7年越しで構造変更へ。1971年式スバル・R2 GL改(K12A型)とともに手に入れた理想のカーライフ

ここに、イエローの愛らしいクルマが佇んでいる。スバル・R2 、1969年から1972年まで、わずか3年間しか生産されなかったものの、旧車ファンの間では今なお熱狂的なファンに愛されている1台だ。

このR2は、美しいコンディションを保っているだけではない。「本気の一生モノ」を感じないだろうか。今回の主人公は48歳の男性。このスバル・R2 GL(K12A型、以下R2)は所有して22年になるという。幼少期からクルマが好きで、18歳の頃からさまざまなクルマを乗り継いでいるという。

「マツダ・ファミリアXG、マツダ・カペラカーゴ、フォード・トーラスワゴンをメインカーにしながら、サーキット用のトヨタ・スプリンターセダン(AE92型)、ダイハツ・ミラターボ(L70系)、トランスポーターとしてダイハツ・ハイゼットなど、旧車のセカンドカーを含めて10台以上を乗り継いできました。今は、このR2とスバル・レックス GSR(K21型)、1975年式マツダ・シャンテ、2006年式三菱・ミニキャブそして普段用にホンダ・フィットを所有しています。結婚を機にかなりのクルマを手放したと思っていたはず…なのですが、気がつけば、今も旧車にどっぷりです(笑)」

R2は、スバル360の後継モデルにあたる。「ハード・ミニ」というキャッチコピーが与えられ、長く続いた好景気を象徴するかのように、華やかでスタイリッシュなイメージが与えられた。ボディはスバル360のモノコックボディを継承。富士重工が培ってきた航空機技術が注がれ、より洗練されつつタフなボディに仕上がっている。

オーナーの愛車は1971年式の前期型。「GL」という最上級グレードだ。このグレードがなくなったあとの最上級グレード「スーパーデラックス」よりも高級感があるように思う。この「GL」、実は後期型にマイナーチェンジする直前に、ごく少数が生産された貴重なグレードでもあるのだ。

ボディサイズは全長×全幅×全高:2995x1295x1345mm。搭載される356ccの強制空冷2サイクル直列2気筒エンジン(後期型には水冷エンジンも追加)は、最高出力30馬力を発生した。駆動方式はRRのため、前期型のフロントにはグリルがない。そのため、丸いヘッドライトや丸いウインカーが映え、愛らしい顔つきも人気を博した。

オーナーの個体は空冷から水冷へと構造変更を行っている「公認車」だ。ファンネルの奥にはネットが掛けられ、吸気部分もしっかりと保護されている。心臓は、スバル・レックスGSRの水冷エンジンに換装されているほか、駆動系、ドライブシャフトまで、ほぼ自動車整備士免許を持つオーナーの手によって組み上げられている。走行距離はトータル5万8000キロで、乗り始めてからは1万キロほどだ。

まずは、オーナーに「人生を変えたクルマ」について尋ねてみた。

「感化されているクルマは、私が生きてきた時代それぞれにあるんですよ。スーパーカーも好きだし、ポルシェやビートルといった丸いフォルムのクルマも好きです。運転免許を取ってから同級生たちがアメ車に乗り始めると、50年代のアメ車に憧れました。でも人生を変えたのは、やはりこのR2なのかなと思っています」

R2はなぜ、彼のカーライフを変えたのだろうか。その経緯と、惜しみなく愛情が注がれている “世界に1台だけの”R2を紹介していこう。

オーナーがR2と出会ったきっかけは何だったのだろうか?

「26歳の頃、勤務先で別の営業所へ転勤しました。そこに旧車好きな先輩がいて、連れて行かれた360ccの専門店で、このR2に出会いました。程度は良くなかったのですが、一瞬で欲しいと思ってしまったんです。もともと360ccの旧車は形が好きで、見るたびに『いいなあ』と思っていたんですね。実は18歳の頃に一度、サビだらけのホンダ・Zを購入して維持に挫折した経験があるんですが、そのとき『旧車は絶対に買わない』と心に決めていたにもかかわらず、3日後には購入の意思を伝える電話をしていました。このとき、同時に所有していたミラターボ、スプリンターセダン、71トレノの3台を手放して手に入れました」

「走り」専用のクルマをすべて手放してまで気に入った理由は?

「子どもの頃にイメージしていた、黄色で車高短、しかもワイドホイールを履いた理想のスタイルを叶えたクルマだったので、手に入れるなら今しかないと思いました。22歳だった当時はサーキット走行をしていまして、タイムアップの停滞期でもありました。さらに20代半ばでサーキットを卒業する人が多かった時期でもあったので、なおさらモヤモヤしていたのでしょう」

このクルマを所有して、変化したことは?

「人との繋がりを感じるようになったことですね。専門店のスタッフと仲良くなったり、同じクルマ、同じエンジンを積んでいる仲間ができたことです。狭いネットワークですから、仲間とは『おたがいさま』を大切にしていますね。部品も助けあって入手していますし、トラブルでは同じ苦労を経験しているので、情報も惜しみなく共有できます。オークションで部品の落札を競りあっているのが、実は仲間内だったということもしょっちゅうです(笑)。もしR2に出会わなければサーキット走行を続けていたかもしれません。それに、人との繋がりをこんなに大切に思うことはなかったように思います。結果的に、私が『軌道修正』をするための出会いだったのかもしれません」

この個体のモディファイで苦労したことは?

「個体のコンディションが良くなかったんです。マフラーは穴が空いていましたし、オーバーヒートもしました。かろうじて車検が残っていたという感じです。試行錯誤を重ねながら、レストアに7年近くかかりました。特に苦労したのが水まわりです。いよいよ構造変更しようとしていたときに、ラジエーターから水漏れが始まり、ラジエーターを修理したらすぐウォーターポンプが壊れてしまって…。部品がなかったので『部品探しの旅』に出て半年後、ようやく構造変更にたどり着けました」

ウォーターポンプの入手が半年後になるほど、部品供給には苦労するのだろうか。実状を尋ねてみた。

「生産期間が3年間という短命なクルマでしたので、とにかく部品がないです。ウォーターポンプなんて、オークションに出品されているのは一度も見たことがありません。ヘッドガスケットは、型から起こして作ってもらったんですよ」

こだわって力を入れた点は?

「ホイールですね。リアホイールは特注です。ダンロップのレーシングタイヤ『G5』を履くために特注したといっても過言ではありません。10インチの合わせホイールになっていて、サイズは表裏ワイド加工で合わせて6.5Jです。普通に履くとインナーフェンダーに当たってしまうので、加工していきました。タイヤがぷっくりと見えないようにホイールを太くしましたし、ブレーキまわりに少し干渉していたので、少しずつ調整しました」

こだわりのポイントは多々あるが、オーナーがもっとも気に入っているポイントはどこなのだろうか?

「スバル・レックスGSRの水冷エンジンに載せ替えてあるところです。おそらく、R2の空冷ボディにこのエンジンを載せているのは、世界に1台のみではないかと思っています。乗りやすくて街乗りも楽ですし、空冷みたいな熱ダレがないので、安定した走りができます。トルクがあって下からパワーが出るので、非常に扱いやすいです。アイドリングからクラッチミートできますよ」

旧車は「燃費が悪い」というイメージが先行してしまっているが、実際の燃費はどうなのだろうか。

「普通に乗っていればリッター10~11キロくらいでしょうか。全開走行しないかぎり、普通に走行するぶんであれば、余裕でリッター10キロをクリアできますね」

日頃のメンテナンス方法は?

「基本的に、天気が良ければ週末に1回はエンジンに火を入れるようにしています。近所をひとまわりしてから、水を使わずに車体を磨いて、コンテナガレージのなかで部品交換や調整などの作業を始めるのがいつもの流れです。雨天や強風の日は乗りません」

最後に、このクルマと今後どう接していきたいかオーナーに伺ってみた。

「一生乗り続けていきたい宝物です。レストアをするまでは、動かなくなっても持っておくつもりでしたし。しかし、無事に『起こせた(乗れる状態になった)』ので、今後も維持できればいいかな……。ほぼ完成形に到達したので、あとは内装の色合いを統一したいと思っています。それから、旧車趣味も続けていきたいですね。新たな1台も見つかれば欲しいですが、R2は何があっても手放さないでしょう。人生の支えという存在になっていますから」

旧車のオーナーを取材するたびに感じるのだが、旧車の維持は、決して経済的に豊かなだけでは成り立たない。そこに関わってくるのは、必ず人との繋がりがあり、旧車維持へのモチベーションにも繋がっていくのではないだろうか。

余談だが、この取材の後にオーナーのコンテナガレージを訪問した。室内は、Hot Wheelsをはじめとして、アメ車を中心にしたミニカーが一面に敷き詰められ、さしずめ秘密基地のような「男のロマン」が詰まった空間になっていた。コンテナガレージに自分だけの空間。アイデア次第で、カーライフの楽しさは無限に広がるのだ。

(編集: vehiclenaviMAGAZINE編集部 / 撮影: 古宮こうき)

[ガズー編集部]

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  • スバル R2
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