「当時の輝きこそが重要」。フルオリジナルにこだわる日産・Be-1(BK10型)オーナーのカーライフ
「パイクカー」といえば、あなたならどんな車種を思い浮かべるだろうか?
パイクカーとは、既存のモデルをベースに、レトロあるいは先鋭化した外観に改造・販売されるクルマのことだ。例えば、トヨペットクラウンをモチーフとしたトヨタ・オリジンは、同社のプログレがベースだ。また、クラシカルなクーペの光岡・ラセードは、日産・シルビアがベースだ。
バブル絶頂期の1980年代後半、日産のパイクカーシリーズが人気を博したことを記憶している人も多いだろう。「3部作」として発表されたBe-1・パオ・フィガロは、同社のマーチがベースとなっており、レトロな外観でブレイクした。
今回は、この3部作の最初の1台、日産・Be-1(BK10型、以下Be-1)を大切に乗り続けているオーナーを紹介したい。
Be-1は1987年にデビューし、わずか1年間・1万台の限定生産だったモデルだ(実際には2ヶ月で完売してしまった)。ボディサイズは全長×全幅×全高:3635×1580×1395mm。排気量1000ccの初代マーチがベースとなっている。コンセプターの坂井直樹氏を起用したことが話題となり、アパレルや文房具とのコラボも展開された。余談だが、横浜スタジアムのリリーフカーとしても活躍した経歴を持つ。
「車検場へ持ち込むと、納税の窓口で『それ、Be-1ですよね?最近は見なくなりましたね』と声をかけられることもありますよ」。
そう話す貴重なBe-1のオーナーは56歳の男性。今まで日産・ローレルメダリスト(C231型)、マツダ・ファミリア(FA4型)、ボンゴブローニイ、トヨタ・ウィッシュなどを乗り継いできた。今はこのBe-1と、普段の足としてトヨタ・カローラ(AE101型)、ハイエースを所有している。まずはオーナーにクルマ好きの原体験を伺ってみた。
「あの頃は、高校を卒業したらまずクルマの免許を取ることが重要でした。休日はクルマを弄っていれば、それだけで最高でしたから。私が影響を受けたクルマは日産・スカイラインです。ケンメリのスカイラインGT-Xを兄が乗っていたのがきっかけで、スカイラインが好きですね。子育てが落ち着いたらGTーRを買えるだろうと思っていたのに、いざその時が来てみると、価格が高騰していて手が届かない状況になっていました(笑)」。
そんなクルマ好きオーナーのもとで暮らすこのBe-1は、1988年式。走行距離は13万5600キロを刻む。キャンバストップ仕様で、最終ロットに近い貴重な個体だ。イベント参加のときに乗る機会が多いため、普段は屋根付きのガレージを借り、大切に保管されている。
「もっとも気に入っている点は、このボディラインです。特にリアのラインが好きですね。そしてこのスピーカーは、前のオーナーの時代から付いているカロッツェリア製のものですが、おそらくは当時モノだと思います。こんなふうに、時代を感じられるところが好きです」。
とオーナー。この個体は何オーナー目になるのだろうか?
「このクルマは私で2オーナー目です。今から15年前に購入しました。現存するBe-1は何台くらいなのでしょうね。買った当時は周囲にもまだ何台かいましたし、ディーラーにもリアルに整備経験のあるスタッフがいましたが、先日久しぶりに行くとBe-1にふれたことがない若いスタッフばかりでした。ただ、構造は簡単ですから、経験がなくても整備はできると思います」。
続いて、この個体との出会いの経緯を伺った。
「1986年の東京モーターショーで見たのをきっかけに抽選に2回応募したんですが、申し込みが殺到していたため、2回ともはずれてしまいました。まあ、今回ダメでも熱りが冷めれば手放す人が出てくるはずなので、気持ちは持ち続けようと思ったんです。それから年月が経ち、ようやく程度の良い個体をネットオークションで見つけました。珍しいMT仕様ということもあり、多少無理をしてでも手に入れたいと思いました」。
「偶然にも出品者が近所の方だったので、すぐに直接連絡を取りました。現車確認はしたものの、すでにオークションに出品されていた規約上、他の入札者と競り勝たなくてはなりませんでした。ようやく落札でき、満を持して現金を手に受け取りに行ったことを覚えています。納車の帰り道、実際に運転するのは初めてだったので、ワクワクしましたね。納車は3月だったので、混みあう車検場でナンバーを取得したこともいい思い出です」。
そんなエピソードを伺いながら、あらためてオーナーのBe-1を眺める。30年の年月が経っているとは到底思えない。ボディの輝きはもちろんのこと、ウインカーにもくすみはない。ワイパーアームはどうしても色落ちしてしまうが、結果それが良い「味」としてクルマ全体を引き立てていた。普段のメンテナンスはどのような方法で行っているのだろうか?
「磨きすぎないようにしています。キャンバストップは基本的に開けません。洗車をして水滴を拭き取るときにだけ開けるくらいです」。
「一時期、フルレストアを考え、旧車に詳しい人からアドバイスをもらったことがあります。そのときに『年式相応の輝きが重要。当時の塗装技術は、現代で再現できないので再塗装をすれば当時の輝きを失ってしまう』と言われたことから、年月を重ねたからこその美しさに、こだわりを持つようになりました。飛び石も錆もそのままにしていますし、タッチペンも使いません」。と、熱いこだわりを語るオーナー。今後、維持の要となる部品の供給状況は?
「もともとマーチがベースなので、共用部品は豊富です。こだわらなければ社外品も揃います。ウォーターポンプも社外品で手に入りますから。ただ、Be-1にしかないメーターやハンドルは、この個体を購入した当時でかなりの欠品状態だったため、危機感を覚えてあらゆる部分のゴム類と、新品のキャンバストップをストックしています。普段からアンテナを張り、ストックのない部品はネットオークションで見つけてこまめに購入するようにしていますね」。
最後に、今後愛車とどう接していきたいか「決意表明」を語ってもらった。
「このBe-1はまず売らないでしょうね(笑)。何かの縁で来てくれたクルマですから。私の感覚は、手に入れたという結果がベストではありません。手放せば2度と戻ってこないことと、同じモノはひとつとして存在しない。そんなところに価値を感じています。塗装も然りで、塗りなおしてしまえば当時の輝きは2度と戻りません。ですから、ずっとオリジナルを維持していくつもりです。ゆくゆくは保存用と普段乗り用で2台体制にできれば理想ですね。なかなかナンバー付きの個体は見つからないんです」。
近い将来、2台体制も実現しそうな予感がする。オーナーは日々、部品収集や理想の個体にアンテナを張り続けているので、いつか朗報が舞い込むのではないだろうか。今後はイベントにも積極的に参加していくとのこと。貴重な個体を今後も維持し続けてほしい。
毎回感じることがある。それは「クルマがオーナーを選ぶ」という不思議な現象が本当に起こると確信せざるを得ないのだ。
Be-1のオーナーもそうだが「自分の信じた1台」と暮らす人には、強い引力でクルマを引き寄せている印象がある。そんなオーナーたちと愛車のストーリーを今後も紹介していきたいと思う。
(編集: vehiclenaviMAGAZINE編集部 / 撮影: 古宮こうき)
[ガズー編集部]
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