、運転席のシートはフルバケに。ハンドルとシフトノブも交換しました。

――最も効果を感じたモディファイはどこですか?

それぞれ違う効果がありますが、意外なほど実用的だったのがフルバケットシートへの交換ですね。

ホールド感はもちろんですが、運転席後方に少しスペースが生まれたことで、荷物をバランス良く安全に積めるようになったんです。

カメラの三脚や敷物など長尺の荷物は、シート背面に沿うように入れて、走行中にずれないよう固定しています。視界を妨げないように積載方法を工夫して、バックミラーの視界も確保できるようにしています。

運転時の視界も確保しつつ、意外と長尺の荷物が積めるようになったのはうれしい誤算でしたね(笑)。

――しかし、大きな試練もあったとお聞きました

そうですね。実は、今から約15年前に廃車レベルの大事故を経験しているんです。
一時停止を無視した大きなセダンに突っ込まれて、左ヘッドライトから左ホイール付近にかけてフロントは完全に大破、全損でした。修理の相談をしても、当然のように「修理は無理ですね」と断られるような状態でした。

――それでも直そうと思ったのは?

あれだけの事故だったのに、僕は無傷だったんです。ぐしゃぐしゃになったビートを見て思ったのは、「このまま見捨ててしまうのか?」ということでした。

普通なら部品だけ剥ぎ取られて廃車になる。それがどうしても許せませんでした。自分の中に「必ず直す!」という、使命感に似た感情が生まれました。

――修理工場はどうやって見つけたんですか?

当時読んでいた「オートメカニック」誌から探しました。「グローバルジグ」というフレーム修正機を持っているショップがあれば直せるかもしれないと思い、グローバルジグを所有している修理工場を探したんです。

そこの社長さんがすごく良い方で「いつでも作業するところを見においでよ!」と言ってくださって、修理されている現場を間近で見守ることもできたんですよ。

修理はすごかったです。まず、バルクヘッドより前を切断して、当時まだ入手できた純正新品のボディパーツを組み直すことになりました。しかも、スポット溶接を増し打ちしながらフレームを再構築していくという手法を取ることになりました。

オープンカーはもともと剛性が低いので、サイドシル(車体の側面部分)にもスポット溶接を追加して補強。通常の修理よりもはるかに手間と時間がかかりましたが、アップデートされたビートとして蘇ることになりました。

  • 事故で歪んでしまったナンバープレートは自ら叩いて直したそう

――復活したビートを見たとき、どんな気持ちでしたか?

もう、感動しかなかったです。「また一緒に走れるんだ」という喜びでいっぱいでした。

実際に乗ってみると違いがわかりますね。サイドシルを補強してもらったことで、乗り降りの際の安定感が増して、クルマ全体の剛性が向上しているのを実感できました。

また、高速道路での車線変更や、インターチェンジのスロープを曲がるときの安定感が増しているのがわかりました。以前よりも四輪からの動きを鮮明に感じられるようになったようです。

――今後、リフレッシュの予定は?

ビートは製造から30年以上経っていて、どんなトラブルが起きてもおかしくない状態です。

だからこそ、各部の異音には気を配りたいですね。オイル類は3000キロを目安に早めの交換を心がけています。ある程度のリフレッシュ整備は自分で行うようにしていて、最近ではオルタネーター交換、リアハブベアリングの交換、リアナックルブッシュの交換をしました。

今後のリフレッシュプランとしては、まずショックアブソーバーの新調を予定しています。
幌も8年前に交換しましたが、オープンにする頻度が高いため、亀裂が入ってきているので張り替えたいですね。

ビートが長く元気に走り続けられるように、これからもこまめなメンテナンスを心がけていきたいと思っています。

一度は大破しながらも、生まれ変わったビート。あの事故を乗り越えて、ともに過ごしてきた年月が、Red Beatさんと愛車との確かな絆を育んできたのだと感じました。

これからも変わることなく、唯一無二の相棒としてあり続けるのでしょう。

【X】
Red Beatさん

(文:野鶴美和 写真:Red Beatさん提供)

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